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夢見る暗殺者  作者: 瀬戸 生駒
恋する暗殺者
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第8話

 リムジンが角を曲がると、前方に水色の、4階建てのビルが見えた。

 1階部分が店舗で、その前に店舗利用者のための広い駐車場があるが、抗争中の暴力団事務所よろしく、大勢の黒服が立っていた。

 釉葉達のリムジンがその駐車場に入ろうとすると、3人ほどの黒服が駆け寄ってきて、こちらの身柄を確かめる。

 本当に抗争中のヤクザみたいだ。

 もっとも、釉葉達も、そして相手もヤクザじゃないけど、殴り込み気分で来ているのも事実だったり。

 釉葉達だとわかると、大きな身振りで別の場所に誘導しようとした。

 店舗のある正面ではなく、横手に会社の玄関があり、ビルの奥に会社の駐車場があるらしい。

 そちらを案内された。

 よく見ると、まだまだ寒いのに誰一人コートを羽織っていない。

 黒のスーツは最近の流行だし、ネクタイの色もカラフルだ。

 もちろん、メガネはいてもサングラスは一人もいない。

 ただの背広組サラリーマンのようだ。


 リムジンは玄関前へ。

 釉葉達父娘が降りると、一斉に頭を下げた。

 それを見て釉葉が感じたのが、風通しの悪い会社ってイメージ。

 腰から身体を折るのもいれば、首だけ下げるのもいる。

 誰がどんな用事で来るか、周知伝達ができていない。

「むー」

 釉葉は唸った。

 34%を考えていたけれども、ヘタしたらあっさり50超えちゃうかもしれない。

 そうなると、一部上場って看板を下ろさないといけなくなる。

 手加減が難しい。


 玄関に入る前から、10人以上の背広組に包囲された。

 エレベーターまでアテンドされ、ドアが開くと、全員が乗り込んでこようとする。

 めっちゃ窮屈だ。

 釉葉はくるりと首を回し、斜め後ろに向かって

「チカン?」

 この一言で、ボタン係を除く全員がエレベーターを飛び出した。


 最上階でエレベーターを降りると、さらに多くのスーツ軍団がいた。

 もっとも、何人かは1階で見覚えがある顔だし、何人かは息が荒い。

 エレベーター横の階段を駆け上がったんだろう。

 数の圧力を狙ったんだろうが、演出はやりすぎると、逆に底が知れる。

 そもそも釉葉の前の職場は代議士事務所で、この100倍を超える人数をさばいた経験が幾度となくあるし、父親にしても、末端まで含めれば1万人を超える従業員を抱えている。

 ご用組合とはいえ、労使協議の席では、この10倍程度の人数と舌鋒をかわしている。

 この父娘に対して、なまじっかな人数は圧力にならない。


 エレベーターから応接室へアテンドされた。

 品のいい調度がならび、壁には大きな油絵が掛かっている。

 天井の角にある黒いドーム状のは、監視カメラだな。

 もっとも、こっちはダミーだろう。

 もりろん録画はされているだろうが、煙感知器とかに偽装されたのがあるはず。

 盗聴器は、テーブルの裏と、あといくつか。

 何もここが後ろ暗いとかじゃなくて、上場企業の応接室として、当然の嗜みだ。

 なかったら、釉葉は逆にセキュリティを疑う。

 ともあれ、言葉選びと身振りには気をつけなければならない。

 時には息継ぎのタイミングまで気を遣い、間合いをはかって。

 この醍醐味を知ってしまうと、パソコンゲームなんてする気にもならない。


 釉葉の父親と相手の洋菓子メーカー社長が握手を交わす。

 相手は父親と同世代のようだが、髪の毛もスーツも真っ黒で、幾分恰幅がいい。

 きちんと髪をセットして、おそらく老眼鏡だろうが、黒縁眼鏡をかけている。

 フレームにワンポイントがオシャレ?

 黄色いネクタイに、タイピンは会社のマークではなく、メガネフレームとおそろいだ。。

 タイピンが確認できるってコトは、スーツはもちろんシングルで、恰幅のいい体を幾分スリムに見せる効果がある。

 よっぽどセンスがいいか、さもなければスタイリストがついているな。

 父親は釉葉の頭をぽんと叩いて、「娘です」と軽く押さえる。

 その力を利用して釉葉は頭を下げ、「はじめまして」と笑顔を浮かべる。

 先方は「きれいなお嬢様ですね」と、定型句で返した……つもりだった。

 父親が話をかぶせるまでは。

「ありがとうございます。

 死んだ家内の、たった1つ残してくれた形見だと思っています」

 相手がどう思っているかは知らないが、握手からラウンドは始まっているんだ。


「ですけどね。この頃、娘の周りを嗅ぎ回るのや……それは年頃ですから、そんな話があってもいいかとは思うんですが」

 少し間をおき、相手の反応を見る。ポーカーフェイスだ。

「先日ね。娘の元同僚ってだけで、人が殺されまして」

 ここでの動揺は、ノーカンにしてあげよう。

「さらには、娘を探っていた興信所の調査員まで殺されまして。

 嫁に行くのは、残念なような、嬉しいようなですが、このままじゃ死に神扱いされて、一生一人ってのも不憫で」

 さあ、どうつなぐ?

 釉葉父娘は少し待ったが、返事がないので、一気に詰める。

「それで、自分なりに調べたんですが、興信所に依頼をしたのが、そちらの家令さんと名前が同じで」

 はい。ダウト!

 あからさまな動揺が伝わってくる。

「さて。家令はよくある名前ですし、そもそも少し前に辞めてまして、ちょっとわかりませんね」


 あー。逃がしたか、さもなきゃ埋めたか沈めたか。

 火傷が大きくなりすぎたら、ちょっと危ないよ?

 そんな釉葉の頭をぽんぽん叩きながら、父親は

「失礼しました。

 この歳になって、娘のことでは親バカでして」

 釉葉の頭をやたら叩くのは、スキンシップで、父娘仲の良さのアピール。

 釉葉も気がつかないうちに、第2ラウンドに入ってたか。

「バカ親が失礼しました。

 バカがとんでもないことを口走る前に、私でよろしいですか?」

 相手の安堵が伝わる。

 謙遜して身内を貶すのは問題ないし、「バカ」を連呼したのは父娘仲の良さアピールと一緒に、暴言失言への予防線だ。

 そして、「自分なりに調べた」は、次への伏線となる。


 と、ここまでしゃべって考えて、釉葉は気がついた。

 先に西宮署に行ったのは、本当に今の伏線だったんだ。

 わざわざ目立つリムジンを使ったのも、盗聴器を通して裏をとっている誰かが問い合わせることを見越して。

 そしてそいつのスパイが警察内部の人間なら、担当刑事と個室に籠もり、何か話していたことも伝わるだろう。

 けれども、会話内容は漏れないはず。

 思い起こせばあのときの父親の会話に、変な違和感を感じたが、このための仕込みか。

 手の内を完全に隠してしまうより、表面は見えるのに核心が掴めないときの方が、疑心暗鬼は大きくなる。

 けれども釉葉も、ここまではわかっているつもりだった。

 ただ、今は、「怒っている親バカの父」と、「まだ冷静な娘」という役割になっている。

 怒りに任して暴言に近い無茶な要求を出す父と、なだめる娘。

 相手とこちら、双方が手を打てる着地点を探らなければならない。

 問答無用で一番面倒くさい役目を押しつけられている。


 もっとも、相手にとっては。

 父親の無茶振りを微修正して着地点を探すだけだから、この父娘に今、ブレーキはない。

 たとえるなら「危」マークを付けて危険物を満載しているトラックが、ブレーキが壊れたまま、アクセルとハンドルだけで突っ込んできたようなものだ。

 さらに「危」の内容がわからない。

 可燃物か爆発物か毒ガスか。

 逃げだそうにも、ここは自分のホームで、さらに相手はよけるどころか、自分を狙って追いかけてくる。

 洋菓子メーカーの社長は、今自分が絶望的に絶体絶命だと気がついた。


「まぁ、そんな変な誤解や諍いを避けようと、私らなりに考えて、資本提携とかどうかなぁ?って。

 あ。親子じゃなくて兄弟ゆーか親戚ゆーか。

 親子だったら一部のこちらが親で、二部の私らが子になっちゃいますし」

 釉葉は殺人事件の黒幕扱いから、一転ビジネスの話に修正した。

 ビジネスならば、相手もそれなりのノウハウはあるし、まだ話しやすいだろう。

 まして、IT系メーカーと洋菓子メーカーでは、マーケットの競合もない。

 純粋に資本の話なら、メリットも少なからずある。


「内輪でケンカしても仕方がありませんし、変な誤解を予防するという意味では、悪くないかもしれませんね。

 もっとも、ウチにも独身の愚息がおりまして、本当の親戚というのもいいかと思いますが」

「やだ!」

 喉まででかけた言葉を飲み込んで、相手の発言に

「光栄です。ただちょっと私、気になる方がいまして」

「その方がうらやましいです」

「ありがとうございます。県警芦屋署の巡査長なんです」

 ほい、振り出しに戻った。

 これも裏をとれば、一緒にドライブしていたことがわかるだろう。

 殺人事件現場を所轄する西宮署と、釉葉の住む芦屋署。

 少なからず後ろめたい相手にこそ、桜の代紋は脅威となり、こちらの正しさと強さをアピールする武器になる。

 これらがバックにいることを臭わせれば……ここが老舗だからこそ、かつて総会屋達が元気だった頃、問答無用で別件逮捕をするのを何度も見ているはずだし、その別件逮捕の矛先が自分たちに向かわない保証はない。

 というか、まず間違いなく向かってくる。

 家令が現実にどうなったかを今の釉葉は知らないが、そっちから来られたら、たぶん防げないだろう。


「警察官ですか。きっと誠実な方でしょうね」

「ありがとうございます。

 それはそうと、失礼ですが御社の財務を少し見させて頂きましたら、ちょっと気になる点がありまして」

「原材料のバターとか、かなり値上がりしてるのに、こちらは商品に価格転嫁してませんよね?」

 問う釉葉に「企業努力で」とごまかそうとするが

「その割には売り上げそのものは増えてないのに、経常利益と純利益だけは堅調で。

 もちろん、そのぶん税金は払ってらっしゃるでしょうから、税務署は黙るでしょうけど、証券取引委員会が「粉飾だ!」ったら、ちょっとコワイですね」

 忘れてもらったら困る。

 釉葉達はブレーキのない暴走トラックだ。

 引けば迫り、逃げれば追い、よけてやり過ごそうにも荷台の「危険物」が爆発したら……。

 大人しそうな、頭の軽そうな小娘と侮っていたのは、なにもあの秘書室長だけではない。

 ライオンはムリでも子猫を丸め込むのはたやすいと。

 それが実は、子猫の皮をかぶった虎だと気がついたとき、牙はすでにのど笛を貫いている。

 釉葉の場合、ときどきリアルにやるけど。

「粉飾決算で株価操作があるとなったら、特捜も動くでしょうし、株主訴訟も避けられません。

 そのとき、この会社の体力がもてばいいんですけど……私としたら、地元の銘菓で、小さい頃から大好物だったのがなくなるのはイヤだなーって思うんですよ」


 2時間ほどして、話はだいたいまとまった。

 あとは財務担当とか総務が詳細を詰めればいい。

 トップは大まかな方向を示すのが仕事だ。

 釉葉の父親は立ち上がり、握手の手をさしのべた。

 相手の社長は椅子にうずくまり、その手に引き起こされるように、ようやく腰を上げた。


 帰りは、アテンドはもちろん、見送りすらなかった。

 リムジンに戻ると釉葉は秘書室長に「おわった。あとよろしく♪」と告げて、深くシートに身を沈めた。

 父親がそんな釉葉に苦笑しながら

「10億って言うたやろ」

 と言うのを聞いて、所詮はお嬢様、かなり引っ張られたかと、そんなのを許すほど社長も親バカかと内心安堵した秘書室長だったが、

「6億でええやん?なんならもう半分まで持って行けたよ?てか、慰労金目目で4億円くらい渡そうか?」

 半ば挑発のこもった釉葉の言葉に父親は

「おまえ、それしたら、本気で詰むぞ」

「将棋ってよーわからんねんけど、詰む前に「まいりました」ってするんやろ。ファンサービスが足りん思うんよなー、私」

 まさか、何億も賭けて将棋をしていたはずはない。

 なら「詰む」とは……釉葉の言葉に、また冷たい汗が流れた。

「ライオンの子供は……虎」

 つい、声になってしまった。

「あっ」と焦る秘書室長だが、釉葉は

「阪神好きやから虎でもええけど……私いっぺん牝豹とか言われたいなー」

「それはない」

 笑う社長に救われた気がして、自分は絶対この父娘には逆らわないと、誓いを新たにした。


 それからおよそ1ヶ月を経て、経済誌のすみに資本提携の記事が載った。

 県内のIT系企業が、材料費の高騰に苦戦している、やはり県内の洋菓子メーカーと資本提携する。

 その融資で洋菓子メーカーは有利子債務を圧縮し、経営を健全化する、と。

 ほどなく、洋菓子メーカーは債務を分離・分社化した。

 県内企業同士での資本を融通しあい、その労を執ったのも県内に本店を置く銀行だったので、地盤沈下の続く関西経済復興のビジネスモデルとして、にわかに脚光を浴びた。

 事実、その洋菓子メーカーの株価はストップ高を続け、1週間で5割ほども上昇した。

 債務を分社化したことにより財務も劇的に改善されて、次期決算では黒字転換が濃厚と、会社四季報にも書かれた。

 もっとも。

 その会社四季報では、筆頭株主に融資をしたITメーカーが座り、2位に仲介をした銀行が、大手都銀や証券会社を押さえて上っていた。

 両者の株式保有率は、合計で34%。

 逆に、創業家の名前は消え、自社保有の株式も半減していた。


 4月に、洋菓子メーカーの新社長の就任が発表された。

 IT系メーカー専務から転身した男性の名前と顔写真が、新聞の経済面で笑っていた。

 それを地元紙は、「家内制手工業からの脱皮」とか「卒業」ともてはやした。

 そのはるか下の方の、<役員人事>という欄には、小さく会社名と個人名、彼らの年齢が載っていたが、相当の経済通でも知らない名前のハズだ。

 IT系メーカーの財務担当とはいえ平の取締役とか、地銀の執行役員まで把握している人間は少ない。

 彼らが資本関係のできた洋菓子メーカーの専務と取締役に就任したところで、なんの疑問もないだろう。

 そしてこの欄は、退任した役員については、名前しか書かれない。

 ただ、同じ名字が何人も続いていて、おかしいと気づいた投資家はいたかも知れないが、後任役員の肩書きに前職として工場長や店舗運営本部長とあれば、「脱創業家」がすすんだと、歓迎するほうが多いだろう。


 4月末。初夏の日差しの下でゴルフに興じる一団がいた。

 クラブが振られれば、どこに飛んでも「ナイスショット!」を連呼する、へたくそ集団だ。

 プレイするのは4人。見物が2人、キャディが2人となれば、いわゆる金持ちの道楽に見える。

 事実、IT系企業社長に洋菓子メーカーの新社長、新専務とメインバンクの頭取で、間違いはない。

 見物する2人は、それぞれの秘書だ。

 ただ。スコアはともかく、ホールアウトしたときの順位は、スタートする前に決まっている。

 このラウンドはお互いの序列を明確にするためのセレモニーでしかない。


「お嬢様も来られていたら、オヤジの中にも花が咲いたでしょうに、残念ですね」

 頭取が話を振ると、社長は

「日焼けするのがイヤなんやて。シミになるって。ああみえて歳やわ」

「けれども今日のセッティングはお嬢様ですね」

 新社長が確認すると

「あいつ。自分では牝豹って言われたい言うてたけど、虎でももっと優しいわ。慰労金に何億か出してん」

「それはキツイですねー。裸で放り出されるだけなら、それで終わりですけど」

 頭取が言葉を繋いで

「なまじ蓄えがあったら、身ぐるみ剥ぐどころか、肉までむさぼりますからね。あ、当行は地元に愛される金融機関ですので」

 冗談に見せかけた牽制で笑いを誘い、それに社長は苦笑で返して

「ホンマ、誰に似たんやろな?」

 もちろん答えはわかりきっていたが、あえて名前を挙げない程度の分別は、全員が持っていた。


 もちろん、秘書はともかく、部外者のキャディもいる。

 言質を取られる失言をするバカは、ここにはいない。

 その様子を見ながら秘書室長は、世界が違うと思い知らされた。

 自分にはムリと自らを戒め、自分が今も秘書室長でいられることに感謝した。


 洋菓子メーカーの前社長ら創業家の一族は、債務管理会社を任された。

 ごくわずかの融資と引き替えに一族が保有する株式のすべてと、自社保有する株の過半数を差し出して。

 その上で新会社の社長に就任したが、メインバンクと筆頭株主が「別法人としてのケジメを明確にする」と強硬に主張したため、新社長も応諾し、新会社へ資金は環流されなかった。

 新会社は船出からして莫大な債務を抱え、入金は全くない。

 先の見えた会社だったが、それでも普通なら細く長く金利を吸い取ろうと、追加融資があったかもしれなかった。

 が、なまじ慰労金として4億円のキャッシュがあったため、ハイエナよろしく群がり、貸し剥がしによって、4億円を遙かに超える持ち出しになった。

 一族の個人資産を売却してしのいだが、1ヶ月と持たずショートして、姿を消した。

 先日、山中で焼けこげたワンボックスに成人男女7人の焼死体が発見され、DNA鑑定の結果、前社長達と確認された。

 警察は、一族で無理心中を図ったと判断した。

 江戸時代初期の造り酒屋に初代を求める名門旧家は、維新の動乱も戦争も地震にも耐えたが、ここで途絶えた。

 前後して、六甲山中で元家令の射殺体が発見されたが、こちらは自殺か他殺か捜査中らしい。

 それをTVニュースで知った釉葉が「あ。ちゃんと2人やってたんや」とつぶやいたことは、父親しか知らない。


 IT系企業が融資の見返りとして得た株式は40%に近かったが、銀行と調整して先の数字に落ち着き、残りは市場に流した。

 それは株価の高騰によって、すでに融資額を遙かに超える利益を確定している。

 その絵を描いたのは……。

 秘書室長は、思わず身震いした。

 あの「虎」が、自分が向けていた嘲りの目に気づいていないと思うほど、彼は脳天気ではない。

 今は多少なりとも利用価値があるという意味か。

 その価値を全力でアピールし続けないと、彼のクビはとぶ。

 あっけないほどあっさりと。

 それが社会的なものか、それとも物理的にか、彼の頭は想像することを拒んだ。

 ライオンの娘は虎だった。

 その娘の婿が社長の椅子にもっとも近いというのは、ライオンの親バカではなく、虎の実力。

「ナイスショット!」

 声を限りに叫んで、彼はライオンたち猛獣の後ろを追った。

 ブッシュの影に虎が潜んでいないという保証はないから。

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