表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深闇の清い悪魔  作者: 王子(おうこ)
3/11

嵐の前の静けさ

その人は私と共に歩いている。




雑木林と崖にはさまれるような格好の、コンクリート舗装された緩やかな車道沿いを下っていた。

片側1車線の緩いカーブが1.5キロほど続いていて、だんだん住宅地に差しかかる、という中途半端な田舎って感じの風景。

ただ、今歩いている下り坂からは街並みが見渡せて清々しい。


3月という気候から、少し肌寒さが残るが風も気持ちいい。

今の私がニュートラルな感情だったら、この情景を全身で噛み締められたんだろうな。





ギショウ。

確かそう名乗っていたと思う。


古本屋で私が見た絵本のタイトルに、少し違ってはいたけど、今、斜め前を少し早足で歩くこの人の名前らしきものが書かれていた。





「さっき、契約が何のことかわからないと言っていたが」


「…」


私は目も合わせず、こくこくと嫌そうに頷いた。

さっきから何回か同じ問答をしたので、もう声に出して反論する気力もない。


「確かにあの血の証はお前のものだ」


「…あっ」


あ。

あれかー!!!

…あー。

一度、昼下がりの穏やかな空を大きめに仰いだあと、ため息と共に思わず声が出た。

切れた小指の先がかゆくなっている。


「あれかー…」


「なんだ、わかってるんじゃないか」


「いや、わかってるんじゃなくて。今わかったんです。あー…あれかー」


「そう、それだ。通路を作った場所は看守にすぐバレる。早めにこの地を離れたほうがいい」


なんか私ぐるみで進行する感じの言い回しだ。

私の拒否の意思表示を他所に、なんの迷いもなく話を進めるこの人になんとなくイラっとして、前に回り込んで立ち止まらせた。


ギショウと名乗る人と、目が合う。




「ちょっと、状況が全然飲み込めなくて。えっと、まず私の事情から説明させて下さい。

私、明日引っ越しで遠くに行くんです。で、今日はたまたま本屋に寄ってて、昔うちにあった本が置かれてて懐かしくて手に取ったってだけで。

ギショウ、さん…がさっきから言ってる『道を作った』とかってのは私が原因みたいだけど、全然そんなつもりじゃなくて」


「そんなつもりじゃなかったとしても、そうなったんだ。もうその部分の話はいいだろう」


よくねーよ!

なんかめっちゃ腹立ってきた!!!!




「てかさっきの看守ってくだり、なに!?」


「俺は無実の罪で投獄され、毎日拷問を受けていた。あの本に書かれていただろう」




あんな不気味な本読んでない。

そう言おうとした時だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ