43・女子高生怪盗ミナコ・9
時かける少女・43
『女子高生怪盗ミナコ・9』
こんな簡単に会えるとは思えなかった。怪盗ミナミはハチ公前で気軽に声をかけてきたのだ。
「蟹江さん、時間通りね」
「え……ミナミ?」
ミナコは学校帰りで、ここを通っただけで、別にミナミと待ち合わせていたわけではない。それどころか、どうやったらミナミに連絡がとれるか思案しながら歩いていたところなのである。
「あなたの、そういう無鉄砲なところと計画性の無さが好きよ」
「隙って意味?」
「素直にとってちょうだい」
そう言いながら、手を上げて一台の車を停めた。タクシーでも、仲間の車でもないことは止められたドライバーの表情で分かった。
「あぶねえじゃねーか、いったい……どうぞ、後ろのシートに」
ミナミは、一瞬で、ドライバーのニイチャンに催眠術をかけたようだ。
「こういうテクニックも持ってるのね?」
ミナミはフェリスの制服を着ていた。ミナコは青山学園である……ほんとうに。
車は、六本木のIホテルの前で止まった。
「五時半になったら、迎えに来て」
ニイチャンにそう声を掛けると、ホテルの中に入り、フロントに向かった。
「池之宮です」
その一言でキーが渡された。ミナコは、初めて正体不明な人間に出会った気がした。
「不思議な感じなんでしょ、わたくしのこと?」
「あなたみたいなの初めてだから」
「わたくしは池之宮南、ご記憶くださいな」
「一応ね」
「うふふ、よくってよ」
「わたくし、あなたと組みたいの」
ドアを閉めるなりミナミは切り出した。部屋には、お茶のセットが置かれていた。
「その前に、お茶いただいていいかしら?」
ミナコは、ストレートで紅茶を一口だけ含んだ。
「毒も、変な薬も入ってないでしょ?」
「それは、あなたの表情を見れば分かるわ。いままでの仕事もパフォーマンスなのね」
「そう、わたくしを売り込むためと、蟹江ミナコさんを誘い出すためのね」
「なにか……大きな仕事を計画してるような感じがするわ」
「そう……世の中には、わたくしたちより、もっとスケールが大きいけど、許せない泥棒さんたちがいるわ」
ミナコは、一時間ちょっとミナミの話を聞いた。デビューには、ちょうどいい仕事に思えた。
五時半きっかりに、ホテルのアプローチに出ると、さっきの渋谷で掴まえた車が入ってきた。
「今度は国会議事堂前に」
そう言うと、ミナミはカバンから衣装を出し、瞬間で議員秘書、それも革新系のそれになった。
「じゃ、わたしも……」
ミナコも瞬間で、同じように衣装を替えた。どちらも変装にかけては同等の力を持っているように思えた。
議事堂に入ると、そのまま予算委員会室の前に向かった。
ちょうど休憩になったようで、議員達がぞろぞろ出てきて、記者達がぶら下がろうと、後を付いてくる。
「先生、お迎えにあがりました」
ミナミが声を掛けたのは庶民党の党首辻貴子であった。
「あ……ごくろうさま」
そう言わせて、人だかりの中から、辻貴子を引っぱり出したが、誰も気づかず、どこから出てきたのか記者達はカーネルサンダースの人形相手に質問を浴びせていた。
車は、辻貴子を挟むようにして後部座席に三人を乗せ、羽田空港に向かった。
「やっぱ、あなたの力がなきゃ、ここまで上手くいかなかった。カーネルサンダースは傑作だったわね」
「え、あれ、あたしがやったの?」
「そうよ、あなたには気づいていない力がまだまだあるのよ」
車は、羽田空港のロータリーに入っていった……。




