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時かける少女  作者: 大橋むつお
61/90

61・スタートラック・1

時かける少女・61 

『スタートラック・1』         


 昭和二十年四月、前の月の大空襲で肺を痛めた湊子みなこは、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメてしまった。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……目覚めると、今度は西暦2369年であった。

 


 古めかしい音声メールの着信音で目が覚めた。


――お早うミナコ、あなたのバイトが決まりました。最終確認です、引き受けますか?――

「もちろん、短期で程よいバイトなんて、そうそうないから」

――それでは、58分後に迎えにいきます。経費は直ぐに振り込まれます。身軽な服装で待っていてください――

「オオシッ!」


 跳ね起きるとミナコは、パジャマのまま浴室に向かった。


「お早う、お母さん」

「お早う、今朝は早いのね」

「うん、バイトの音声メールで目が覚めた」

「バイト、どのくらい?」

「一晩、明日の昼には帰ってくる」

「怪しげなバイトじゃないでしょうね?」

「ぜんぜん、ギャラ安いし……」


 あとの言葉は浴室の中で、母親には聞こえなかった。

 

「有馬温泉、銀泉」

 そう呟くと、瞬間で浴槽は有馬温泉の銀泉で満たされた。

「この春休みは、本物の温泉に入りたいなあ……」

 浴槽に入ると温泉の感触はした。でも、これはバーチャルで、本物の湯ではない。今世紀の初めに開発されたバーチャルウォーターで、五感に働いてお湯と感じさせる。指定をすればレーザー滅菌もやってくれ、昔のように、髪や体を洗う必要がない。

「シャンプー、リンス、オート」

『朝寝坊ですか?』

 バスが余計な事を言う。ミナコはバスを寡黙に設定しているのだが、その寡黙なバスが声を出すのだから、ミナコには、かなり珍しい。いつもはバーチャルで時間を掛けてシャンプーをする。

「バイトが決まったの、あと42分で迎えが来るぞ(^^♪」

『なるほど』

 寡黙設定のバスは、それ以上余計なことは言わなかった。


 地球の水の使用は300年前の1/5ほどに減っている。火星の地球化が大幅に遅れている。特に、大気の完成が遅れ、いまだに満足に雨も降らない。だから人間の飲料水、作物や家畜に必要な本物の水は地球から輸出している。

 もう火星の人口は30億になろうとしている。反重力エンジンのタンカーが毎日莫大な量の水を送っている。だから地球は生活用水の大半をバーチャルウォーターに頼らざるをえない。本当は水の感触なんかなくとも、体も食器も洗えるし、学校のプ-ルだって、重力コントロールで、水無しで泳ぐこともできるが、人間は感覚の動物なので、あえてバーチャルウォーターにしたほうが健康にいい。


 オートにしたので、髪を乾かすという女性ならではの楽しみもないが、まあ、バイトのためだ、仕方がない。

 創業400年を超える永谷園のお茶漬けに野沢菜を載っけて流し込み、レーザー歯磨きに2秒、トイレに5分、スエットジーンズに、ブラ付きのキャミ、その上にルーズブラウスを着て出来上がり。メイクは迎えの車……と、思ったら、きっちり迎えの車が来た。


「お早う、乗って」


 犬が喋った。


「わりと可愛いじゃん。オレ膝に乗っかってもいい?」

「だめ、ポチは助手席。どうぞ、後ろに乗って。あたしコスモス。ボスのアシスタント、よろしくね」

 あの音声メールの声だ。350年以上前のアイドルの声に似ている。

「ドッグロイドですか?」

「ええ、ボスが好みで。ちょっとニクソイ設定になってますけど、意識的じゃなくて育て方の問題なんで、ごめんなさい。あ、あたしはガイノイド(女性型アンドロイド)いずれ分かることだから」

「そうなんですか。わたし林ミナコです。ミナコはカタカナ。この4月から大学なんで、それまで小遣い稼ぎしようと思って。あ、メイクしていいですか?」

「ええ、どうぞ……いい人ねミナコちゃん。履歴データでわかってることなのに」

「喋ることで、差別意識をごまかしてんだ」

「これ、ポチ。彼女の優しさよ。ポチもあたしも言わなきゃ本物と区別がつかない。びっくりして当たり前。あたしたちの方が違法なんだから」

「いえ、そんな……」


 コスモスとポチの頭にロイドリングが、回り始めた。自分のせいかと思ったら、交差点を曲がったところにお巡りさんが立っていた。ロイドがロイドリング無しで戸外に出るのは違法である。


――でも、どうして、お巡りさんが居るって分かったんだろう――


 かすかな疑問を持ったが、直ぐにメイクに集中した。反重力車とはいえ揺れる車の中でメイクするのは集中力がいる。


「わ!」


 気が付いたらポチがルーズブラウスの下から潜り込み、大きく開いた襟元から顔を出していた。



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