表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変貌日記  作者: 色 峯照
1/1

僕が人間でなくなった日

 ふと目覚めると、全身金縛りに遭っていた。



 手も足も、首でさえピクリとも動かない。金縛りと言えばやはり、顔面が大変なことになっている幽霊が、僕の上に張り付いててうらめしやーとでも言っているのかと思って頭上に目を凝らすが、まったくもってそんな様子はない。それなら何かの病気だろうかと勘繰ってはみたものの、よくよく考えれば、僕は生まれた時から五体満足の健康体、病気をしたこともなければ風邪もご無沙汰中である。前触れもなく突然病気になったとは考えにくい。


 そんな訳で自分に思いつく原因はないという結論に至った。

じゃあこれは一体何なのだろうか。

というか、なんでこんなに僕は冷静なんだろう。普通はパニックに陥って、ギャーとかワーとか、何かしら心の中で叫んでしまうものではないのか。

そう思いながらも、自由に動く眼だけは落ち着きなくきょろきょろしているあたり、内心僕もびびっているのかもしれない。


 そう自嘲気味に心の中で呟き、状況の把握に努めていると、新たな事実に気が付いた。

......これ、金縛りじゃないかも。

足を動かそうとしていると、妙な動きではあるが、僅かにピクリと動いたような気がした。

本当にほんの少し、だけれども。

さっきは体がすぐに動かなかったから、金縛りにあったと誤解してしまったようだ。なんて早とちりだ、と数秒前の自分に強烈なアッパーをかましてやりたい。


まあそれは後で考えるとして。


もう一度体を動かそうとするが、やはりどうやってももぞもぞとしか動かない。それでもどうにか、一人で寝るにはデカすぎる、このキングサイズベッドの端まで辿り着いた。そこから目の前にある、一階に続く廊下へとつながっているドアに向かって、母さんを呼ぼうと思ったのだ。早速僕はすうっと大きく息を吸い込み、「母さん!」と大声を出した。...と思うのだが、意に反して僕の声は引っ込んでいた。


ん?


そこでようやく初めて違和感を覚えた。なんで声が出ないんだ?

理由が分からず頭の中でうんうん唸っていると、ふと僕の目は、ベッドの脇に立てかけられた姿見に吸い寄せられた。


...はあっ?!



 そこに映っていたのは、キングサイズのベッドにごろりと横に転がった、巨大な虫だった。



焦げ茶色のなんとも硬そうな口に、白く弾力のある、大きく膨らんだ柔らかそうな胴体。全身を包み込んでいる微量の毛。臀部は内部が黒くなっているのが外側からでも分かる。


...そう。僕は一夜にして、カブトムシの幼虫へと変貌を遂げていたのだ。



いやいやいや。そんなあっさりしていてどうするよ。

最初は冷静だったであろう僕の頭は、もうショート寸前まで追い込まれていた。

今映っているのはきっと幻覚だ。だってありえないだろう、常識的には考えて。

僕はもぞもぞと、鏡の視線から逃れるように更にベッドの端へと逃げ込んだ。

しかしもともとベッドの端っこにいた訳なのだから、

これ以上端に寄ったらどうなるか。

そのことを考える間もなく、僕はベッドから転がり落ちた。



ドスン!



巨大なサンドバッグを落としたかのような、ものすごい音が部屋に響き渡った。

何が起こったのか分からない。

混乱して呆然と部屋の床を見つめる僕の耳に、

1階から誰かが上がってくる音が聞こえた。

ほどなくドアをノックされる。

何事だという母さんの問いに答えることが出来ない僕は、

無常にも、ただ開いていくドアを見つめることしか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ