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時かける少女  作者: 大橋むつお
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40・女子高生怪盗ミナコ・6

時かける少女・40 

『女子高生怪盗ミナコ・6』       


 



 琴子の前に出た五十がらみの男が簑島工業の工場長と名刺交換をした。


 名刺には、山城繊維(株)工場長 郷田源一 と書かれ、口を一文字に結んでいる。



「うちのカーボン繊維は、どんなガスバーナーでも、穴も開きません、焼き切ることもできません」


 ニコリともせずに、昭和の叩き上げ工場長は胸を張る。


「うちのガスバーナーは、どんな金属でも穴も開き、焼き切るのはもちろん、蒸発させてみせます」


 簑島の工場長は、相手が荒川の町工場であることもあり、余裕の笑みをこぼした。


 琴子は、いつになく緊張し、顔を青ざめさせていた。


「郷田さん、大丈夫……」


 郷田は、額の汗を拭い、黙って頷いた。



 このバーサスには裏がある。



 簑島工業のバックには、四菱産業が付いており、米軍の新鋭戦闘機F-35の主翼のカーボン繊維を受注の一歩手前まで持ってきていた。

 そこに思わぬ対抗馬が現れた、荒川で細々と金属と繊維という畑の違う仕事をコツコツと続けてきた山城工業である。山城工業は以前は中堅の会社であったが、保科産業の株操作で三億の赤字を出して倒産。以来、荒川に引っ込んで、細々と下請けの仕事に甘んじてきた。


 しかし、郷田工場長がコツコツ開発してきたカーボン繊維をアメリカ軍が目を付け、新鋭戦闘機の素材にしようとしていた。お陰で、それまで四菱の採用は、ほとんどゴワサンになりかけてしまったのだ。


 そこで、四菱はスポンサーとなり、『バーサス』という番組を立ち上げた。


 全ては、山城繊維を引き出すためであった。


 簑島工業の、試合会場には、様々なカメラや検知機が仕掛けてあった。全ては、山城のカーボン繊維の特製や、性能を知るためである。


 山城繊維の社長は悩んだ。


 勝てば、その情報は四菱に筒抜けで、そのコピーを、格段に安い価格でアメリカに提供し、勝利され、仕事を持って行かれる。

 わざと、劣った製品を持っていけば、プラグマティズムのアメリカは、四菱を躊躇無く選ぶだろう。


 どちらに転んでも、山城繊維に分がない、必敗の試合であった。


 ミナコは、そんな事情も知らず、テレビスタッフに紛れ、爺ちゃんに言われた通り「負けた方の素材」を盗む準備をしていた。


「さあ、ガスバーナーのトップメーカー簑島が、職人気質の山城繊維を焼き切るでしょうか!? はたまた伝統の日本の職人が、簑島のガスバーナーの灼熱の炎に耐えるでありましょうか!? 勝負は三十分。いよいよのスタートであります!」


 MCの元気なだけで軽薄な声で試合は始まった。


 ミナコのインカムに付けられたカメラから、映像はライブで謙三爺ちゃんのもとに送られている。


 五分、十分、二十分たっても勝負はつかなかった。


 バーナーは白に近い炎を山城の炭素繊維に吹き付け、山城の炭素繊維は、真っ赤になりながらも、よく耐えていた。


「いやあ、まいりました。ここまで強靱な相手だとは思いませんでした」


 簑島の工場長は、悔し涙にくれる社員を尻目に、にこやかに握手の手を差しのべた。


「汚えぜ、四菱。これでスペックは、全部盗めたわけだ。日本人も地に落ちたもんだ。郷田さんよ、あんたの技術者根性は立派だけどよ……ん、郷田さん、その目は……」


 郷田は、晴れ晴れとした勝利者の顔をしていた。琴子一人が落ち込んでいる。


「そんなら、そーと言ってよね! このガスバーナー、バラして持ってくんの大変だったんだからね!」


 ミナコは、頭に来ていた。


「あ、すまねえ。そんなものはいらねえよ」


 と、帰るなり爺ちゃんが言ったからである。


 謙三爺ちゃんは、こう思っていた。


 郷田は秘密を守るために、ニセモノを持ってきて、わざと負けるだろうと。


 負けたら、その屑をミナコに回収させ、盗品の成分分析屋に調べさせるつもりだった。そして、渡りを付けた米軍の関係者にニセモノと知らせるつもりだった。


 ところが、郷田の、あの晴れ晴れとした顔を見た爺ちゃんはピンと来て、米軍の関係者に連絡をとった。


「山城繊維は、新製品のサンプルを送ってきたよ。試験中だが、前のより二割以上はいいスペックだ」


 そう、郷田は、現用のものより優れたものを開発し、送ってから、現用品で勝負に出たのである。

 爺ちゃんは、ひそかに、このことを保科産業の社長にも知らせてやった。


「ハハ、さすが山城のとこの工場長だ、取引銀行に言って、山城に融資するように言っときますよ。しかし、これで、ますますですなあ」


「何が、ますますだい?」


「ま、それは、いずれ」


「バッキャロー、保科のセガレなんかにミナコをやれるか……」


 そうボヤキながら、爺ちゃんは風呂に向かった。


「もう、どうしてロックしてんのに入ってくるかなあ!」


 ミナコが前を隠しながら、いつものように怒った。


「こんなの、無意識で外しちゃうぜ。しかしミナコも、気配消して風呂に入れるようになったんだなあ」


「この、エロジジイ、知ってたくせに!」


 と、いつもの祖父と孫娘であった……。




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