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時かける少女  作者: 大橋むつお
12/90

12・エスパー・ミナコ・7

時かける少女・12

『エスパー・ミナコ・7』       


 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子みなこは、密かに心に想う山野中尉が沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメる。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……!




「ジーンの様子はどうだ!?」


 GHQから、宿舎にしているアメリカ大使館に着くまで、マッカーサーは平然としていた。

「閣下、どちらまで?」

 そう聞いてきた警備司令にも軽口をたたいていた。

「ジーンの犬が風邪をひいたんで、ドラッグストアまで」

 車の中では無言だった。

 いつものサングラスに、コーンパイプだが、煙は出ていない。


 で、大使館の居住スペースに着いて、軍医を見つけると、食いつかんばかりの近さで聞いた。いや、怒鳴った。

「今朝、わたしを見送るまでは元気にしていたではないか! いったい……」

 最後の言葉は、ベッドの上のジーン夫人の姿を見て飲み込まれてしまった。

「閣下以外は部屋から出てくれ」

 軍医の言葉で、ジーン夫人の部屋は、ドクターと大尉階級のナースが残っただけである」

「ジーン、もう大丈夫だ、わたしがいるからな」

「わたしのことなんて……お仕事が大事だわ」

「今は、これが一番の仕事なんだ。あとのことはホイットニーがうまくやってくれる。GHQは、わたし一人が抜けても機能するように作ってある」

「……でも、あなた」

「まあ、何日もというわけにはいかんがね、GHQの最高司令官の頭を髪の毛以外正常に保つのが、ジーンの大事な仕事だからね。つまり……わたしはGHQの一番大切な仕事をしているわけだ。気に病むことはないよ。なあに、慣れない日本で疲れが出たんだろう。いや、思ったより元気だ。こんなに話もできるし。ゆっくり休みなさい」

「閣下……」

「ああ、分かった。ちょっと心配性の軍医殿を安心させてくるよ」 


「ケリー、どういうことだ、あの様子はただ事じゃない!」


 ジーンの寝室から二つ離れた部屋で、マッカーサーは軍医のケリー大佐に詰め寄った」

「心臓がとても弱っています。今は、量を加減しながら強心剤を打っていますが、正直言って、奥様の心臓は八十代の後半です」

「そりゃ、ジーンの母親の年齢だ。病院に搬送は出来ないのか?」

「病院まで、持たせる自信がありません……正直、今夜が山です」

「そこまで……」

 マッカーサーはGHQの最高司令官としてではなく、妻の突然な死病になすすべのない、ただの初老の男として、ソファーにくずおれた。


――閣下、お話があります――


 ミナコの声が、直接心に飛び込んできた。

 声に誘われ、マッカーサーは廊下に出た。廊下にミナコが立っていることを不思議に思った。

「わたしも、マッカーサーの一族。成り立てですけど」

「ああ、そうだったな」

 ミナコの不思議な優しさに、マッカーサーは自然に頷いた。

「サングラスの視力を良くしておきました。それで、もう一度奥さんを見て上げてください」

「部屋の中で、これじゃ……いや、そうしてみよう」


 三十秒で、マッカーサーは戻ってきた。


「あいつは、誰だ? ジーンの枕許にいる薄汚い奴は!?」

「サングラスを外すと見えなくなるでしょ?」

「ああ、つまみ出そうとしたが、手応えがなかった」

「あれは、死神ですから」

「死神……?」

「あいつが、奥さんの枕許に居る限り、奥さんは今夜中には亡くなります」

「なんとか、ならんのか?」

「わたしに任せていただけますか?」

「悪魔払いでもやろうってのか。ミナコはエクソシストか!?」

「そんな、力はありません。ただ死に神を騙すことは出来るような気がするんです」

「……任せよう。ただし看護婦のジェシカは同室させるよ」

「ジェシカさん、少々のことでは驚いたりしませんよね?」

「大戦中は、ずっと最前線にいた奴だ。かわいい顔をしているが、平気で男の手足を切り落とせる奴だ」

「じゃ、それでけっこうです」


 このミナコは、オリジナルな湊子ではない。しかし、その同質な意識を十分に持っていた。具体的な方法は見つからなかったが、何とかなるだろうという、根拠のない楽観があった。もう四五十年先なら、立派なアイドルになれたかもしれない。


 ミナコは、ゆっくりと部屋に入り、看護婦のジェシカと目を合わせた。


 この人となら、上手くやれそう。ミナコは、そんな気がした……。



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