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時かける少女  作者: 大橋むつお
25/90

25・プリンセス ミナコ・7

時かける少女・25 

『プリンセス ミナコ・7』         


 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子みなこは、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になっ。てしまった……今度は2013年の大阪から始まった。なんとミナコはプリンセスに!



「しかたありません、少し早いけど公表しましょう」


 お祖母様の決定は早い、その日の午後には記者会見のダンドリになった。


「お祖母様、この制服姿でええんでしょうか?」

「出すときは、包み隠さず。ミナコの制服姿は、とても清楚に見えます。国にも中継されるけど、その姿の方が好感が持たれるでしょう。奈美子さんは、これに目を通してちょうだい。マスコミは、あなたにもインタビューするでしょう。息子との馴れ初めがまとめてあります……」


 お祖母様はレジュメをお母さんに渡した。


「えー、てっきり結果意外は秘密だと思っていました!?」

「ダニエルと、その組織を見くびってはいけません。ええと、変更点があったわね?」

「付箋をつけてあります」


 同じ物を見ながら、お祖母様が言った。


「そうそう。ファーストキスは、息子からしたことにしてあります。ミナコを身ごもったのは、パリのシェラトン……」

「あ……わたしのアパートなんですけど」

「その事実は、アパートごと存在しません。あなたは、モンマルトルにいたことになっています」

「モンマルトルは、友だちが住んでて、二三回行っただけです」

「それで、十分。ヨーロッパでは、どちらで? と、尋ねられたら、モンマルトルに……と。うそではありませんし、居住記録も用意させました。具体的な質問には、遠い思い出なので……と答えてちょうだい。それから、息子の歯ぎしりがひどかったこともシークレットね」

「は、はい……」


 お母さんは、二人だけのアバンチュールだと思っていたことが、全部バレテいたことがショックだったようだ。


「真奈美ちゃん。今までのことはしかたないけど、これからは男の子とケンカなんかしないように。それから一人称は『わたし』です『オレ』『あし』は控えてください。それから、来年の進学先は、この中から選んでね」


 真奈美に、A4の紙が渡された。


「うわー、一流私学ばっかり!……でも、偏差値と学費が……」

「大阪は、学費免除の制度があるでしょう?」

「そうですが、正規の学費以外の出費が……」

「なかなか、いい経済観念を持っているわ。ミナコ公国の奨学金が受けられるようにします。それから、もうしないと思いますが、AKBのなんとかという子のそっくり関係のことで、マスコミには出ないように。あちらが、真奈美ちゃんに似ているんです。いいですね」


 お祖母様が、一息ついた。


 代わってダニエル。


「これからは、言葉を改めさせていただきます。敬称は、お三方ともレディを使わせていただきます。レディミナコは、正式に王位継承者になられたときにはハイネス(王女殿下)になります。午後の会見にそなえて、レディミナコ、レディ真奈美の制服はスカート丈を直してクリーニングさせていただきます。それまで、こちらにお召し替えを。レディ奈美子は、この半袖のワンピースに……」


 ミナコは、王室のマークがついたトレーナーに着替えさせられた。そして、即席で王女の立ち居振る舞いが教えられた。女王陛下直々に。


「そうそう、歩くときは真っ直ぐ前を見て。笑顔を絶やさぬよう……背筋は不自然にならない程度に、そう、座るときは、自分で椅子をひいたりしないこと。膝は揃えて、けして脚を組んではいけません。耐えられなくなったら、足首を組むのはかまいません……そう、そうよ……ミナコは筋が良いわ」

「おおきに、お祖母様」

「ああ……アクセントはしかたありませんが、言葉はなるべく標準語で。将来は、英語とフランス語はマスターしてもらいます」

「英語! フランス語!?」

「喋れても、不思議ではない顔をしているわよ」


 たしかに、ミナコの顔は父親似ではあった。


 念入りにヘアーメイクから、薄いメイク、ネイルケアーまでして、午後の記者会見に臨んだ。


「みなさん、日本のマスコミの仕事熱心に、まず敬意を表します。そして、ミナコ公国として発表が7時間ほど遅れたことをお詫びいたします……」


 から始まって、お父さんのジョルジュ・ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ皇太子の悲劇へと続き、ミナコ、正式にはミナコ・ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ姫が生まれたいきさつにいたるまで、延々一時間に渡って女王は語った。マスコミをくたびれさせて、質問を減らそうという腹である。


 驚いたことに、クラスメートのメグとトコがマスコミ席の端にいた!


「お祖母様、なんで、あの二人が」

「だって、学校の放送局でしょ。きちんと見せておいた方がいいの」


 たしかに女王の目論見は当たった。メグとトコは、大方の記者といっしょに祝福と疲労の混ざったまなざしになった。でも、何人かの猛者は、矢継ぎ早に質問を繰り出した。


「わたしどもの情報では、お二人が出会われたのは、ニースで奈美子さんがバイトをしてらっしゃったときに、ジョルジュ皇太子に出会われ、そこで、その……愛を育まれたとか」

「その情報は、出所がわかりませんし、興味もありませんが、二人が出会ったのは、パリのモンマルトです。情報は公開しませんが、みなさんの取材能力ではすぐにお分かりになるでしょう」


 ベテランの女性記者が、すぐに本社のCPとコネクトして、公的な資料を確認した。


「奈美子さん、わたしが確認した情報に間違いはないでしょうか?」

「はい、モンマルトルに住んで、ソルボンヌ大学に聴講に行っておりました」

 

 あと、二三の質問があったが、全て女王に丸め込まれてしまった。


「お祖母ちゃん、すごい、みんな丸め込んでしもた!」

「言葉は正確に理解していただいたの。それから『しもた』じゃなくて『しまった』です。ああ、そうそう、今夜の飛行機でミナコ公国に発ちます。今夜は領事館に泊まって、それからミナコは一週間ほど滞在することになります。学校には奈美子さんが電話してください。直接の保護者でないと受け付けてもらえないようで。日本の学校は、お役所みたい」

「でも、お母さま、わたしたちパスポートが」

「それは、もう用意してあります。こういうこともあろうかと……」


 ダニエルの手で三冊のパスポ-トが示された……。



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