レベル99のギルド暮らし
ある日、俺はVRMMO的異世界に行く方法を見つけた。
その上、レベル99、HP・MP・攻撃力・防御力・素早さMAXというチート状態だ!
俺は早速異世界に行った。こっちじゃ平凡な一般人でも異世界じゃスーパーヒーローだぜ!
そして、異世界にやって来た俺はセオリーに従って(異世界だしね!)ギルドに向かった。
ギルドの中には何人も異世界人がいるが皆レベルもステータスも低い低い。こりゃ俺みたいなのがギルドに加わったら大変な事になっちゃうな!
俺はギルドの受付に話しかけた。取り敢えずはセオリー通り(異世界だしね!)に採集ギルドに登録することにした。
「やあ、君。ギルドに加わりたいんだが。採集ギルドに入れてくれないか」
レベル99だしいきなりギルドマスターとかに任命されちゃったりして!
「はい。採集ギルドですね、えーと貴方のステータスと経験値ですと……見習いランクからですね。頑張ってください」
は?
「おいおいおい! 見習いって何かの間違いだろそりゃ! 俺のレベルとステータス見たの!? 最高ランクでしょ!」
「え、す、すいません。もう一度確認させて頂きます……あの、やっぱり貴方は見習いランクです」
「はあー!? 何でよ!」
「何でと言われましても……」
「あのー……ちょっといいですか?」
俺が受付の意味の分からん言葉に苦しんでいると後ろから誰かに話しかけられた。緑色の髪のポヤヤンとした青年だ。
受付とは顔見知りらしく俺の質問に迷惑げな受付(後でぶっ飛ばす!)はその青年を見て途端に嬉しそうな顔になった。
「マッケンジーさん! 帰ってらしたんですか!」
「こんにちは。何だか大変そうですけど、どうしたんですか?」
「いえ、此方の方が採集ギルドに加入したいといらっしゃったのですが……」
露骨に嫌そうな顔をして説明する受付(絶対に後でぶっ飛ばす!)。マッケンジーという青年はふんふんと頷いて聞いている。
「成る程、お話は分かりました。では私と一緒にギルドのお仕事に行きましょう。そこで貴方のお力を見させて頂きます」
俺は唐突な話の流れに追いつけいていけない。
「はあ? 何であんたと?」
「ちょっと、貴方! 失礼ですよ! マッケンジーさんは採集ギルドの最高ランクの方で、次期ギルドマスターなんですから! ていうか貴方、こんな有名人も知らないんですか!? お忙しい方で同行できることなんて滅多に無いんですから!」
受付は烈火の如く怒り喚き散らしている。
そんな馬鹿な、在り得ないだろ!
俺は信じられなかった。
マッケンジーのレベルはたった20。ステータスの数値も俺の十分の一くらいだ。まさしく見た目通りのポヤヤン男じゃねーか!
何でこんな奴が採集ギルドといえど最高ランクで次期ギルドマスターなんだよ!
「あんたが次期ギルドマスターだって……マジで?」
「失礼ですよ!」
「まあまあ、落ち着いて。ええ、僭越ながら。私なんかがギルドマスターになるなんて自分でも信じられませんけどね」
本当だよ!
「まあ、さっきも言ったように一緒に仕事に行って貴方の力量をチェックします」
「ちょっと待った!」
俺はマッケンジーを遮って言った。何で俺がテストされるんだ!
「俺の力はレベルとステータスを見れば分かるだろ! チェックするんなら俺があんたの力量をチェックする!」
「うーんまあ、別にそれでもいいですけど。受付さん、採集の仕事ありますよね?」
「ええマッケンジーさん。大変でしょうが、いつも通り山盛りです。リストは出来ています」
「ありがとう。うーん、そうだな……これなんかいいんじゃないかな。それじゃあこれに行きましょうか」
マッケンジーが示したリストには『オオシロワタの採取』と書かれていた。
そして、数日後。
俺はマッケンジーと共に街から遠く離れた平野に来ていた。折角の異世界なのにいきなり男と二人旅だ。信じられない。
ちなみにマッケンジーは超いい奴だった。(俺と違って)友達も超沢山いるみたいで、街の中にいても道中でも皆に話しかけられていた。
後、俺はオオシロワタが分からないのでマッケンジーに聞いた。マッケンジーは大笑いしていた。
"面白い冗談ですね、最高ランクの登竜門の仕事ですよ、もしかしてチェックしてるんですか?"と言っていた。
結局、俺はオオシロワタが何なのか分からないままここにいる。
平野に着いたマッケンジーは空を見ながらスタスタと歩き、突然止まった。平野のどまんなかだ。マッケンジーと俺以外には何もない。
「おい、何で止まるんだ?」
「え?」
「だから、何で止まるんだって聞いてるの!?」
マッケンジーは困惑した顔だ。
「何故って、オオシロワタの実りの時期と天候、風向き、湿度、気圧からこの地点が採集に適しているのは自明の事だと思うのですが……それに今日はよく晴れて乾燥していますから多少修正を加えているのですけれど」
え、天候? 時期? 湿度?
「え、あ、そうなの?」
「はい。あ、もしかしてチェックでしたか? どうです、合ってるでしょ? 結構、自信あるんですよ」
マッケンジーは自慢気に胸を張っている。
全然何言ってるのか分からない。と、取り敢えずごまかそう。
「そ、そうだな。いいんじゃないか?」
「そうでしょうそうでしょう!」
フンスフンスと鼻息荒く自慢するマッケンジー。
しかし、採集するにしてもどうするんだ。道具だって何かの入れ物位しか持ってないぞ。大体何にも生えてない場所なんだ。
そうしていると、マッケンジーが興奮も露わに空を指さす。
「さあ! 来ましたよ! オオシロワタです! 私、この光景が大好きなんですよ!」
俺は空を見上げた。すると遠くの方から雲が急速に近づいてきているのが見えた。
風に乗ってどんどん此方に近づいていくる。
そして、近くまで来て分かったが、どうやら雲ではなく綿みたいなモノが密集しているようだった。フワフワと実に柔らかそうだ。
真っ白なワタ。これがオオシロワタか。
俺はこの異世界ならでは幻想的な風景に目を奪われながらも、マッケンジーがどうするのか見ていた。
マッケンジーはその場から動くこと無く佇んでいる。
もしかして、こいつ見とれてるんじゃないだろうな?
そう思った矢先。オオシロワタの雲は俺とマッケンジーの頭上で止まった。太陽の光を隠して大きな影が振りかかる。
マッケンジーは動かない。手を差し出して頭上のオオシロワタを見ているだけだ。
すると、雲から一欠片の綿が落ちてきた。拳位の大きさだろうか、空気に乗ってフワフワと落ちてくる。
そして、全く動かなかったマッケンジーの手の中にスポッと収まった。
「計算通り! さあ採集は終わりましたよ。どうですか?」
「え、計算通り? 全部事前に分かってたの?」
「そうですよ? オオシロワタの採取なら当然じゃないですか」
えー……まじか。凄えな……でも、一個だけなのか?
でも、この距離ならジャンプして取りに行けるぜ! 俺ならな!
「マッケンジー、ちょっと待ってな! もっと取りに行くぜ!」
「え、あ、待って! 駄目です! やめて!」
俺はマッケンジーの悲痛な叫びを無視して思い切りジャンプした。
これで沢山取っちまったらお前より優秀な事が証明されちまう。嫉妬は醜いぜマッケンジー!
ぐんぐんと空中を駆け登る俺。頬を駆け抜ける風が気持ちいい。
オオシロワタの雲に手を伸ばす。取り放題だな!
その瞬間。オオシロワタの雲はフワァーと周囲に散っていった。四散のスピードは物凄く速く、あっという間に何も無くなっていってしまった。
う、嘘でしょ。速すぎんでしょう!
結局、俺は何も手に入れられず地面に着地した。
「なんて事をしてくれたんですか!」
地面に着いた俺に激しく怒ったマッケンジーが掴み掛かってくる。今までのポヤヤン男とは全く違う、鬼の形相だ。
「お、おい、何なんだよ急に」
俺は完全に気圧されてしまった。戦えが絶対勝てる相手なのに、この気迫はやばかった。
「オオシロワタの雲は微妙な気圧や湿度や空気のバランスで維持されているんです! 近づくのだって駄目なのに、あんな強引な事をして! 貴方のせいで他の場所でも採取出来なくなってしまった! 下手すればオオシロワタが種が地面に辿り着かず、全部ダメになってしまうかもしれない! そうでなくとも、採集という作業は繊細なんです! 無理矢理採ろうとするなんて何考えてるんですか!」
捲し立てたマッケンジーはハアハアと息切れしていたが、俺を掴む力は全く抜けていなかった。
俺は動けなかった。
「ハァァァァ……私は貴方のしでかした事の後始末をしなければなりません。時間がありませんからもう行きます」
しばらくして漸くマッケンジーは俺を離した。その目は冷たく怒りと軽蔑に満ちている。彼は大きく溜息をついて俺に言った。
「それと、貴方のレベルやステータスは凄いものだとは思いますが、ランクは見習い以下だと思います。貴方には知識も技術も、採集相手への感謝もありません。そうギルドには伝えますから、そのつもりで」
マッケンジーは俺を置いてさっさと行ってしまった。
俺は呆然と立ち尽くしていた。
空は青かった。
数日後。俺は再びギルドに来ていた。
前回は異世界の事を良く知らずに失敗してしまったが、今度大丈夫だ!
人間諦めない事が肝心。失敗してもまた立ち上るのだ!
「また来たんですか。今度は何ですか? 見習いランク以下さん」
受付は実に嫌味に言った。表情も態度も露骨に嫌悪を示している。
ぶっ飛ばしてやりたかったが俺は冷静になろうと努めた。
「いやあ、採集ギルドはちょっと肌に合わなくてね! 実は輸送ギルドに入ろうと思ってさ!」
「はあ。輸送ギルドですか」
そう、俺は次は輸送ギルドに加入しようと思っているのだ。
俺の筋力と素早さならどれだけ沢山の荷物だって運べるぜ! 岩だろうが、牛だろうが、ドラゴンだろうが運んでやる!
レベル99だし今度こそいきなりギルドマスターとかに任命されちゃったりして!
「輸送ギルドねえ、えーと貴方のステータスと経験値ですと……見習いランクからですね。ま、今よりはマシですか」
は?
は?
「おいおいおい! 見習いって今度こそ何かの間違いだろそりゃ! 俺のレベルとステータス知ってるでしょ!? 最高ランク以外にあんの!?」
「じゃあ、もう一度確認しますけど……やっぱり貴方は見習いランクです。間違いではありません」
「はあー!? はあー!? 何で、何でよ!」
「何でと言われましてもねえ……」
「あのー……ちょっといいかしら?」
俺がデジャブを感じながら受付の嫌味に苦しんでいると後ろから誰かに話しかけられた。桃色の髪の大人しそうな女性だ。超可愛い。
受付とは顔見知りらしく俺の質問に面倒そう態度の受付(いつかぶっ飛ばす!)はその女性を見て途端に喜ばしそうな顔になった。
「アンナさん! 帰ってらしたんですか!」
「こんにちは。何だか大変そうですけど、どうしたんですか?」
「いえ、此方の方が運送ギルドに加入したいといらっしゃったのですが……」
嫌悪感を全身から滲み出させて説明する受付(必ずいつかぶっ飛ばす!)。アンナという女性はふんふんと頷いて聞いている。態度が一々可愛い。
「成る程、お話は分かりました。では私と一緒にギルドのお仕事に行きましょう。そこで貴方のお力を見させて頂きます」
俺はまたかと思った。何でまたチェックされるんだ!
そして、もしや、と思い聞いてみることにした。
「あー、もしかして、このアンナさんも、次期ギルドマスターとかそんな感じ?」
「勿論です! アンナさんは輸送ギルドで最高の技術を持つ天才運び屋なんですよ! ていうか貴方、前回といい今回と言い知らなさすぎですよ! 一体どこの生まれ何ですか!」
受付は立腹して怒涛の如く憤慨の言葉を吐き続ける。
いやいやいやそんな馬鹿な、在り得ないだろ! 今度こそ在り得ないわ!
俺は信じられなかった。
アンナさんのレベルは何とたった10! マッケンジーより下じゃねーか!
ステータスも一般人程度だ。素早さは多少あるみたいだが、他の数値は平均以下だぞ!
何でこんな奴が採集ギルドといえど最高ランクで次期ギルドマスターなんだよ!
「あんたも次期ギルドマスターて……嘘じゃなくて?」
「失礼を通り越して無礼ですよ!」
「まあまあ、落ち着いてね。ええ、僭越ながら。私なんかがギルドマスターに選ばれるなんて自分でもびっくりしています」
本当だよ! 本当だよ!
二回言っちゃうよ!
「まあ、さっきも言ったように――」
「ちょーっと待った!!」
俺はアンナさんを遮って言った。今度こそ俺にはテスト何て必要ないんだ!
「俺の力はレベルとステータスを見れば分かるだろ! チェックするんなら俺があんたの力量をチェックする!」
「見習いランク以下が何言ってるんですか!」
受付ががなっていう。アンナさんは受付を宥めている。
「うーんまあ、別にそれでもいいですけど。受付さん、輸送の仕事ありますよね?」
「ええアンナさん。大変でしょうが、いつも通り山積み です。リストは出来ています」
「ありがとう。うーん、そうね……これなんかいいんじゃないかしら。それじゃあこれに行きましょうか」
アンナさんが示したリストには『蟻族用魔力眼鏡の輸送』と書かれていた。
そして、数分後。
俺はアンナさんと共に輸送を請負った品を受け取りに来ていた。場所のギルド近くの工房だ。
折角の異世界なのに、女性との旅は無かった。信じられない。
ちなみにアンナさんは超いい人だった。(俺と違って)友達も超沢山いるみたいで……これ以上は悲しくなるから止めよう。折角の異世界なんだ。
後、蟻族とか魔力眼鏡とか分からないからアンナさんに聞いた。マッケンジーの時と全く同じ反応だった。
デジャヴだ。
工房から品を受け取って出てきたアンナさんは大事そうに手を受け皿の様に構えているだけで、何も持っていない。
「魔力眼鏡はどうしたんですか?」
「え? ここにありますよ。ほら」
アンナさんが差し出した手のひらを見る。
やっぱり、何もない。
「え?」
「ほら、あるじゃないですか。ここです。蟻族用だからちっちゃいんです。当たり前でしょう?」
「あ」
よーく見ると米粒の欠片ぐらいの小さな黒い点が見える。何となく光を反射してキラキラしている風に見える。
「あ、もしかして、請負の品を無くしたと思って動揺しないかどうか試したんでしょう。悪い人ですねえ」
アンナさんは笑っている。笑顔が超可愛い。
見とれている場合ではない。と、取り敢えずごまかさなければ
「あ、ああ、そうだよ。動揺しなかったじゃん」
「当たり前ですよ。動じない事は運び屋の第一条件ですからね!」
自慢気に胸を張る。超可愛い。
「さ、それじゃあ行きましょうか。蟻族の集落は街の反対側です」
アンナさんは笑顔のまま言った。そして、歩き出す。
その動きは滑らかで、体の上下も無くすすすっと歩いている。しかもかなり速い。
俺は小走りで付いて行った。
「こっちの方が近道ですから、此方を行きましょう」
アンナさんはすっと曲がり角から路地裏へ入り込んでいく。
俺は彼女を追いかけて角を曲がった。
が、その先に彼女は居なかった。路地裏は狭くても一本道だ。見失うわけ無いのに!
「こっちですよ~! 上です!」
不意に頭上からアンナさんの声が聞こえる。ちなみに今の言い方も柔らかくて超可愛いかった。
俺はパッと上を向く。するとアンナさんがいた。
建物の小さな出っ張りの上に乗っかり、実に器用に足と肘でバランスを取っている。
「スゲぇな……」
俺は思わず言った。サーカスみたいだ。
「フフン、凄いでしょう~。大通りを進むよりこっちの方が速いんですよ。さあ、行きますよ!」
アンナさんは手を受け皿にしたまま、体を捻ったり、足を目一杯使ったりして上手い事、路地裏の壁伝いに先へ進んでいく。それがまた結構速い。
よーし、先回りして驚かせてやろう。同じ道を進んでも俺の方が速いのだ!
俺は瓦礫を吹き飛ばしながら路地裏を駆け、屋根まで飛び上がる。
少し遅れてアンナさんが出っ張り伝いに屋根へ上がってくる。少し息が切れてハァハァとしている。超可愛い。
「あら、先にいたのですか?」
「そうです。俺、速いでしょ」
「そうですね。ふう。後、半分くらいですか」
アンナさんは動揺してはいない。だがそう装っているだけなのは確実だ。ここはもういっちょ俺のパワーを見せて、いや魅せてやるぜ!
目的の場所までの道程は半分消化した。残りの距離位なら俺はひとっ飛びで越えられるのだ!
「アンナさん。行きますよ!」
「あっ! 何するんですか!」
俺はアンナさんをお姫様抱っこすると助走を付けて、屋根から思い切りジャンプした。
重力を振り切り、地面から体が浮く。二人分の重量もなんのそのだ。
髪を風が撫でる。心地いい。
抱っこしているアンナさんはジタバタとしているので、落とさない様にギュッと抱く。超気持ちいい。
「駄目ェェェ! 止めてェェェ!」
アンナさんの声が響く。
大丈夫ですよ! アンナさん、さあ俺に惚れるんだ! ハーレムの第一歩だあ!
数百メートルの距離を飛び越え、幾つもの建物をすっ飛ばして目的地近くに着地した。ドスンと音が成る程だがアンナさんは確りと抱きかかえているから無事だ。
抱えるアンナさんはジタバタを止め、力が抜けている。俺は名残惜しいながらも彼女を地面に下ろした。
アンナさんは呆然として手で作った受け皿の中を見ている。女の子にはちょっと刺激が強かったかな?
でも吊り橋効果的なアレでアレがああなって……へへ。
気づくとアンナさんは俺の目の前に来ていた。うつむき加減で、手の受け皿は解かれている。
そこに品が乗っているんじゃ無かったっけ? まあいいや。
俺は期待に胸を踊らせ、アンナさんからの甘い言葉を――
パァン!
俺は頬を叩かれた。思いきり叩かれた。アンナさんの腕がピンの伸びている。
HPは減っていない。
な、何で? 何でビンタ?
アンナさんは顔を上げた。
その顔は悪魔も裸足で逃げ出す形相に変わっている。超怖い。
そして、俺の胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ! どういうつもりだ!」
口調も変わっている。怖い。超怖い。
俺は金縛りにでもあったように身動きが取れずにいた。
「この蟻族用魔力眼鏡はな、普通の魔道具より何十倍もデリケートな品なんだよ! 見りゃ分かんだろうが! 私はな、飛び跳ねても衝撃を与えないように上手くバランスを取ったり、ショックを吸収したりしてたんだよ! 人混みを避けたのもその為だ! 屋根まで一気に上がらなかったのもその為だ! 態々入れ物使わずに手で持ってたのもその為なんだよ!!」
アンナさんの力はどんどん強まり、首を締めていく。く、苦しい。
「う、あ、ご、ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃねえんだよ! てめえが頼んでもいねえのに、私を抱えて飛び上がるから眼鏡がぶっ壊れちまったじゃねぇかよ! オマケに体を捻って衝撃を受け流せないように押さえつけやがって! この魔力眼鏡は視力を失った蟻族の為に作った特注品なんだ、もしかしたらもう二度と作れないかもしれないってのに!」
一頻り怒鳴ったアンナさんは俺を突き放した。その目は憎悪と憤怒で満ち満ちている。
「てめえが採集ギルドでやらかした奴だってことは知ってた。だが人には向き不向きがあるし失敗する事もある。そう思ったからお前にもチャンスをくれてやろうと思ったんだ。だがやるべきじゃ無かったな」
彼女は最早俺に一瞥もくれていない。
「あんたのレベルやステータスは凄いものではあるが、ランクは見習い以下だな。お前には知識や技術以上に請け負った品や受け取り主への思いやりが無い。そうギルドには伝えるから、そのつもりでいろ」
アンナさんは俺を置いてさっさと行ってしまった。
俺は呆然と立ち尽くしていた。
やっぱり空は青かった。
その後。俺は他の幾つかのギルドに加入してみた。
だが上手く行かなかった。
戦士ギルドでは、オーク退治に行っても暴れすぎて標的に気付かれ逃げられてしまった。
魔術師ギルドでは、魔法の威力が強すぎてギルド本部を燃やしてしまった。
鍛冶屋ギルドでは鉄床ごと武具を叩き割ってしまった。
錬金術ギルドでも、商人ギルドでも、毛織物ギルドでも、どのギルドでもそんな調子だった。
そして必ずこう言われた。
『レベルやステータスは凄い。だが知識も技術もなければ、なにより使命に対する配慮が無い』
と。
俺は郊外の広場で夕日を眺めていた。真っ赤な夕日はレベル99の俺の目にも眩しかった。
「……帰ろう」
俺は歩き出した。
帰ると言っても一体どこへ帰るのか。俺自身にも分からなかった。
ただ歩きながら赤く照らされた地面に自分の影が差しているのを見ていた。




