14・ピンチヒッター 時かける少女
時かける少女・14
『ピンチヒッター 時かける少女』
昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子は、密かに心に想う山野中尉が沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……今度は1993年の渋谷から始まった。
東京タワーが見えたのは一瞬だった。
その次ぎに、紺色の服と帽子が真下に見えたような気がしたが、意識は、そこで途切れた。
気がつくと、病院のベッドだった。
「看護婦さん、看護婦さん、この子意識がもどりましたよ!」
知らないオバサンが、ナースコールで看護婦さんを呼んでいた。
「よかったわね、うちの子も、さっき峠を越したって、先生に言われたとこよ」
横のベッドを見ると、頭をネットにくるまれ、あちこちチューブに繋がれた男の子が横たわっていた。
「こりゃあ、ちょっと時間がかかるかなあ……あ、いいんだよ、無理に思い出そうとしなくても」
お医者さんが微笑んだ。
わたしはミナコという名前以外は、なにも覚えていない……と、いうことになっていた。
「すみません。今は何年ですか?」
「ああ、平成五年、1993年だよ。なにか思い当たるのかい?」
「え……いいえ、なんにも」
「きみね、いきなり空からオレの頭に降ってきたんだよ」
首を揉みながらお巡りさんが、不満そうに言った。
「空はおおげさよ。空だったら、宮田さん今ごろ命ないですよ」
女性警官の人が、おかしそうに、宮田というお巡りさんに言った。
「そうだよ。この子の怪我もこんなもんじゃ済まない。推定でも、落ちてきた高さは二メートルは超えないよ」
「でも、渋谷のハチ公前ですよ……空はともかく、とにかく上からなんですよ、真っ直ぐに」
「そこなんだよね。車の上からとか、胴上げされて、あやまって落ちてきたんなら、もっと斜めに落ちてくるはずなんだけどね。状況的には真上、それも二メートル以下としか考えられん」
そのとき、女性警官の無線に連絡が入った。
「はい、沖浦……あ、防犯ビデオに写ってましたか……え、そんな……こちらは意識は戻りましたが、記憶が……ええ。なにか分かりましたら連絡します。以上」
「なにか、分かったんですか?」
「この子が落ちてくる瞬間が、広場の防犯カメラに写ってたの……でも、宮田さんの頭の直ぐ上に現れて、直ぐに落ちてきたんだって」
「「そんな……」」
お巡りさんと、お医者さんが同時に声を上げた。
「悪いけど、あなたの持ち物調べさせてもらったわ。カバンの中から、着ている服まで」
「あ……」
わたしは、病衣の下に、なにも身につけていないことが分かって、ドキッとした。覚悟はしていたが、やっぱり、ガチ恥ずかしい。
「その制服は、どこの制服でもない。『女子高制服図鑑』の編集にまで確認とったけど無し。メーカーにもあたったけど、その制服は作ってないって。靴や、下着まであたったけど、どのメーカーも作ってない。その時計に至っちゃ、メーカーも存在しない」
「最大の謎が、この携帯テレビみたいなの。わたしは新型のゲーム機かと思ったんだけど、電源入れてもロックされてんのよね」
「ちょっと貸してください」
わたしは、なかば無意識で、それを受け取り、画面を開いた。マチウケにしているアイドルの上半身が出てきた。この子が生まれるのは、まだ十ヶ月先だ。
「うわー、きれいね。画面も、写っている子も!」
沖浦さんが、女性らしい好奇心を示した。
わたしは、アイドルの子の顔を二回クリックした。
そのころ、富士の演習場では、自衛隊の総合火力展示演習がおこなわれ、メインのMBTの90式戦車が五両集まって千メートル先の的を目がけて、実弾射撃をしていた。
「てっ!」
指揮官の号令のもと、二発目が同時に五両の90式戦車の砲口から撃ち出された。
そのうちの四発は見事に目標を破壊したが、一発が、なぜか、土煙もあげなかった。不名誉なことではあるが、不発弾と、その時は判断された。
同時刻、乃木坂に近い青山通りを走っていたセダンが大爆発を起こし、バラバラに吹き飛んだ。
そのときは、この二つの出来事を結びつけて考える者はいなかった。
「ミッション成功……」
ミナコは、表情にも出さずに思った。だが、その記憶は十秒後には自動的に消去された……。




