39・女子高生怪盗ミナコ・5
時かける少女・39
『女子高生怪盗ミナコ・5』
なんで、負けた方の素材を盗まなきゃならないのか分からなかった。
VSというテレビ番組の収録に潜入して、絶対穴を開けるガスバーナーと、どんな高温でも穴の開かない金属の勝負を見極め、金属の方が負けるはずだから、それを頂戴してこいというのが爺ちゃんの指令だった。
それも、本体ではなく、溶けて飛び散ったカケラを持ってこいという。
まあ、先日の保科クンのパソコン操作でも完敗しているので、文句は言えない。
VSは、人気のある番組で、相反する技術を持った会社の製品を力比べして、どちらが勝つかをゲストでアテッコするというシンプルな番組。日本の技術者の中では人気のある番組だ。
先日は、誰にも開けられない鍵と、どんな鍵でも開けてしまうという鍵開け世界一名人の一騎打ちだった。
ミナコは爺ちゃんと二人で柿の種をアテに、ノンアルコールビール並べてお気楽に見ていた。
「こんな、若僧に開けられる鍵じゃねえよ。鍵田コーポレーションは、昔は角鍵って言ってよ、オイラ達の稼業の天敵だったもんよ」
予測通り、鍵田コーポレーションの勝ちだった。勝った若いエンジニアは、とても得意そうだった。
と、そこに飛び入りが入った。
「あ、藤三爺ちゃんだ!?」
「変装もしねえで……」
そして、藤三爺ちゃんは、悪びれもせずに、正体を明らかにしてしまった。
「シキテンの藤三ってケチな泥棒でやしたが、この春にお務め果たして、引退いたしやした。まあ、年寄りの冷や水と思って、やらせて、おくんなさい」
スマホで検索したMCのニイチャンは声を震わせて紹介した。
「山口藤三さんは、戦後の三大盗賊と言われ、開けた金庫は……」
「能書きはいいよ、ニイサン。それより、条件を変えておくんない」
「じゃ、規定は、五分ですが、八分というところで」
「いや、三十秒、いまからでいいよ」
「では、スタート」
「でも、なんだね、レギュラーのAKRの小野寺潤ちゃんは、一本気なとこがいいね。おいらも、もう二十年若けりゃ、ほっとかないぜ……」
「あの、藤三さん。もう始まって……」
「鍵なら、もう開いてるよ」
現場も、スタジオも騒然となった。藤三爺ちゃんは、MCと話していただけで、画面で見た限り、鍵に触りもしていない。
「え、ええ!」
「角鍵も、こんな甘い鍵つくってちゃ、いけねえなあ」
「藤三アニキ……」
爺ちゃんは、こぼれ落ちる涙を拭おうともしなかった。
「すごいね、藤三爺ちゃん……」
「てやんでい、天下に面を晒したってのは、廃業宣言と同じだい。お、おれがなんのために二年六月塀の内側にいたか……」
そのあと、テロップで、鍵田コーポレーションは藤三を特別顧問に雇ったと出てきた。
「ありがてえ、これで、遅ればせながら孫を大学に入れてやれやす」
藤三爺ちゃんは、目を赤くして喜んでいた。
ミナコは、あの雪の日、A刑務所の近くで別れた美代子の幸薄い顔が浮かび、まるで姉の門出を喜ぶように上気した。
そして、ミナコはバーサスの次の収録場所、簑島工業の敷地に居た。相手の会社は、まだ分からない。
やがて、古ぼけたセダンに乗って、対決の相手が現れた。
社長は、五十手前のおじさんだったが、後ろに付いている女の子を見てびっくりした。
正隆のもう一人の彼女、山城琴子ではないか……!




