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深闇の清い悪魔  作者: 王子(おうこ)
7/11

出発

夜が明けた。




私は引越し業者さんとのやりとりや荷物運びの手伝いなどで忙しくし、その頃ギショウは引越しトラックの荷台部分の上でひっそりと寝ていた。


本当なら、もうちょっと離れたところにいてくれた方が見つかる可能性も低いから安心なんだけど。

ギショウ曰く、


「追っ手が千霧ちぎりを襲いに来たとき、対処できる距離にいたいからな」


と、適度な距離を保ちつつ、待てる場所として選んだようだ。

車の屋根の上で寝るなんて、まるで猫みたい。




「一人が辛くなったら、帰って来ていいんだからね」

「ありがと、でも多分大丈夫。料理も、全然できないってほどじゃないし。あ、お父さんは?」

「あなたが起きてくるちょっと前に出ちゃったわ。日頃あんな感じでも、やっぱりお別れ言うのが寂しいのかしら」


父は大雑把で、あまり感情をあらわにする人ではない。

だから私は、(そんな繊細な性格かなぁ…?)なんて思いながら、


「あはは、別に今生の別れってわけじゃないんだし」


と笑った。


「まぁねぇ。とにかく!女の子の一人暮らしなんだから色々と気をつけてねっ!」


多分一人暮らしではなくなるような気がするのですが…そんなこと口が裂けても言えません。


一瞬目が死んだあと、ハッと我に帰り、

「じゃぁ、行ってきます!向こうついたら連絡するから」

「はーい。忙しかったら次の日にでもいいからね」


私は実家ぐらし最後の母との会話を終えると、一足先に出た引越しのトラックを追いかける形で、電車で現地へと向かうため駅に向かった。






駅までは歩いて10分くらいだ。

今日もいい天気。ありがたい!


「あれが千霧ちぎりの母上か」


業者さんの出発直前にトラックから降り、どこかに身を潜めていたギショウが私の隣を歩いている。


「そ。家族の私が言うのもなんだけど、美人でしょ」

「そうだな……。千霧ちぎりの父上はどこかに出かけたと言っていたが?」


変な間があった気がしたけど、気にせず応じた。


「あんまりおしゃべりな人じゃないし、お母さんほどは仲良くないしね。あ、でも嫌いとかじゃないよ」


「血のつながりあるもの同士が仲がいいのはいいことだ」


と、オッサンくさいことを言われ、そうこうしているうちに駅に着いた。

そしてふと思った。




電車賃は私が二人分払うんだろうな。





☆ ★ ☆





陽が差し込む朝の清々しい空気の中。

高校の制服を来た女の子と、頭が二股に分かれた灰色の犬が喋っている。


「アレは、どこにあるかわかったの?」

『マダダ』

「じゃあここじゃないってことね。本人が持っているか或いは…」

『カクシテイルノカ?』

「えー、だったらめんどいな。まぁどっちにしろここにないなら本人に直接聞くしかないわー」


そう言って女の子はトラックの荷台からひらりと飛んで出た。

二股の頭の犬はもういない。

荷台から出たそこは、雑木林の間を切り開いて舗装された車道だった。


女の子は、そのまま一人でスタスタと雑木林へ消えていった。

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