第8話
病院に戻って、タブレットの電源を入れてみる。
LANはダメだった。
「制限された接続」はいっぱいあるが、パスワードを求められる。
可能性に賭けて部屋番号を入れてみたが、ハズレだった。
どうせ動画を見るわけでもないし、通信量も多くないと判断して、LTE接続で。
見たいのは、ニュースとまとめサイトだけだ。
「折原社長銃撃事件」「神戸社長襲撃」と思いつくままにキーワードを入れては、Google検索。
それらしいまとめサイトは100に近かったが、別のまとめサイトからキャッチーなコメントを引用して転載しているだけなので、それを抜くと20ほどになる。
なかには「神戸社長、銃殺されて重体」という失笑を誘うのもあるが、タイトルだけで読む必要がないとわかるのは便利だな。
コメントの中には、「事情通」「関係者」を名乗る連中が好き勝手に「推理」を語る。
「Z利権」「D利権」など、いかにも事情通をうかがわせる隠語を多用するが、実のところオリハラは大きくなりすぎて、いちいちチェックするほど人事もヒマじゃない。
なかにはオリハラそのものが「在日系企業」っていう書き込みもあるが、柚葉の結婚の関係で戸籍を遡って、閉鎖謄本まで開いて戸籍制度のできた明治に遡っても海外の血は折原家に入ってないし、その父娘が実質株式の8割を持つオリハラが「在日企業」にはなり得ない。
もちろん、本業がIT系メーカーである以上、台湾や韓国の企業との取引は、外す方が難しいが。
この手のサイトでは、99%はデタラメだ。
が、残り1%、あるいは0.1%かもしれないが、警察が観測気球を上げていることがある。
分別のつかないチンピラやバカな内部の人間がそれに便乗し、蕩々と裏事情を話すことがあるから。
取るに足らない、すでに公然の秘密であっても発言にレスがつくのはうれしいらしく、知っている限りの情報を書き込んでくれる。
チェックも簡単で、「O社長」ならバカでも書けるが、釉葉の「Y」とか秘書室長のイニシャルが正確なら、それは「内部の情報源」だし、捜査本部長の鈴村警視を「S」としてあれば、警察側の情報源。
知ったかぶりしたい人間が会社登記簿を調べれば、役員の名前はすぐわかるが、釉葉はオリハラの役員に名を連ねていない。
ただ……そちら側のHITは皆無だった。
次は別のアプローチ。
まとめサイトができた日時を調べる。
警察が情報を絞り、マスコミが報道を控えたからといって、捜査がとどまっているとは限らない。
むしろ、マスコミ報道を押さえた見返りとして、犯人確定後に一気リークを約束している可能性もあるが、世間一般の興味関心となると、渦中の人間ほどわからない。
今度はツイッターで追ってみる。
2日前に、本社前にたくさんのパトカーが集まっている写真と「通勤途中で。社長が●されたらしい」ってのがリツイートされたのが最後だった。
つまり、世間的には「忘れられつつある事件」の1つのようだ。
整理するなら、複雑で手がかりの少ない事件に見えて、当事者能力があって動いているのは、警察と実行犯だけと言っていい。
柚葉自身、いまはタブレットをタップしているだけだし。
それも、実行犯は組織とは名ばかりの少人数グループか、最悪バイクの2人だけになる。
ただ。それでも暴力団が拳銃を使用したと言うことは、「金がらみ」には絞れる。
丸腰の一般市民を射殺したからといって、それでは名誉挽回どころかむしろ恥の上塗りだ。
金がらみにしても、ワンマン&オーナー社長を殺してしまえば、M&Aや株価は不透明さを増すだけで、リスクの割に見返りが少ない。
もちろん、社長襲撃前に空売りを仕掛け、襲撃直後に売り抜けていれば確実に見えるが、そんな動きをしていたら、とっくに警察がたどり着いているはず。
じゃあ……どの金?
生命保険は、被保険者の同意がなければ、第三者が勝手にかけることはできない。
被保険者になりすましてかけていれば、事件直後に保険会社から警察に問い合わせが行き、受取人から芋づるになる。
これはない。
むー……。
「糖分が足りない!」
警察というか、鈴村警視をトップとする捜査本部が全体を網羅して、1つ1つ可能性をつぶすのとは逆に、釉葉はしばしば、可能な限りシンプルに考えようとする。
その過程で、必要な「なにか」を消してしまったらしく、パーツが足りない。
冷蔵庫を開いて買いだめしてあるプリンを1つ食べて、気がついた。
「忘れてた」
壁に立てかけてある紙袋を持って、ナースステーションへ。
「これ。私の会社のですけど、よかったら食べていただけませんか?」
「内規で原則禁止されてるんで、そういうのはダメなんですよ」
「じゃあ、ここに忘れていくんで、邪魔になったら捨ててください」
並のスナック菓子じゃ無理な技だが、釉葉の会社の洋菓子は、関西ではトップクラスのブランドだ。
「あと。ウチの会社、『お客様の声』って重視してるんで、別の機会ででも食べて感想いただけたら、少しですがお礼が出ると思います」と付け加えた。
丸を描いてライン。
その先に丸が来て、2~3に分かれて、またライン。
フローチャートの要領で、系統樹を描いていく。
文字は釉葉の脳みその中で、ノートには1文字も書いてない。
可能性がなくなれば、ラインの先に「×」を入れて、「進化」が止まる。
傍目には、暇つぶしに落書きをしているようにしか見えないが、釉葉の脳内ではちゃんと整理が進んでいる。
もっとも、すべての先に「×」がならんだとき、さすがの釉葉も机に突っ伏してくじけた。
そのまま意識を失った。
かすかなざわめき。
薄目を開けると、窓の外は若干明るくなってきているとはいえ、深い紫だ。
空調が万全なはずの病院で、なんとなく寒気を覚えるのは、風邪でもひいたのだろうか。
薄ぼんやりしていると、ざわめきが大きくなる。
防塵仕様のローヒールのゴムの足音。時折混じる甲高い音は革靴か。
すっと頭がクリアになる。
意識して耳をそばだてるが、「病院内での会話は静かに」が身体に染みついている医療従事者の声をすべて聞き取るのは不可能だ。
が、そのざわめきの中に「ICUの患者さん」という単語を聞きとがめたとたん、釉葉は跳ね起きて、ICUへ走った。
最悪の予想をしてICU控え室に飛び込んだ釉葉に、居合わせた看護師は一瞬驚いた表情を見せたが
「あ。今、呼びに行こうと思ったんです。入ってください!」
「はい!」
手を引かれ、控え室の一番奥にある「開かずの扉」をあけて小部屋に入る。
エアシャワーと光線を頭から浴び、
「上見たら目を痛めますから、目を瞑るか下を見るように気をつけてください」
「はい……」
やがて、奥の扉の上のランプが赤からグリーンになると、一緒に入った看護師さんが手でドアを開けた。
そこでは、毎日何時間も見てきた父親が、ベッドに横たわっていた。
「手を握ってあげてもらえますか?」
「はいっ!」
釉葉は泣きそうになるのをこらえて、患者着の袖から出ている手を、力の限りに握りしめた。
握りしめた手は、予想以上に大きく柔らかく、そして温かかった。
その温かさが、釉葉の涙腺を決壊させた。
仕事柄、握手はお辞儀以上にする。
その多くは堅く冷たい手だ。
釉葉の記憶にある似たような手は、釉葉が物心つくより前、握った母親の手だった。
幼い釉葉は、久しぶりに母親に触れられることがうれしくて、とびっきりの笑顔で手を握った。
が、その手は釉葉と繋がったまま、どんなに釉葉が握っても、ひたすらなでても、どんどん冷たくなっていった。
幼い釉葉は「死」を理解できなかったが、「二度と会えない」のが、子供心にもわかった。
それが釉葉にとって、母親の最後の記憶になった。
手のひらをあわせ、力を込めると、体温だけではなく脈動も感じられる。
できることなら、自分の心臓ポンプも動員して、この脈動を強くしたい!
絶対に死に神なんかには渡さない。
父娘まとめて相手にする覚悟がない死に神なら……帰れ!
握る手に、渾身の力を込める。
「……いがな」
「ほえ?」
懐かしい声が、頭の上から聞こえた。
頭を上げて父親の顔を見ると、彼は薄目を開けて
「やから……痛いがな」
「……アホ」
もう、釉葉には止められられなかった。
涙も「アホ」も。
「アホ……アホ……アホアホアホアホ……」
肺の中の空気を、ぜんぶ「アホ」で出して、息を継いだところで、釉葉は主治医と目が合った。
マスクをしていて口元はわからないが、目が笑っている。
周囲の看護師を見渡すと、もらい泣きか目を潤ませている看護師もいたが、一様に目を細めていた。
釉葉は一歩下がって全員に深々と頭を下げ、父親の頭の横に立ってその顔を見て、もう一度「アホ」と呟いた。
ICUを出て主治医は
「定型句としては、まだ予断は許しませんが、とつけるべきなんでしょうが」
と前置きをしたあと
「神様の領域は超えました。あとは患者の体力と医学、人間の領分ですが、その縄張りではウチは日本でもトップクラスの陣容です」
さらにつづけて、
「術後観察と安定確認、感染症予防と対策で3日ほどICUに残ってもらいますが、その後は一般病室に行けると思います。
ただ……」
ゴクリと息をのむ釉葉に、
「バイタルセンサーとか、いろいろな計測機器や精密機械が入りますから、パソコンや携帯はしばらくご遠慮ください」
「禁止」を告げられて、これほどうれしかったのは、30年に近い人生でも初めてかもしれない。
「っと」
釉葉は、いま、たった1つ残っていた疑問を口にした。
「いまの。ホンマに生死の境で五分五分やったんですか?」
医師は笑って
「容体急変て、別に悪くなるだけじゃなくて、起きるときも……普段も今ぐらいの時間に起きてるんじゃないんですか?
バイタルや脳波がそれっぽかったんで準備してたら、お嬢さんが飛び込んできたんです」
「……それならそれで、予告してくださいよー」
拗ねる釉葉に医師は
「そう思ったんですが、お嬢さん、聞く耳なかったみたいなので」
これもドクタージョークか?
柚葉が病室に戻っていると、病院にはそぐわない喧噪が聞こえてきた。
自分の病室に、大小様々な機械が搬入されている。
近いところでは、インテックス大阪や東京ビッグサイトで催される、IT機器の展示商談会の前日設営だ。
さすがにトラックやフォークリフトは使っていないが、そのぶん人海戦術になるので、喧噪は激しさを増す。
釉葉は、下着を持ち帰っておいて良かったと、場違いなことを考えていた。
部屋干しなんてしていたら、この皆様と自分のパンツがご対面だ。
それはともかくとして、ここで自分が立っていても役に立たないどころか導線をふさいでいたら邪魔にしかならない。
自分は自分にできる、やるべき事をしよう。
釉葉はロビーに出て、会社と総務担当役員と秘書室長に電話をかけまくった。
鈴村警視と吉本巡査部長にも。
あと、実家の家政婦さん。
もっとも、吉本はメッセージセンターに転送された。
携帯の電源が入ってないっていうか、事実上の軟禁状態だな。
総務担当役員からは、松永運転手が辞表を郵送してきたと伝えられた。
社長が大怪我をした責任を感じてなら慰留するが、決心が固いようなら、無理強いはできない。
松永運転手は、会社組織上は総務部の下部組織になる守衛室に属している。
契約社員で本来は退職金は出ないが、契約を何度も更新してくれて長く専属運転手を務めてくれていたし、正社員に準じた形で退職金が出せるように。
具体的な金額は人事と相談になるが、義理と礼は尽くしたい。
電話をかけつつ、釉葉は「パソコン&携帯電話禁止」のメリットに気がついた。
もちろん、センサーや精密機器の誤作動防止が一番の理由だろうが、もし病室にパソコンと携帯電話があったら、目覚めた父親は寝ていた分を挽回するために、普段以上に仕事をするだろう。
面会時間の制限と併せて、いまは「何もしない」ことが、回復の特効薬だ。
もっとも、何の情報も与えないと、仕事人間としてはストレスになる。
経済紙と業界紙は毎朝届けるようにしよう。
と。秘書室長に再度電話。
面会希望者のリストアップと、優先順位をつけさせる。
当日、実際に面会できる人数は、釉葉が同席して父親の体調を見て決めよう。
最悪の場合、相手が病院に来ていてもドタキャンすることがあるということを、先方に伝えるよう付け足した。
業務連絡が終わると、柚葉は病室に戻って間仕切りのカーテンを閉め、スーツに着替える。
布一枚向こうで大勢の人間が働いている中、自分だけ下着になるというのは特殊な性癖の持ち主にはたまらないかもしれないが、幸か不幸か釉葉にその趣味はなかった。
ジャージを脱いでブラウスとスカートを身につけ、上着は左腕に掛けて、化粧道具の入ったポーチを持って洗面室へ行く。
女子力が高ければ、ファンデーションの色やアイシャドウの濃さにも気を配るのだろうが、小さなポーチに入った道具では、そこまでは凝れない。
あえて言うなら、ルージュのグロス具合の微調整くらい。
感覚としては、サラリーマンがネクタイを結んだり、中学生がシューズの紐を締めるくらいの日常作業だ。
一通りのメイクが終わると、洗面台の鏡を見ながら微調整。
ただ、目につくのはメイクの細かい粗よりも、自分のプリン頭だ。
付け根1/3くらいが黒く、その先はライトブラウンに染めている。
自分の結婚披露宴で日本舞踊を舞う以上、黒髪じゃないと!と言い張る父親に、どうせエクステを付けまくるんだし、いっそウィッグでもいいじゃないかと口答えして父娘ケンカになったのを思い出して、つい口元がほころんでしまう。
時間的に間に合わないのは見えていて、真っ黒に染めてもよさそうだが、プリン頭は釉葉の意地、父親への当てつけだ。
もっとも、自分の方が恥ずかしくてダメージが大きいと気がついたが、今更では負けたような気がする。
髪の長さは、肩より少し長いセミロング。
この長さだと、髪の毛は自分の自重でまっすぐ落ちてくれる。
もちろんブラシを使うのに越したことはないが、ブラシがなくても手櫛で大ざっぱな形が作れる。
コートを羽織って、全体の色味を頬紅で微調整して完了。
そういえば、父親が入院してからちゃんとメイクしたのは、初めてな気がする。
ナースステーションに顔を出して、今から会社に戻って目が覚めたことを伝えることと、病院に戻る予定時間を告げた。
「報・連・相」が知らず出てしまう。
病院のタクシー乗り場で客待ちしているタクシーに乗り込み、「三宮のオリハラ本社」。
これだけで通じる程度の会社知名度は、地元ならある。
少し走ったところで釉葉はドライバーに
「なあ。ちょっと割高になってもかんまんから、ちょっと後ろ見てもらえる?
なんかストーカーがついてる気がするんよ」
言われて運転手は、サイドミラーで周囲を見るより先に、後部座席の釉葉を見た。
釉葉が気にしているプリン頭は、その手の客もしばしば乗せるタクシードライバーの目には、水商売でないとわかる。
やや細身というか、胸のあたりが若干残念な気がするが、それがかえってスーツと合っている。
その上の顔は、20代後半か30代前半で、派手さはないが整っている。
かけられた声は、かすかな幼さと年齢相応の艶っぽさが同居していた。
しょうじき、ストーカーが好みそうなスペックは満たしている。
「ちょっと、じゃなくて2倍超えるかもしれませんけど、かんまんですか?」
「会社に領収書回すから、大丈夫……やと思います」
そういえば、目的地はピンポイントで会社だったとドライバーは思い出した。
タクシーは、阪神高速を東に。
1区間で降りて下道を回って再び阪神高速に乗り、西に向かう。
「うあー。ホンマにいますわ、お客さん。それも3台も」
「3台はないわー。私芸能人じゃないし、集団ストーカーなんて聞いたことないですよ」
「あー。マスコミが言わんだけで、どっちかっていうと今はそっちが主流かもしれませんね」
え……?
きょとんとする釉葉に、客商売でストーカーから逃げる側も、時にはストーカーを乗せることすらあるドライバーが淡々と語った。
「リーダーって言うんですか? ストーカー本人と手下がチームを組んで、リーダーが写真やデータを買うんですよ」
「きしょっ!」
釉葉は自分の肩を抱いてみせた。
が、言われてみれば、とっさに今のルートがとれるということは、このドライバーはその手の対処法というか、見極め方を知っている。
「黒のベンツとクラウン、白のマークXですね。警察に保護を求めますか?」
「警察にも相談したんやけど、事件になるか相手が特定できんと動けんのやて。私が被害者になってから、よーやっと動けるって」
「まあ、警察ったらそんなモンですわな」
釉葉はドライバーに質問を重ねた。
「車、ピンポイントでわかるんですか?」
「ええ。あんなアホな乗り継ぎについてくるアホは滅多にいませんから。
隣の車線、この車のすぐ後ろに軽自動車がいてるでしょう?その後ろにいる黒いのが、クラウンですね。
斜め後ろのトラックの後ろにいるのがマークXで、その後ろの黒いのがベンツ。
車の値段から考えて、このベンツがリーダーでしょうね」
釉葉は少し考えて、
「オリハラの正面玄関の真ん前につけてください」
「それがええかもですね。
あ。このタクシー、後ろもドライブレコーダーで撮ってるんで、万が一の時は協力しますよ」
「ありがとうございます!」
礼を言った釉葉は、ポシェットからスマホを取り出してレンズを向けた。
「そういや、オリハラの正面玄関ゆーたら、この前社長が……」
言いかけた運転手を遮って、釉葉は
「ベンツはわかるけど、マークXってどれですか?」
「相変わらず斜め後ろのトラックの後ろにいる、白いセダンです」
「地味な車やなー」
そう言うと、スマホのシャッターを連打する。
タクシードライバーは、ダメなパターンだと思った。
男としては、単純におびえるだけの相手より、少し歯向かうくらいの方が、追っていて楽しいものだ。
ドライバー自身はストーカーをやったことはないが、もし自分がストーカーするなら、このルックスにこの性格なら、きっと面白いだろう。
実のところ、釉葉は「マークX」を知らなかったワケではない。
自分自身が、その助手席に乗ったのだから。
スマホ画面で撮影した画像を拡大すると、ナンバーまで全く同じ、つまりは吉本巡査部長が乗ってきた覆面パトカーだ。
捜査本部に覆面パトカーが足りないはずもなく、つまりは見つけてもらうための「囮」だろう。
本命は、後ろのクラウン。
軽自動車が邪魔をして、そちらのナンバーやハンドルを握っている人物は、いくら画面を拡大しても見えない。
ベンツは……単純に暴力団だろう。
直近で釉葉に関連する暴力団の心当たりなんて1つしかないから、自分が警察だったらそのベンツを停めさせて職務質問でもしたら、あっさり事件解決できたかもしれない。
まさか気がついていない?
たしかに阪神高速は外車の割合が多くてベンツも目立たないし、尾行中は往々にして狭視野になりやすい。
マークXに乗っているのが吉本なら電話で連絡も考えられるが、吉本は「出張中」で、携帯も取り上げられているらしいのは、病院で確認済みだ。
どんくさい!
釉葉は内心毒づいた。




