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DH  暗闇の手 序章(第一部)  作者: 千波幸剣(せんばこうけん)
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(3) 沈黙の終焉(終)

「これは一体」


短時間しか効かない麻酔の効果が切れ、藤原の意識が戻る。


「そうか、スミスさんが」


車のドアの外側からノックが聞こえる。


「藤原さん、申し訳ありませんでした。ドアの外側を壊してしまいましたので、内側からお開け下さい」


「スミスさん、警護の人たちはどうなりましたか」


心配そうに問い掛ける藤原。


「玄関口に居たものは全員職務を精一杯全うしました」


その声には悲壮感が漂うようなことはなく、誇りを感じさせる力強さがあった。


「そうですか」


その言葉を聞き、事件のことについて、藤原はそれ以上詳しく聞くことをしなかった。


「渡部さんとイザベルの方は動きはありましたか?」


「研究所は警護チームも含め、大丈夫なようです」


「しかし、DHとは。渡部さんの見解はどうでしたか」


「やはり、半信半疑といわれながらも同じ事を言っておられました」


「玄関口以外に内部の建物の状況はどうなっていますか」


「今SAT1の方々が建物の全フロアの確認をしておられます」


「後ほど、全フロアの映像解析をしないといけませんね。どういう方法でこの事件が起きたのか、原因を早急に解明しないと」


「警護チームの中にこの事件を作り出した犯人が紛れていたのかもしれません」


「スミスさんには申し訳ありませんが私も同意見です」


「しかし、誰かがDHを警護チームだけに服用させることは可能なのでしょうか?」


「実は私もそれを考えていました。DHの持続時間を考えると、ただ口を付けて含んだ程度の量ではないですね」


「渡部さんもそう言っておられました」


「この件については想像力よりも現実の映像を見るほうが早いのかもしれません」


「私は警護チームの部下達をこんな風にした人間たちを地獄に落とすまで絶対に死なない決意をしました」


「もちろん、私も許すつもりはありません」


その後SAT1が二人に近づいてきた。


「特殊警護チームのスミス隊長、建物内に異常がない事を確認いたしましたのでご報告にあがりました」


「ありがとうございます。SAT1の方々に何か異変はございませんか」


「最新防護服を着用しておりますので大丈夫だとは思いますが、着用した服はすべて検査が入るようです」


「そうでしたか。ご苦労様でした」


「スミス隊長。部下の方々のご冥福をお祈りいたします」


敬礼後、頭を下げている。


「こちらも申し訳ありません。SAT1の方々のご冥福をお祈りいたします」


スミスも深々と頭を下げた。


「それでは私はまだ任務が残っていますので失礼いたします」


「ご報告ありがとうございました」


藤原は二人の会話に入ることは無かったが、スミスと同じく、深々と頭を下げた。


「日本の特殊部隊のエリート、SAT1の方々も今回の件で何名か亡くなられたのですね」


「申し訳ないことをしました」


「スミスさん、敵は誰でしょうか?」


唐突に藤原はスミスに疑問を投げかけた。


「正直、私には分かりません」


「僕も同じ意見です」


「しかし、その背後にはドイツが暗躍しているのでしょうか?」


「私はそう睨んでいます。今も僕たちの光景を何処かから覗いているのかもしれません」


「それなら、私の決意も聞こえているはずですね」


「そう思います。正体も分からず、どこまでの科学力を保持しているのかも分かりません」


「目的は何でしょうか?」


「それすら今のところ見えてきません」


「今回の事件を日本で起こしたのはただの実験でしかないということでしょうか?」


「そうなのかもしれません。事前に食い止めることが出来ましたが、もしそれが出来なかった場合は」


「この東京が大パニックになり、避難のために人口の大幅な減少も 免れなかったと思います」


「東京が稼動しなくなるということは日本経済は大打撃を生むことになりますね」


「そして、この事態を止めることが出来ても、相手側には日本の手の内を見せてしまうことになった分、次回は実験ではなく大きな計画を仕掛けてくるかもしれません」


「どちらにしても相手側は自分の手を汚すことなく日本を壊滅させる力はもっているという事ですか」


「あくまでも推測ですがこれから先のことを考えると、そう思って対処できるように対策を立てることが必要だと思います」


「あらゆる場面を想定ではなく、創造してこれから対策を立てなおします」


「スミスさん、こんな時にあれですが、今日はこの後は全てが終わったら、出来ればゆっくり休んでください」


「眠れるようだったらそうしてみます」


「はい」


「それでは私は部下達の寝顔(死に顔)を見に行ってきます」


「私は研究室に行ってみます」


「お1人で大丈夫ですか?」


「あなたには言われたくないです」


「分かりました。藤原さん、くれぐれもお気をつけて」


「私の分も最後の挨拶をよろしくお願いします」


「はい」


現場検証はまだ終わっていない為、SAT1のメンバーは警護も兼ね、建物全般に残っている中を藤原は自分の部署へと進む。


スミスはSAT1の車の一台に乗り込み、部下達の検査が行われている科学捜査研究所へと向かった。


「しかし、ここまでとは」


経済産業省の中に入ると藤原の通り抜けるフロア全体から鉄錆びの匂いに似た強烈な血の香りが鼻を刺す。


この日、省内に残り、残業をしていたもの全員が死んでしまったことを藤原はこの時まだ知らなかった。


この事件を日本政府は隠すことは出来ないだろうがどういう会見をするのか藤原には想像が湧かなかった。


次の日の新聞、TVでの報道はその話題で1日持ちきりだった。


経済産業省内に立てこもるテロリストによる大量殺人が起きるがSATによる射殺により、殲滅。


こういうときの為に日本政府が極秘に留置し死刑が宣告されているテロリストを射殺しこの事件の犯人とした。


今回の場合は省内には1人の生存者も見つからなかった為に難なく処理されたようだ。


藤原は自分の認証が終わり、部屋の扉を開けた。


「誰も居ないか」


辺りを注意深く見渡したが誰の気配もない。


「ふぅー」


その時、部署の扉を叩く音があったが藤原はあえて無視を決めた。


「この部屋はいいから先へ行け」


どうやら、SAT1内で情報の統制が取れていなかっただけのようだ。


「今襲われたら終わりだったな。それでは気を緩めずに降りてみますか」


スミスと別れる際に一応と小型麻酔銃は持たされている。


研究所に向かってエレベーターで下っている間に今日起こったことをもう一度頭の中で整理していた。


そうしている間に到着し、ドアが開いた。


しかし、藤原は目の前の光景に立ち尽くした。


渡部、イザベル、研究所のスタッフ、警護チーム、すべての人間の銃口が自分1人に向けられていた。


「またか」


今までの緊張感と、この光景に藤原は自然とへたり込んでしまった。


「お兄様でしたか。よくご無事で」


イザベルの言葉に緊張の糸が切れたのか、抵抗する力は残っていない。


「藤原、そこでへたり込んでいる場合じゃない」


「すいません。現実とは思いたくない光景を見てしまったので今更ですが身体がいうことを利かなくなりました」


「そういえばそうだったな。こちらもフィルターモードが作用してくれたおかげで助かったようだ」


「引っかかるものが出てきたということですか」


「そういうことだ」


「発信先はどこですか」


「多くのサーバーを経由しているようだが、この日本だった」


「日本ですか」


「しかも、内閣府内のパソコンが原因だ」


「内閣総理大臣が」


「いやそれはない。しかし、内閣府の中のスタッフ、あるいは潜入した人間がいるということにはなる」


「やはりそういうことか」


「何か気になることがあるのか」


「気になるというよりはいつでも日本は相手側の手中に出来るというメッセージだと」


「この省内だけでなく、まさか内閣府の内部からこの研究所のシステムへのハッキングが行われているとは私も思わなかった」


「平和ボケした日本の想定内の範囲やマニュアルが通じる相手ではないと」


「イザベルの一件といい、今回の事件といい、すべてはただの脅しなのかもしれないな」


「しかし、目的がはっきりしない」


「目的ははっきり分かりました」


「やはりイザベルではないでしょうか?」


「何故そう思う」


「あの一件は相手側の本気が見えましたから」


「今回の事件とどう違うというのか」


「今回の事件は自分の手を汚していませんが、失敗はしたものの、あの一件は相手側の部隊が待ち構えていました」


「確かにお兄様のライブヒューマノイドセンサーを持参していなければ、私は誘拐されていたと思います」


「それに加えて、警護チームのナンバー2まで掌握していた完璧な計画でした」


「冷静に考えれば、そういうことになるな」


「フィルターモードに掛かっているのはそう考えるとDHシステムとは別のものかもしれません」


「メッセージか脅迫のようなものか」


「そうかもしれませんが分析は明日でもいいですか?」


「構わん。お前たちも今日はもう休め」


「フィルターモードに反応した方はおられませんでしたか」


「よくは分からんが誰もおかしい反応を示した人間はいなかった」


「それなら大丈夫ですね」


「お兄様あのフィルターモードとは」


「それはお前にも今は内緒だ」


「分かりました」


フィルターモードは本当はイザベルと二人で作り上げたシステムだが全員が集まる目の前でこう発言することでイザベルへの危険も自分に向けれることになると藤原はあえてこういう発言をすることにした。





ムーシンパシィによる二人の会話


(イザベル、フィルターモードの作動中おかしい動きをする人間はいなかったか)


(大丈夫でした)


(DHシステムにおかしなものは入り込んだか)


(それもありませんでした)


(フィルターには何が引っかかった)


(何かメッセージのようなものかもしれません)


(宣戦布告かもしれないな)


(分析はしていませんが間違いないと思います)


(もう俺だけの力では防ぎきることは出来ないかもしれない)


(いつでも力をお貸しします)



ムーシンパシィの会話、終了





「それよりお兄様、リャンミオさんと何をされていましたか」


「それは中国と日本の架け橋になるような深い交流をだな、していたわけだ」


「リャンミオさんに何をされていました」


「ああ、フレンチキスだな。リャンミオさんは海外への移動も多いから挨拶のようなものらしい」


「私にもフレンチキスというものをしてください」


「お前は妹だろ。それに日本ではそんな挨拶は存在しない」


「そうですか。私が寄り添うように近づいても、抱きしめられたことはありませんが」


「それは」


「それは」


「よろける様にこちらに倒れてきたのでしっかりと受け止めないといけなかったからなあ」


「なるほど。今回はそういうことにしておきます」


まだイザベルには本当の気持ちをいえない藤原だった。


イザベルも本当は藤原の気持ちに気付いていたがブラコンの気配が消えることはなさそうだ。


「二人とも、そういう会話はお前の部屋に行ってしてくれ、イザベル」


「分かりました。お兄様、行きますよ」


「渡部さん、他のスタッフや警護の方は」


「とりあえずの脅威は終わった。それぞれ自分の部屋で休んでもらうことにする」


「とりあえず、このエレベーターの稼動も止めておきました」


「今日はその方がいいようだな」


「はい」


「それでは私も今日はここで休む」


「分かりました」


「お前はイザベルの守りを頼む」


「はい。有意義な時間も過ごさせていただきましたので、異論はありません」


「藤原」


「はい」


「明日から忙しくなるとは思うが」


「分かってます」


事件は一応の終止符となったが世界各地のWR研究所での異変は渡部や藤原の予想を超え、組織としての存続さえ危ぶまれる事態になっていた。


日本も例に漏れずその事態を何とか阻止することは出来たが渡部を始め、研究所のスタッフの不安も無くなったわけではなく、より一層の警戒と緊張を深める結果となった。


約一名を除いては。


「お兄様、今日は私が独り占めする日だと決めましたので」


「俺は誰かの持ち物じゃないぞ」


「リャンミオさんのことをすべて調べ上げてもよろしいですか」


「お前のことだから、既に調べ上げているんだろう?」


「よくお分かりですね」


「それで何が分かった」


「お兄様が大変好みだということが分かりました」


「お前、何を調べた?」


「ですから、リャンミオさんの好みの男性を調べてみましたが該当する方がおられませんでした」


「はい?」


「それでお兄様に対する行動、仕草、表情や口元の動きなどを冷静に分析しました」


「はぁ」


「それからお兄様、一瞬ですが殺されそうになった場面がありました」


「そういうことは感じたことはなかったけどなあ」


「それはお兄様がリャンミオさんに見とれていたからですね」


「本当に殺されかけていたのか?」


「はい」


「まあ、知らなかったことにしよう。それに殺されるにしても一瞬なら死ぬことも気付かないだろうし」


「いえ、あれは毒針のようなものに見えましたので、じわじわ苦しんで死んでいくものと予想されます」


「まさか、本当に」


「はい。と思えば、よろけてみられたり、男性の心を魅了する術にも長けたお方のようです」


「そうですか」


「そうです。お兄様には私という存在が居るのを知っていながら」


「それ、リャンミオさんにも言われたけど、お前は妹だろう」


「妹という立場ではありますが血は繋がっておりませんので」


「遺伝子は似ているような気がするんだけどなあ」


「異なります。そこは分析済みです」


「そうなのか」


「お兄様はリャンミオさんのことをどう思っておられるのですか」


「一言で言えば、大切な人だな」


藤原はあっさりと答えた。


「では、わたくしのことは」


「大事な存在だな」


「大切と大事ではどちらが上なのでしょうか?また調べなければならないことが出来ました」


「イザベル、とりあえず、今日はいろいろあったんだから、そろそろ寝ることにしないか」


「はい。今日はこのままお兄様の腕枕で寝ることにします」


「分かりました」


「それではお先に寝させていただきます」


「おやすみ」


「おやすみなさいませ」


この光景をリャンミオさんに見られたら殺されてしまうかもしれないという疑問が頭を過ぎりながら藤原も気付けば目を閉じていた。


「リャンミオさんでもお兄様は譲りません」


藤原が眠ったのを確認すると、イザベルはそっと藤原の頬に軽く口づけをして、幸せに満ちた顔を浮かべながら眠りに就いたのだった。


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