現出
偶然…だよね?なんかさっき読んだ本に描かれてた人と似てるようなそんなような。
私の行く手を阻むように立つその人は、切れ長の目元と、細く引かれた唇、黒のような紺のような絶妙な髪色、そして一度見たら忘れない、炎か夕焼けを思わせる色の瞳をしていた。
とても堂々とした出で立ちで、そしてどこか疲れてるようにも見える。
近寄りがたそうなオーラが出てるけど、私はその瞳に惹き込まれていく感覚を覚えた。
「お前だな?俺と契約し、こちらへの通路を作ってくれたのは」
「…?」
「先程、俺に証を示しただろう」
「…」
「おい、寝てるのか」
歯並び綺麗だなー。
あ、ああ、私に言ってるのかこれ。
なんて?契約?
してません。
証?
示してません。
「まずは礼を言わないとな。
俺の名はギショウ。牢獄との通路を作って導いてくれたこと、感謝する」
なんの話をしてるんだろう。とにかく誤解を解かないと。
今日はこれから引っ越しの準備を終えたくて、できれば早めに帰りたい。古本屋で道草くっちゃってるから尚更。
「あ、あの、ここ店の入口だからちょっと移動したほうが…」
帰路を急く気持ちと、突拍子もない話しかけられ方にテンパったことも相まってわけの分からない返しをしちゃったんだけど。
でも「ギショウ」と名乗った男性は、私の明後日の方向的な返答を特に気にする様子もなく、すんなり場所を移すことにした。