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DH  暗闇の手 序章(第一部)  作者: 千波幸剣(せんばこうけん)
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(1)  完成と、未完成の対立①


この物語はフィクションがフィクションたる所以である21XX年の物語である。


21XX年、フィクションの中の世界ではWR(世界の障壁)と言われる組織により生活、経済、医学、化学、戦争、天災や気象でさえ、コントロールされ、計画的に運行されていた。それだけではなく、WRでは極秘裏に人々の感情や精神の中にまで入り込み、生死さえも操る事が可能な人類選別システムの完成が待たれていた。


世界各国の地下深くに秘密裏に建設されている研究所の中での会話である。


「藤原君、ついに出来上ったみたいだね」


世界各国の研究所を出し抜き、自分の地位を確信した自信がガラス越しの表情と、スピーカーを通して、藤原には聴こえてきた。


「渡部所長、ついにやりました。仮システムにはなりますが、これで全世界のすべての人間が癒される時間を作れることが出来ます」


「癒し、藤原君、君は何を言っているのだ。癒しではない。勘違いしてもらっては困る。妄想空間の中で生きて死んでゆく。心地良い死へと導く、最新にして最高のバーチャルプログラムシステム。それがいわゆるDH。世界各国の政府の公式名称では、表向きの対策として、ドクターハウスだとかドクターヘッドだとか、いろいろな含みを持たせて呼ばれていたが本当の正式名称はダークネスハンドレッドだ。どんなブログラムにもバグは付き物だからね。想定外とすれば、この世界の民は初めこそ、疑問に思うこともあるが、すぐにその想定外を受け入れてしまう。そういう環境を作り出したのがわれわれの組織なのだよ。100年計画のまだ序章に過ぎないが、それより君は、会議中、何をしていたのかね、全く。今回の会議は最重要だと言っておいただろう。いつものように寝ていたのかね。君はそれも許される立場にあるから私からは何も言わんが」


(こんな人間に仮想とはいえDHが作れて、表向きの世界では天才の名をほしいままにしている私がその一端すら作ることが出来ないのは不快である。だが、しかし、システム開発と運用の責任者としてはお前という存在はこのシステムに不可欠だから受け入れるしかないがな)


「ダークネスハンドレッド、暗闇の百とはなんですか?」



「簡単に説明すればだ。このシステムを使用した人間は、暗闇の世界を永遠にさまよい続けるということだ。ついに我々人類を苦しめてきた神々との長きに渡る戦いが終わりを告げるときが来たということだ。」


「渡部所長、あなたは一体何者なのですか?私は暗闇のシステムを作った覚えはない。このドクターヘッドシステムで鬱や躁鬱に悩む人たち、ストレス社会に生きる人たちの心の空間を癒し、現実世界に戻るときには、気持ちも和み、穏やかになる。現実の世界に帰った後も平和で穏やかな社会を築きあげてくれる人を大勢増やし、殺人、戦争、妬み、恨みなどのない世の中を育んでいけることを夢見て開発してきました。昼夜問わず研究製作に時間を費やし、没頭してきたこのシステムは世界中の人々を永遠なる死へと導く為ではありません」


「そう、使い方の方向性でどちらにも転ぶ。それはどの時代の発明品も然り。君の発明したDHシステムは、大いなる成功だよ。そして大いなる意志によって組み込まれた人類選別プログラムが形になったものなのだよ」


「大いなる意思とは」


「そこまでは君には口には出来ないが、人類選別計画を進める上での最終兵器になるとその意志はおっしゃっている」


「人類選別計画の最終兵器。しかし何故このDHシステムがそんなものになるのか私には全く理解できません」


「理想の社会を築き上げたいという理念を持つ君ではあるが、現実的には社会との接点をあまり持とうとしない。むしろ極端に内向的な人間だ。世間・社会・現実・情勢・経済すべては大いなる意志の力で動いていることを君は知らないまま暗闇の世界で引きこもっていたね。いや、君は知っていても、この世界が君を受け入れない。なぜなら、この世界の中でも君は異質な人種の一人として判断されているからだ。だから我々のチームでも君のコードネームは神の啓示という一人だけ謎めいた名前をつけていた。そのために他のチームメンバーからも君はチームの仲間ではなく異質な存在としての立場で扱われてきた。それはいくら君でも気付いていたはずだね」



「それは気付いていました。しかし、そんなことは僕には関係ない。むしろそれくらいのことで自分が変わることもありません。私は夢を見てしまったんです。このシステムで世界が劇的に変化してゆく夢を。その為なら、他人にどう思われようが全くどうでもいいと思ってしまった」


「そう、他人の視野や感覚で動じない。心も折れるということを知らない。その動向がこの世界の住民とは異質ということなのだよ。そして神の啓示とも思える夢を現実に変えようとする意志。異質でありながら、結果を出せば出すほど天才の域、神の領域に入り込んでゆくその大いなる可能性。この世の中にあってはならない存在。君はまさしく神の啓示という存在そのものなのだよ。」


「自分ではまったく分かりません。私自身の人生はむしろ失敗続き。それでもなんとか自分の生き方を見つけようと、もがいて、もがいて、それでもまだ失敗して、もがいて生きてきました。自暴自棄になる時期を何度も経験しましたし、他の時代に生まれて来れば良かったと心底思うこともありました。しかし、このシステム開発に携われるならと、募集要項のセキュリティの限界を示せというただ1つだけ課題を提出して、日本の代表として選出していただいたわけですが、あんな課題は誰でも同じ答えになると思うのですが何故私が選ばれたのか、未だに分かりません」


「その話の続きはまたするとしよう。それよりも何故このシステムが死を導くシステムになるのかを会議を聞いていなかった君に改めて話そう。君は今子供たちがインターネットゲームで死んでいるのを知っているかね」


「TVやネットのニュースで見たのは記憶にありますが、確かゲーム中毒ですよね。現実の世界とネットの世界が逆転してしまう感覚が自分も分からなくはないですが、中毒になる人間はそれほど多くないとは思いますが」


その問いかけに顔長で堀の深い渡部の顔がニヤリとした。


「いや、良く考えてみろ。あまりニュースにならないイコールが多く者が中毒で死んではいないということになるのかね。この世の中、どの時代もその時の権力者達の支配する意志世界の中で民は生まれて、動いて、死んでゆくことの繰り返しが行われてきた。多くのものはその存在すら気付かないまま、自分が選んだ人生を歩いて死んでゆけたと信じて疑わないまま墓場の中だ。話を元に戻すとだ。つまりは、一つの大きな主要産業となるほど大きくなったインターネット世界という現実と違うもう一つ世界はそれに携わって利益を出している者がその世界の奥の闇を表に映し出すことを自ら推し進めようとするかね」


「それは隠蔽された死も多く存在するということですか?」


「その表現も少し違うな。隠蔽をする必要もない。率直に言えば、出来ないといった方が正しいな。情報はインターネットを通じて世界中を駆け廻り続けているからね。しかもインターネットの中のゲームのやりすぎで死を迎えたことなど家族自身が公にしたくもない事柄だと思うがね」


「確かに」


「しかも、使う側、消費者という名のプレイヤーは自らの存在を廃人と呼ぶものまで出てきた。これだけやっていると自己報告を板と呼ばれる掲示板に書き込んではニヤニヤ微笑み、それを自慢のように実況しながら書き込みする輩さえいる。しかも身体の痛みを全く伴わないと勘違いしてる。むしろ、本人たちは心地良ささえ感じているかもしれない。そして現実の世界。核家族化による家族関係薄れ、世界的経済恐慌による景気の悪化・共働きによる子供教育放置の甘やかし親たちの増加、自己都合主義による他人・家族を巻き込む我侭から始まり、虐待や暴力、この場合、この主義の人種に疲れ果てた人々のストレスによる同じ行動も併せもつ傾向にある。流れに任せたままで生きてきた人種たちの離婚率の増加・インターネットによる世代を超えた会話に基づいた上下関係の薄れ、まだまだ数え切れないほどの人間による悪化言動はあるが、この時代の世界の流れは進化式後退社会現象というプログラムで構成されている。そして、我々の組織が作りだしたこのプログラムの世界の中で人類は流動するように生きるようになった。いかん、いかん、話をずらしてしまった。インターネットという世界の中では頑固なまでにその世界の中に固執し、住民という言葉で住み込み続ける人間達の増加。現実という世界をリアルと呼び、リアルの世界に帰りたくなくなった人間が今現在も更に増加しつづけている。君はゲーム中毒といったが、それだけではないのは私の説明で少しは理解したかね。しかも低年齢化が進んでいることも付け加えておく。この辺りの事は会議でも多少は議題に挙がっていたのだが、君は全く聞いていなかったようだな」


「しかし、それでも、この世界の中では、死者はそれ程多くは、出ていないような感じがしますが」


(もう少し会議とは違う細かな情報を引き出さなければ)


「そう、確かに今まではそうだった。しかし、このアジアの先進国と言われる日本ではどうだ。インターネットを1つのツールとして使いこなせればいいが、むしろ完全に飲み込まれているではないか。飲み込まれるというのも簡単には2通り。パソコン、インターネットに慣れるまで時間の掛かる者たち。逆に進化を続けるパソコン、最新携帯などで通勤通学はもちろん、空いた時間をすべてインターネット世界に飲み込まれる人たち。このシステム自体が話題になればこの国の人間達はさらに使わずにはいられなくなる。しかもだ、インターネットという画面を通じて、場所を選ばずに簡単に。これから発売されるすべてのパソコンに強制導入しておいてもいい。そこに我々の組織が目をつけたのだよ。この日本という国はいい実験材料になる。一見自己主張も強く見える人種だが心の奥底ではここまでかと思うほどに社会や体裁を気にしながら生きている国家だ。流行というものが毎年毎シーズン出来ては消えていく。要するに流されやすい人間が多いということだ。TVでこれがいいというとその商品は瞬間爆発的に売り上げを伸ばし、1週間もしないうちに正常に戻る。そう、すでに進化的後退プログラムを見事に導入できている国でもある。この国の人々は中途半端という言葉をとても嫌う。しかし、生活水準はというと中流階級だと思うと安心する。そして、ちょっとしたことでそのバランスが崩れたときに精神的破綻・財政的破綻の両方を起こす。これは社会においても、個人においても全く変わりない。君の作り上げた仮のシステム自体も実験的には今まさに稼動しているのだよ。アースシステムとか言っていたね。あのシステムは人々の心の中に入り込みやすいプログラムだということはここ1年のデータが証明している」


「未完成なアースのプログラムが稼動されていたなんて私は聞いていません。どういうことですか」


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