惨劇
「え?トラックが着いてない!!!?」
私は新居となるマンションの前で、1階に住む大家のおばさんに衝撃の事実を聞いた。
おかしい。
本来ならとっくに到着している予定だった。
「さっき連絡があって、トラックが事故に遭ったんだって…」
「!?」
そんな不運なことがあるのかーっ!!!!!
…って、昨日からずっと不運だったわ私。
「それより、あなた、その人と住むつもり…?」
大家さんの怪訝な視線がギショウに向いた。
一人暮らしという話で借りる契約だったのに男の人と来てりゃそりゃ嫌悪感丸出しになるのも仕方ない。
「ちち、違います!こっちに住んでる従兄弟で、今日は手伝ってもらいに来てるだけなんでっっ!それより…と、トラック!
私たちも様子見に行きたいんですけど!どの辺で事故っちゃったとかわかりますか!!?」
早くこの場をうやむやにしたい!
「うーん、4丁目の…山側って言ってたよ。多分、林の入り口辺りじゃないかね〜?」
「4丁目ですね!わかりました!」
言うや否や、私は駆け足でその場を後にした。
ギショウは私の後をついて来ながら、
「千霧は足が遅いな。俺が抱えて走ろうか?」
をい!ここ仮にも街中だよっ!そんな恥ずかしいことできるかー!!
と思ったが目的地まで人気のない地区のようで、私は“人がいたらすぐ下ろす事”を条件に甘えることにした。
私の荷物、どうなってるんだろう…すごく不安。
するとギショウは、あろうことか屋根伝いに飛んで進んでいる。
直線で進めるから早く着けるのだとか。
こわいよぉぉぉおおお!!!!
「あれか?」
4〜5分行くと、林の入り口で道のそばに立ち並ぶ杉の木にめり込んで止まっているトラックを目視できた。
そして、傍にパトカーが2台止まっていた。
だが、様子がおかしい。
「どうなってんのこれ…」
トラックの運転席で2人、助手席側のドア付近の路上に1人引越しスタッフが倒れ、パトカーの運転席で1人、路上に3人警察官がいる。
皆まったく動く気配がなかった。
私が駆け寄ろうとすると、ギショウが私の前に腕を差し出し制止した。
「皆、死んでいる」
「!!!」
状況がまったく飲み込めない。
よく見ると、トラックは運転席の窓が割られ、中の様子がわかった。
運転手だった男はまっすぐ前を見たまま口をだらしなく開け、その前歯は数本折れている。その奥、喉の部分は後頭部までぽっかりと穴が空いていて、座っているシートの柄がわかるほどになっていた。
肩から腕にかけて、血でぐっしょり濡れている。
「…っうっ」
吐き気と、そして同時に恐怖も込み上げてきた。
他の倒れている人も、よく見ると体のどこかに穴が空いて死んでいるようだ。
それは顔面だったり、胸部だった。
ギショウはこの血生臭い光景をものともせず、開いていたトラックの荷台を覗き込む。
「おい千霧、これを見ろ」