第5章 ―終幕―
前回よりも長いものに仕上がりました。
話の流れはつかんでいただけたでしょうか?
あなただけをおいて、廻った季節は日々は、時間は無色だったわ。
私たちの心をだいて、あなたはグッスリなのね。返してくれる気はないのね。
「この子は欲ばりね」
そう言って横にいるお父さんを見たら、苦笑いしてたわ。
「そうだな。誰に似たんだろうな」
そう言ってこっちを見たから、つい私もつられて笑った。
かつかつかつと、死刑宣告にも等しい音が近づいてくる。
今日も風をくるんでそっと離すカーテンがたなびいている。
日溜まりをためたこの部屋には、3人だけ。
悪くなった目を必死にこらして、あなたを見るけど、いつも通り私にそっくり。目じりとか鼻は、お父さん似なのよね。よく知ってるのよ。
お父さんの乾燥したしわしわの手が、私のものをつつむ。あったかいわ。
この子の瞼の裏にはなにがうつっているのかしら。
私たちと同じくらいあたたかいあなたには、その無機質なひんやりとしたチューブやら、それにつながる機械やら、消毒液の匂いなんか似合わないわよ。
「本当によろしいのですね?」
長い間いっしょに戦ってくれた白衣の人が再度確認する。
2人そろって、ゆっくりと先生と目を合わせた。彼は顔に表情という表情をひとつも浮かべていなかった。
私たちには、それがありがたかった。
白衣の裾をひるがえし、靴音を高鳴らせながら先生が移動する。
あなたが寝ている間にいろいろあったのよ。
小さいころあなたは一人でお留守番できなくてお世話になった隣りの奥さんも、
喧嘩して怪我して愚痴をいいながらも笑っていたあなたの親友も、
頬どころじゃなく首まで真っ赤にしながらも手をつなぎながら紹介された彼も、
みんな今はあなたの近くね。
私もお父さんもちゃんと今を生きてるわ。ほんとよ。
また、たくさん話しましょう。
大きな機械の前で先生は止まった。
かつん。
ピ、ピ、ピ、ピ、ピッ、ピ、ピ
私たちはあなたは幸せだと思ってる。
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ
だって、あなたは待ってばかりだったじゃない。
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、
みんな待っていたのよ、このどこまでも白い空間で。抱えきれないほどの思いといっしょに。
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ
それに、私たちの子よ。幸せでいてくれないと。
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ
今度は、私たちがそこに行くわ。
ピ、ピ、ピ
ぶちり。
ありがとう
ございました