表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DH  暗闇の手 序章(第一部)  作者: 千波幸剣(せんばこうけん)
12/17

(3) 沈黙の終焉①

「イザベルさま、到着しましたが本当に食されるのでしょうか?」


先に警護メンバーはチキンカレーの店舗に入り、安全を確認の上、スミスに連絡が入った。


「スミスさん、あなたが私の代わりに食べてくれますか?」


「それがよろしいでしょうね」


「私は栄養ドリンクを飲む時間なので食事はご一緒させていただきますし、お兄様の大好物のカレーというものに興味がありますので、お願いします」


「分かりました」


「それではご一緒致しましょう」


車のドアに手を掛け開けようとするイザベルの手をスミスが咄嗟に止めた。


「イザベルさま、申し訳ありませんが本日の予定は中止になりました」


「そうですか。何か変わったことでも」


この言動がイザベルという存在を表している。


「周りをすでに何者かに囲まれているようです。私のミスです。申し訳ありません」


スミスが店内の警護メンバーに指示を出す。


「いいか、そこを動くな。相手さんは店内にはいないようだから、怪しまれないように普通に振舞え」


「S1了解、S2了解、S3了解、S4了解、S5了解、S6了解、S7了解、S8了解」


「店内以外の警護もまだ動くな。強行突破でこの場を離脱する。指示を待て」


「了解」


「スミスさん、私のわがままでこんなところまで」


「いえ、いいんです。たまには生き抜きも必要だと思っていましたし、こういう事態も日頃から想定していますのでお気になさらないで下さい。それよりも部下にも伝えましたが、強行突破にしますのでイザベル様をお覚悟をお願いします」


イザベルが鞄から四角いケースのようなものを取り出した。


「前後左右に各2台づつですね。前方には大型トラックも含まれています」


「それは一体」


「こういう状況も見通して、お兄様が持たせてくれたものでライブヒューマノイドセンサーというらしいです」


「あの人はそこまでお見通しですか。一体何者なんでしょうか」


イザベルは微笑んだだけだった。


「それよりも、スミスさん、ここは素直に後方に移動がお勧めです」


「緊急事態ですが、渡部さんに連絡いれる時間もなさそうなのでそのルートで行きます」



ライブヒューマノイドセンサーとは


人間の温度を感知し、全方向において生体反応のある人間の存在を半径5km程度までスキャンし、その位置を割り出し、表示できるものである。ムーブの機能も併せ持つ道具でその場所の画像を元に調べたい画像の映像も同時に表示できる。この2つの位置を重ね合わせて、表示することが出来る。このセンサーにはまだ隠れた機能はあるが、イザベルもまだこの時点でセンサーの性能のすべてを知っているわけではなかった。


「しかし、このトラック2台の中に合計20名以上ですか。その機械が無ければ前方から突破しようとしていました。どちらも名のある引越し用の会社のものなので瞬時に捕まってしまうと怪しまれることもなく逃げられてしまうところでした」


「やはり、私が目的なのでしょうか」


「この大掛かりな罠をこの短時間で準備してしまうということはそれ以外にはなさそうですね。それにしても、情報が漏れている恐れも出てきましたので、この危機を乗り越えられたあとには自分の部下も疑ってみる必要が出てきました」


「そういえば、スミスさん、日本語がお上手になりましたね」


「イザベルさまはこんな時でも周囲を和ませてしまわれる。おかげで気持ちが落ち着きました」


そう言いながら今度はスミスが微笑んでいる。


「スミスさんが落ち着かれないと私も部下の方たちも大変ですからね」


「イザベルさまには敵いません。それでは少し我慢してください」


「分かりました。よろしくお願いします」


「G1、車をU-タンして後方に出せ。あとは強行突破する」


「分かりました。その前にあなたはお降りください」


「G1、まさかお前が」


「私はこんな平和な場所で警護をしていることに毎日苛立っていたんですよ。狂気の世界を創作する手伝いをしないかと誘われまして」


肩を落としながら自分の顔を隠すように武藤は話している


「お前は俺の一番信頼していた部下だった」


「あなたの様な平和ボケした上司が私には必要なくなっただけですよ」


「G1、いや武藤。お前は世界大戦でもしたいのか」


武藤の顔がニヤケ始めた。


「その通りですよ。人間など滅んでしまえばいいんです。その代わり一瞬ではなく、血みどろの殺し合いの世界を私はこの目で見たいんです」


「武藤さん、あなたは間違っています」


イザベルも制止に入った。


「気持ち悪い培養人間様に言われたくないなあ。何がイザベルさまだ。お前の存在が気持ち悪いとずっと思っていたんだよ。あの藤原の態度と言い、お前らの方がよっぽど狂ってる」


「武藤、今なら、まだ間に合う。店内の警護のものは動かないように指示しているがこの車内の会話は渡部さんの指示で通信が流されている。無謀なことは止めるんだ」


スミスの機転ではあるが、本当は通信は繋がってはいない。


繋がっていないはずだった。


「スミスさん、あなたは邪魔なのでここで死んでもらいます。あと通信は繋がっていませんよね。機転の早さには毎回毎回だまされ続けて、何度もイザベルの誘拐に失敗し、組織にも怪しまれましたが、今日でそれも最後です」


その時、イザベルのライブヒューマノイドセンサーから声が聞こえてきた。


「武藤お前が裏切っていたのか」


渡部の声が聞こえてくる。


「何故だ。通信という通信はこちらの組織でも妨害電波により遮断されているはずなのに」


「これは特殊なものだ。それよりもイザベルとスミスをそのままにしてお前は逃げるなり、このままチームの捕獲を待つなり、自分の選択をするんだな。その周りを見てみろ。既にお前の仲間たちは消えているはずだ。うちのチームが到着する前に勘付いたらしい」


「せめて、スミスさん、あなただけは殺しておく。そうでないと自分の立場は危うくなる」


スミスは目を閉じ、覚悟したが一言だけ囁いた。


「お前にとっての命の重さはそんなに簡単なものだったか」


「うるさい。もう後戻りできないんです。私は私の心の弱さに負けてしまったときに私の人生は終わってしまった。あなたにこれほど信頼されていたのに私は」


その時イザベルが一瞬の間に銃を取り上げた。


しかし、スミスも武藤のその後のイザベルの行為に驚嘆した。


武藤さん、私が死ねば、この世界を戦争に巻き込むという気持ちを抑えられますか?


私がその組織に同行すればあなたは心を入れ替えてくれますか


気持ちの悪い培養人間に何故あなたはあんなに優しくしてくれたのですか


いつも私のことを気にかけてくれたのですか


それが任務の一部だったとしても私はすごく嬉しかったのです


確かに私は生まれてはいけない存在だったのかもしれません


それでも今生きていることが嬉しくて仕方ありません


お父様、お兄様、スミスさん、武藤さん、研究所のスタッフ、警護の方


その他にもいろいろな方に迷惑を掛けて私は生きてます


私が存在することで周りの皆さんから笑顔が消えるというのなら


私は今ここで自分自身を殺します


「イザベル、聞こえるか」


聞こえてきたのは、藤原の声だった。


「あのなあ。その銃をよく見て見ろ。撃てるようにはなっていないぞ。最初から武藤さんは誰も撃つ気は無い」


イザベルは銃の安全装置を確認したが藤原の言うとおり、解除されていなかった。


「藤原さん、やっぱりあなたは気持ち悪いほど狂ってる。こんな事態でも何故そこまで冷静なんだ。あなたならイザベルさんを最後まで守り抜けます。スミスさん、申し訳ありませんでした」


誰もが引き止める言葉を掛けようとしていた。


武藤がその直後車を降りたほんの数秒のことだった。


どこからともなく飛んできた銃弾に頭を打ち抜かれ、倒れてしまった。


イザベルとスミスの乗っている車体にも20発以上の銃弾が撃たれた痕跡があったが、中の人間に被害も怪我もなかった。


その後、少し遅れて、警護チームの応援が到着したが、武藤の瞳が再び開くことは無かった。


イザベルは武藤の撃たれる瞬間を目の前で見た後、気を失ってしまった。


スミスは声もなく、涙を堪える為に下を向いていた。


イザベル誘拐は未遂には終わったが日本の研究所にとって後味の悪い忘れられない出来事になってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ