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深闇の清い悪魔  作者: 王子(おうこ)
5/11

事情

ふと眼が覚めると、隣街の駅だった。


「気がついたか。そんなにいつも気が緩んでいてよく今まで生きてこれたな」


この周辺は人通りが多く、すでに陽が傾いた駅前には帰宅途中のサラリーマンや学生、門限ギリギリまで遊んでいた子供などが入り乱れる一番騒がしい時間。

私は、まだ戻りきっていない意識をゆっくり手繰り寄せながら、ギショウの方は見ないまま


「とにかく、下に降ろして…」


と呻くように呟いた。

あまりにも心身ともに疲れていて、まるで数日間振り回され続けたような感覚だった。

ギショウは人目につかないポイントを探し、駅の屋根から私を抱えたまま路上へ降りた。


「聞きたいことは山ほどあるんだけど、その前に…離、れて…」


「あ、そうだな。悪い」


気を失う直前まで飛んだり走ったりあんなに荒っぽかったのに、私を離す時の仕草が急に優しくて、なんだか居心地が悪かった。


肩や背中の、触れていた部分がまだ温かい。


「まず、ほ、本のことだけど…私の血がついたことが原因で、あなたがここにいるってことは、ちょっとだけ信じた…けど、わざと血をつけたわけじゃなくて、本をめくっていたら、カマイタチみたいに急に指先が切れて、それで偶然血がついちゃっただけなの」


「たまたま契約を完了させてしまったというのは分かった。カマイタチの原因がなんだったのかは俺にもわからないが。だが一つわかっていることがある。それは、お前が高賀宮たかみや家の血縁だということだ」


「な、なんで私の苗字…こわ!ストーカー!?」


「すとかーとかいう種族ではない。俺は 雷焉ライダラ族のギショウという。高賀宮たかみや家の血族だと分かったのは契約の際の血だ。 お前の先祖と同じ血なのだから、すぐわかる」


「先祖!?そんなさかのぼんの?私の先祖があなたに、何をしたっていうの…」


その問いに、ギショウは少し表情を緩めこう言った。


「お前の先祖は …俺を、信じてくれた」


身構えていたものとはかけ離れた答えに言葉を失った。

今日は何度もあっけにとられる日だな。


「…場所を変えたほうがいい。夜になると、奴らが活発に動き出す」





奴ら。




きっとあの黒い生き物のことだ。

奴ら、ってことは、あんなのがたくさんいるってことなの?

さっき味わった恐怖が蘇り、両手から冷たい汗が滲んだ。





★ ☆ ★





私は、ギショウの “なるべく明るい室内” という希望に添って、町内で一番大きなファミレスに行くことにした。

窓から見えないようになるべく奥まった席を確保し、私はショートケーキとホットカフェオレ、ギショウはステーキ単品をレアで注文した。

本当は食欲なんて全く湧かなかったけど、何か口に入れたくて、無理矢理食べることにした。


「私が払うんだから遠慮とかしてよ、もう。白ご飯は?セットでもそんなに値段変わんないからつけていいよ」


「いや、俺は肉だけでいい」


肉以外食べないとか子供か!って思ったけど口には出さなかった。




先に私の注文したケーキと飲み物が来て、2〜3分ほど待ち、ギショウご所望のステーキが来た。


いつもは見ただけでテンションが上がるケーキ。

でも、今は沈んだ気分だった。

ホットカフェオレの穏やかな湯気が、先ほどの辛い出来事とのコントラストでますます気が沈む。


「いただきます」


ケーキのクリームを、少しフォークでかすめて口に運ぶ。




甘い。

あぁ、私、生きてる。

昼間のあの恐怖は、平凡な生活を送って来た私にとって死を連想させるほどのものだった。




でも私は生きてる。




全身に染み込ませるようにクリームを噛みしめていると、自然と涙が溢れてきた。


それを向かいの席で見たギショウは、一瞬目を見開いて、それから


「それはそんなに美味しいのか…」


と、また私の感じているものと見当はずれなコメントを吐いた。

それを聞いて、もっと涙が溢れた。


「美味しいわよ…っ、ひっく…」


ぼろぼろ泣きながらケーキを食べる私って、はたから見てて絶対キモいんだろうな。

ギショウはそんな私の様子を、時折物言いたげな視線で見ながら早々とステーキを平らげて一言。


「もっとレアの方が良かったな…」


文句があるなら頼むなよ!

せんはっぴゃくえん!!!!!


はぁ。

こっちの理由でも泣き増ししたい…。






「落ち着いたか?」


「少し」


「うん。じゃあ早速だが、お前が…名前をまだ聞いていなかったな」


高賀宮たかみや 千霧ちぎり…です」


「あぁ、高賀宮たかみや 千霧ちぎり。事情がわからないということだったが、何から話そうか」


「さっきのあの犬の化け物みたいなのはなんなの…」


「あれは番召ヴァーメン…監獄門番だ。こっちの世界にはいないんだったな、そう言えば」


そう言えば?


「あいつは、やっつけたの?」


「待て。知りたいことは番召ヴァーメンのことなのか?」


「まずは安心したいのっ」


「ふむ…多分死んではいない。手応えはあったが…暫くは動けはしないだろう。ただ、同僚の番召ヴァーメンを召喚する可能性が高いからあの場から離れた」


同じような奴がまた来るかもしれないのか。

結局、安心はできなかった。


「聞きたいことは俺との契約のことじゃなかったのか?」


「そ、そう!だった!」


一瞬明らかな呆れ顔になったあと、ギショウはざっくりと事情を説明してくれた。





ギショウは地獄の住人で、濡れ衣を着せられて投獄。刑の執行により滅多なことでは死ぬことができないため、私が見た、あの絵本のような情景が日々続いているのだと。


私なら頑張って死ぬわ。


濡れ衣を晴らしたく、真犯人探しに1度目の脱獄(自力)の際、なんの因果か魔界に迷い込んだ私の祖先の死者体と出会い、一時的に助けてもらったという。

その後、祖先は正しく成仏することができたというのだが、別れ際にこんな約束を交わした。





成仏する際に下界(多分人間界のこと)を通るから、その時に生きている子孫に書をしたためさせると。


書には、ギショウの今までの苦行、そしてこの行いを受けるのは裁きの過ちによるものなのだと記し、この書を読み、傾倒けいとうした者はそのもの自身の才によって血の契約を交わし、ギショウを牢獄から解き放つことができるようはからうと。

逆に、全く才がない者だと指が裂けるなどの現象は起きないんだとか。


「そして今日、その才を血で証明したのが、高賀宮たかみや 千霧ちぎりだ」






言うと思った。


「すごく疑問なんだけど。私、才とかないのになんで契約させられたの?」


今まで普通科の学校しか通ってなかった、普通の学生だったんだけど。


「指先が裂けたんだったな。その力は高賀宮たかみや 千霧ちぎりの潜在能力によって裂けさせることができたのだ」


「“千霧ちぎり”でいいです。潜在能力って…」


千霧ちぎりの家系が、何かの名家だったのだろうと俺は思っている」






なるほどご明察。

今は両親とも会社員として普通に働いてはいるが、おじいちゃんの代までは地域では結構名の通ったNANNTOKA KANNTOKA…まぁよくわかってないんだけどとにかく超能力みたいなものがすごかったらしい。

蔵に、今回のような曰く付きのものがあったのも頷けた。





「俺は、正しい処罰対象を探し出し魔界に連れて行く。今後、千霧ちぎりが死亡すると契約が解消されてしまい

、俺の魂は強制的に元の牢獄へ送還されることになっている。

処罰執行役人はそれを狙い、倒しにくい俺よりも千霧ちぎりを殺しにやって来るだろう。

俺はそれを阻止しながら、正しい処罰対象を探す」


「ん!?今すごいこと言わなかった!?」


「別に道理は通っているだろう。正しい処罰対象が見つかれば、その者を然るべく…」


「じゃないよ!その、前!」


「そこは仕方がないだろ。目的を達成するために千霧ちぎりを殺すほうが効率がいいなら、そちらを選択するのは明白だ」






フォローは、してくれないんだー…。


わかったことをまとめると、

①私には潜在能力が多分にあるらしい

②私とギショウは半<一心同体>状態であるらしい

③私は命を狙われることになったらしい


と、ファミレスで聞く内容じゃないものばっかりだった。


両隣の席、誰も座ってないよな。

ヤバイ奴らだと思われる。







ちなみに、ギショウが今まで生きていた世界ではボサっとしてると比較的簡単に殺されやすいため、敵意を向けられても為すがままの私みたいなヤツはマジで四六時中寝てるのと同等くらいの無防備だから最大限気を張って生きろ、と追い打ちで教えてくれた。







こっちは命なんて狙われたことないから平和ボケしてるんですよ悪かったなwwwww

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