32・プリンセス ミナコ・14
時かける少女・32
『プリンセス ミナコ・14』
昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になっ。てしまった……今度は2013年の大阪から始まった。なんとミナコはプリンセスに!
ローテは、モナコとの国境近くのミナコ海岸、その岩場に鎖で括りつけられていた。
ゲリラたちにも思いやりがあるのか、ローテにはビーチパラソルが掛けられている。
「あのパラソルは、思いやりかしら?」
「いや、きっとなにかの仕掛けがされているのでしょう」
岩場近くの林に隠れながら、ダンカン大佐が言った。背後には五十人の特殊部隊が控えている。
「お察しの通り、ローテ嬢の日焼けに気を遣うほど親切じゃない。脱水症状を起こされては気の毒なんで、スポーツ飲料のボトルが括りつけてある。ローテ嬢がいつでも飲めるように口元までチューブが伸びている」
林近くの岩場の亀が喋った。しかし何匹も甲羅干しをしているので、どの亀がマイクを仕込んだダミーか分からない。
「それから、パラソルの上部には爆薬が仕掛けてある。不用意に近寄れば、ローテの首が吹き飛ぶ」
「くそ!」
「ダニエル君も聞こえただろう。林の部隊が陽動であることぐらいは、お見通しだよ」
向こうの大きな岩陰で、シュノーケルの用意をしていたダニエルの部隊も停止せざるを得なかった。
「おまえたちの要求は何だ!?」
居場所がばれたダンカン大佐は、開き直って真っ正面から聞いた。
すると、ローテの横の二つの岩の間に横断幕が引かれた。
――王制の即時廃止、民主選挙による共和制の樹立!――
「騙されてはいけませんよ。やつらの後ろにはC国の情報機関が付いています。やつらの狙いは、ミナコ湾の海底にあるレアアースが目的なんです。王制打破は名目にすぎません。これだけの仕掛けを見てもわかるでしょう」
ダニエルが、敵に聞こえないよう、ヘッドセットを通じて連絡してきた。
「ちょっと、なんだかローテの足許が水に漬かってない?」
「お分かりでしたか、今日は大潮なので、水かさは増していくばかりです」
「満潮と重なると、どのくらいまで水位が上がるの?」
「ローテ嬢が括られている岩は波の下になります……」
「ということは、ローテは溺れ死ぬってことじゃない!?」
ミナコは、思わず体が動いてしまった。
「いけません。やつらの狙いはミナコ王女の命そのものなのです。王女とローテ嬢の両方を一度に始末して、政権を握るのが目的なのです!」
「でも、ローテが!」
「いけません!」
そのまま数時間が過ぎ、ローテは胸のあたりまで水に漬かりぐったりし始めた。
「もう、放っておけないわ!」
「姫、我々も手をこまねいてはおりません。衛星で状況は掴んでおります。やつらの岩陰の配置もおおよそ分かりました。間もなく空軍のジェット機がミサイル攻撃を行います」
「ローテは、どうなるの!?」
「スナイパーに、反対側の岩場で練習させました。三人で同時に撃ちます。一発は必ずパラソルの柄に当たります。そのあとは、ダニエルの部隊とNATO軍、それに我々の部隊が同時に攻撃をかけます」
「そう、ごめんなさい。ただじっとしていただけじゃないのね」
「繊細かつ大胆にが、ミナコ軍のモットーであります」
そして時間になった。
微かな爆音が聞こえたかと思うと、ミナコ空軍のジェット機からミサイルがぶち込まれ、三人のスナイパーはパラソルを吹き飛ばしただけではなく、ローテを縛めていた鎖も吹き飛ばし、陣地からは歓声があがった。
三つの部隊は三方向から攻撃をかけた。
だが、ローテは水に浮いたままピクリともしない。
「しまった、やつらドリンクに緩い睡眠薬をしかけていたんだ!」
敵の陣地からの応戦も激しかった。やはり衛星の偵察だけでは分からない配置や仕掛けがしてあるようだった。
「ローテ!」
気がついたらミナコは海に飛び込んでいた。
「王女を撃たせるな!」
猛烈な援護射撃の中、ミナコはローテのところまで泳ぎ着き、ローテの顔を張り倒した。
「あ……わたし」
「気がついたら、さっさと逃げて!」
「動くな!」
岩の隙間から銃口とオッサンの顔が浮かんだ。
え……!?
オッサンの顔を見て、ミナコは動けなくなってしまった……。




