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玉の輿を夢見た聖女ですが、神託が『全裸となり、世界を救え』でした

作者: 碧い月
掲載日:2026/10/19

全裸ネタがありますが、直接的な描写はありません。ノリと勢いのコメディです。頭を空っぽにしてお読みください。

「汝、全裸となり、世界を救え」


 王国一の美貌を持つと言われる、敬虔なる聖女エリスに下された神の啓示。


 美しく、可憐で、性格も良く、誰からも愛され、そのうち超絶イケメンな王子様から熱烈なアプローチを受けることが決まっているパーフェクト聖女エリス……つまり私が大聖堂で賜ったのは、壮絶に頭の悪いお言葉だった。


 ……ううん、言葉遣いがちょっぴり悪かったかも。エリス反省。


 とにかく、ビジュアル激つよな私にもたらされた、少しだけ様子のおかしい神託。


 ………うん、気のせいだ。

 っていうか、絶対間違い。


 あるよね、神様だってセリフを噛む時くらい。


「汝、聖女として、王妃となりたまえ」


 そう、確かそんな感じだった。

 っていうか、絶対そう。


 ちょうど王様からお呼ばれしているし、きっと婚約のお話だ。


 気持ち悪い記憶は綺麗さっぱりデリートして、王子様をゲットしよう。


 レッツ、玉の輿!!


「ということで頼む!!全裸となり、世界を救ってくれ!!」


 ……。


 頭のおかしい神様から様子のおかしい神託を受けたら、今度は脳みその腐った王様がとんでもないことを言い出した。

 大丈夫なの、この国と、この糞爺……国王陛下。


「お断りします」


「何故じゃ!?」


「逆に疑問に思うところありますっ!?」


「確かに、神の啓示に思うところがないわけではない。だがエリスよ、本来ならば儂と口を利くことも許されぬ身分のそちよ、よく聞くのだ」


 うわっ、さりげなく嫌な圧をかけてくる人だ。


「我が王国が、いやこの世界が、魔王軍により滅亡の危機に瀕しているのは知っておろう」


「……はい、存じております」


「男は殺され、女は奴隷にされ、子は飢え、辺境の地は嘆きの声で満ちておる」


「……私も、心を痛めております」


「ならば、全裸」


「ならば、じゃありません!!」


「では、半裸」


「では、仕方ない……い、いえっ、お断りしますっ!!」


 ……えっ、いま私、なんて言いかけた?

 危なかった。流石は一国の王、巧みな話術に騙されるところだった。


 でも、乗せられちゃダメ、エリス。


 全裸なんて見られたら、王子様に輿入れどころじゃない。

 だいたい、全裸になったら世界が救えるって、どういうシステムなの。

 せめてその辺りの仕組みを説明してほしい。早急に。


 ……んっ?


 なんだろう、外が随分騒がしい。

 まさか、私の全裸見たさの変質者じゃないよね。


 あっ、立派な鎧を着たダンディーなおじ様が、血相を変えて駆け込んでくる。


「陛下、一大事です!!王都に突如、魔物の軍勢が出現したとの急報が!!近衛兵が民を守るため戦っておりますが、防衛線が破られるのは時間の問題……王宮も安全とは言えませぬ!!どうか大聖堂へお逃げください!!」


 えっ、魔物……!?

 そんな、王都は神の奇跡に守護されているはずじゃ……。


「遂にこの時が来たか……聞け、皆の者。預言書のとおり、魔王エルハザールが目覚め、人類は滅亡へと歩み始めた。だが、儂は栄えあるファロス王国の王。民を見捨て、魔に屈することなど出来ぬ。出陣じゃ!!我らが魔物を引きつければ、民を逃がす時間くらいは稼げよう!!」


「御意!!」


 兵士たちが慌ただしく王の間を後にする。


「エリスよ、預言書にはこう記されておる。魔王に対抗しうるは、神託の聖女のみ……と。今はまだ信じられぬであろう。だが、いずれ運命がそちを導く。それまで決して命を粗末にするな。玉座の奥から城外へ抜けられる。生き延びよ……さらばだ」


 さっきまで全裸全裸言っていた人とは思えない、王の顔だった。


「さあ、聖女様、こちらへっ!!」


 ダメ……ダメだよ。


 街には子どもだってたくさんいるんだよ。

 見捨てて、私ひとり逃げられるわけない。


 気づけば、私は駆け出していた。


「聖女様、どちらへっ!?聖女様っ!!」


 ごめんなさい、勝手をしたら怒られちゃうよね。

 でも、この街は私の故郷だから。

 生まれてすぐ捨てられた孤児の私を、優しく迎え入れてくれた場所だから。


 ……だから。


「だから、なる。全裸にでも、なんにでも!!」


 いた、あそこだ。


 魔物の群れが街を荒らし回っている。

 地面は血に濡れて、たくさんの人が倒れていて……怖い、逃げたい……。


 でも、私は神託の聖女なんだ。

 私が救うんだ!!


 その時、またあの声が、心に直接響いた。


――汝、全裸となり、世界を救え。羞恥心を神なる刃へと変えよ。


 やっぱり、聞き間違いじゃなかったんだ……。


 ええい、ままよ!!

 神官服を脱ぎ捨てる。


「あ、あれは………っ!!」


 宙に舞った真っ白な衣が激しい光を放ち、一振りの剣へと姿を変えた。


「あれこそは、古の神話に謳われる聖剣ナクト・シュヴァルト!!預言は本物じゃったのだ!!」


 わかる。

 聖剣が、叫べと言っている。


「光よ、切り裂け!!絶対聖光束(センシティブ・ブレード)!!」


 眩いばかりの輝きが一筋の閃光となり、数十の戦鬼(オーガ)をまとめて両断した。


 ……なんで、技名にセンシティブって入ってるの。


 宙を舞う煌めきが木の葉のように私の体を包み、大事なところをぎりぎりで覆い隠し、やがて塵となって消えていく。


 ……。


 …………。


 しんと静まり返る王都。


「奇跡だ……奇跡だ!!あれだけいた魔物の軍勢が、たったの一撃で!!」


「聖女だ!!神託の聖女様が、我らをお守りくださったぞ!!」


 一斉に湧き上がる歓声と拍手。

 その中で、民衆の全員が、なぜか私の顔だけを必死に見つめている。


 歓声が、一糸まとわぬ私の肌を心地よく撫でる。


 ……んっ?

 一糸まとわぬ……!!??


「おお、素晴らしい、最高だエリスよ!!城からダッシュで追ってきた甲斐があったぞ!!すっごい、本当にすっごいぞ、これほど見事な体……ごふぅ!!」


 たまたま突き出した右拳が、たまたま私に抱きつかんばかりの距離で興奮していた糞爺……もとい変態国王陛下の顎にめり込み、陛下は糸の切れたマリオネットのように地面へ顔をめり込ませた。


 たまたまである。他意はない。


◆


「聖女エリスよ、よくぞやってくれたな」


 首にコルセットを巻いた国王陛下が、ガラス玉のような瞳で見つめてくる。


 あれ、これって褒められてるんだよね?

 よくもやってくれたな、って意味じゃないよね??


「お主の働きにより、当面の危機は去った。全国民を代表し、礼を言おう」


 あっ、まともだった。

 すごい血走った目で睨まれている気もするけど、きっと気のせいだ。よかった。


「お主の操る『聖剣ナクト・シュヴァルト』は、羞恥心を糧に成長する聖剣なのじゃ」


「ちょっと待てや」


 羞恥心が餌なの?

 聖剣なの?

 それとも性剣なの??


「つまり、お主が全裸となることに快感を覚え、羞恥心を捨て去った時、聖剣は幻のように消え去る……いや、嘘ではない!!ほんとほんと、だから右拳しまって!!……おほんっ!!エリスよ、恥を捨てず戦い続けるため、モザイク術師を探すのだ。そちの大事なところが寸分の狂いなくモザイクに包まれた時、聖剣は真の姿を解き放つであろう」


「嫌です」


「そうか、頼もしいぞ」


「よく会話通じないって、言われません?」


「モザイク術師は、王国を離れ、北へ十里の『魔法使いの森』に隠れ住んでおるという。その者と力を合わせ、魔王エルハザールを倒し、この世界を救うのだ!!」


 溢れる想いを右拳に託そうとした瞬間、糞爺は老人とは思えない敏捷性を発揮し、王の間を後にした。

 うん、王国はしばらく安泰かも。殺しても死ななそうだし、アレ。


 魔王討伐という壮大な使命と、絶対に見られてはいけない私自身の尊厳。

 果たして私は、どちらを先に失うのか。


 神様、どうか、服を着たままお教えください。

お読みいただき、ありがとうございました。

続きを書くかどうかは、反応を見て考えようと思います。

モザイク術師とエリスの出会いを読んでみたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で教えてください。

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