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時かける少女  作者: 大橋むつお
13/90

13・エスパー・ミナコ・8

時かける少女・13

『エスパー・ミナコ・8』       


 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子みなこは、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……!




『悪魔がいるって、ほんとうなの……?』


 看護婦のジェシカが口のかたちだけで伝えてきた。

 ミナコは口に指を当てると、メモを書いてジェシカに渡した。

『ジェシカ、あなたラテン語読める』

『少しなら』

 と、ラテン語のメモで返事が返ってきた。

『お願いがあるの』

 その言葉を見ただけで、ジェシカの目は光った。義務感に燃えた従軍看護婦の目だった。

『三時にになれば、死神は十三秒だけ眠るの』

『どうして、三時?』

『三は、神の聖なる数字だから。そして、十三は邪悪な数字。だから、十三秒』

『なるほど、ミナコって、子どもみたいだけど教養あるのね』

『見かけは、こんなだけど、自分のことは何も分からないの。歳もね』

『ミナコって、良い魔女?』

『アハハ、魔女じゃないことだけは確か。いいこと、三時前になったら点滴を替えるふりをして』

『OK でも、なんで?』

『今は理由は言えない。ジーン夫人は血管痛になりやすいから、少し遅くして。三時ごろに終わるように』

『分かったわ』


 さすがに、ベテランの従軍看護婦。二時五十九分に点滴が終わった。ジェシカは、ごく自然に点滴の交換を行おうとした。


「ジェシカ、運動神経はいい?」

「良くなきゃ、この戦争で生き残ってないわよ」

「そうね、ハイスクールじゃ、なにかやってたみたいね?」

「ヘヘ、これでもやり投げの選手だったの」

 この会話で、三十秒潰した。さもなければ、このベテランの従軍看護婦は二十秒ほどで、新しい点滴に交換してしまっただろう。点滴と繋がったままでは、ミナコの作戦は実行できない。

 三時ちょうどになって、死神は居眠りしはじめた。

「今よ、ジーンの向きを、頭と足を逆にするの!」

 一瞬で、ジェシカは飲み込み、五秒で、ジーン夫人を動かした。

「ジェシカ、元の場所に戻って!」


 騒ぎを聞きつけて、マッカーサーたちが入ってきた。


「これは……?」


 マッカーサ-は驚いた。


 ジーン夫人の頭と足が逆になっていたことと、目が覚めた死神が、大変うろたえていたからである。

『くそ、オレが寝ている間に、ハメやがったな!』

 そう言うと、悔しそうに死神は消えていった。


「あら、あなた、今日はお帰り早いのね。あ、この人たちは」

「ジーン、みんながお前を助けてくれたんだよ。特にこのミナコ・マッカーサーがね」

 そのとき、ミナコの体が透けはじめてきた。

「閣下、どうやら、お別れのようです。死神をハメてしまったんで、もう、この世界には居られないようです」

「ミナコ……」


 マッカーサーの最後の言葉は聞こえなかった。ミナコは、また記憶を失いつつ、時のハザマに落ちていった。


「やってくれたわね。死神をハメたのは、これで二回目よ」

「そうなの……」

「オリジナルの湊子とも時間がかぶっていたし、どうなるかと思ったら、このざま。わたしがいくら時間を管理しても追いつかない。このメモはしばらく預かっておくわ」

 ミナコと瓜二つの時の管理人は、右手に持ったメモを、セーラー服のポケットに入れた。

「それは……」

 大事な物だとは分かっていたが、中身は分からない。ただ、無性に心細くなっていくだけだ。


「今度は、さっきの分を取り戻してもらうことになりそうよ。じゃ……いってらっしゃい!」


「あ、ああ……」


 歪んだ時空の先に、桜並木、その向こうに東京タワーが見えてきた……。



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