表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時かける少女  作者: 大橋むつお
3/90

3・時空の狭間

  時かける少女・3 

『時空の狭間』           


 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子みなこは、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメる。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……!




 湊子は駆けていた。数字で出来た道が、後ろの方からどんどん崩れていく……!


 訳は分からないけど、あの数字の崩壊に追いつかれたら、何もかもが終わって、自分がゼロになってしまいそうな恐怖感で、ひたすら走っていた。

 服装は、いつのまにか、病着ではなく女学校のセーラー服になっていた。それも、勤労動員のときのモンペではなく、スカートだった。自分が一番自分らしい姿であることに瞬間安心した。そして、自分の服装から前に目をやると、数字の道はゆっくりと捻れて上下が逆さまになった。

「メヴィウスの輪だ!」

 同じところをぐるぐる回って、それが輪になって、一点で捻れ、上下のない循環世界。

 それにしては、前の道は整然と数字が並んでいる。でも後ろの道は、どんどん崩れて、その崩壊は止まらない。


「飛べ!」


 一瞬そんな声がして、湊子はジャンプした。

 空中に大きな時計が横たわっていた。あそこに掴まらなくっちゃ……あと少し、あと少し……すると、時計の上から白い手が伸びてきて湊子の手を掴んだ。思いのほか強い力で引き上げられると。十二時のあたりに湊子が居た。


「か、鏡?」

「よくご覧なさい。あなたのいるのは六時の位置、わたしは十二時。鏡なんかじゃないわ」

「あ、あなたは……?」

「時間の管理人」

「管理人?」

「そう、あなたが傷つけた時間のね」

「わたしが傷つけた?」

「そうよ、死神相手に、死と時間の論理をすり替えた。だからあなたの時間は崩壊しているの」

「……どうして、わたしと同じ姿形なの?」

「今のあなたには、自分しかないからよ……分かってないようね」

「分からない、わたしは、ただ、あの人よりも早く死ぬわけにはいかなくって」

「あの人って……だれ?」

「え……えと……」


 湊子は、その人の姿も名前も思い出せなかった。


「思い出せないでしょ。あなたの時間は崩壊しているんだから」

「分かるように説明して!」

「例えば、レコードに傷を付けたようなもの。レコードの針は、そこに来ると跳んでしまい、何度も同じところを再生する」

「壊れたレコード……」

「実際は、もっとややこしい。時間というレコードに傷を付けたら、針はとんでもないところに跳んでしまう。共通しているのは、十七歳という年齢とミナコという名前だけ……時空はまちまち、パラレルワールド」

「パラレルワールド?」

「並行世界。あなたの世界とほとんどいっしょだけど、どこかが違う。それが無数にある。あなたが壊した世界は、その時代にも影響を与えているかも。あなたは時かける少女。立ち止まったら、パラレルワールドをいくつも壊すことになるわよ。さあ、お行きなさい。万一、この時空世界が修復できるようなら、また会いましょう……さよならミナコ、さよなら、わたし……」

 急に後ろ手ついた右手の手応えが無くなった。


「ワッ!」


 見ると、時計は六時のあたりから消え始めている。管理人の姿は、もう無かった。時計はやがて七時……八時……九時と消えていった。ミナコは後ずさって逃げたが、やがて十二時間分回って、時計は消えてしまい、再び崩壊する数字の道に落とされた。


「わ、わ……もうダメだあああああああああああああ!!!」


 ミナコは、崩れる数字といっしょに、奈落の底に落ちていった……。



「美奈子、いつまで、昼寝してるの。もう、そろそろ出かけるわよ」


 美奈子は、どこからか落ちてきたようなショックで目が覚めた。なんだか夢を見ていたようだ。なんだか、とても大事な夢のような気がして、枕許の雑誌の裏にメモをした。

――ミナコ、ヤマノチュウイ――

「ハハ、バカだな、自分の名前じゃん」

 そう、独り言言って寝返りをうったら、日めくりが目に付いた。


 1985年(昭和60年)8月12日(月)とあった……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ