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終身刑の約束

「被告人を、終身刑とします」


鈴の音のように澄んだ声が、法廷に静かに響いた。


見上げれば、裁判長席に短髪の少女が座っている。


法服に身を包み、琥珀色の瞳でじっと私を見据えていた。


蒼い髪が、怒気を帯びたかのように微かに逆立っている。


私は疑問符の奔流に呑まれ、目の前の現実を受け入れられなかった。


「なぜだ?  罪状は?  悪いことなど何もしていない!」


「身に覚えがないと? ……いいでしょう。特別に教えてあげます。


貴方は、この世界で最大の《禁呪》を使いました」


世界が、音を失った。


冗談じゃない。私は魔法など使えないのだ。


「俺は戦士だぞ! お嬢さん、魔力の有無くらい目でわかるはずだ。


魔法なんて使えるわけがない、ましてや禁呪なんて……!」


早口で捲し立てる。


後ろ手に縛られた腕をどうにか外そうと力を込めるが、麻縄はかえって肉に食い込んでいく。


「……浅はかですね。


魔法や呪文だけが“禁忌”だとでも?」


彼女の声が急激に冷え込んだ。


氷点下を下回るほどの威圧に、思わず身を震わせる。


冷たい汗が背中を這い降りた。


視線がぶつかる。


そのまつげの奥で、何かがきらりと揺れていた。


「貴方は……私の年齢を訊きました」


言葉を失った。


だが、思い出す。


かつて、師匠が酒の席で言っていた言葉を――


『女性に歳を訊いてはいけない』と。


「若いだろ? お嬢さん。そもそもその禁呪ってのは、おばさ――」


至近距離で落雷。


目の前の石畳が爆ぜ、ぽっかりと深い穴が開いていた。


「全世界の女性を敵に回すつもりですね? ――ならば」


少女の目が据わる。


口元に浮かぶ微笑は、明らかに“量刑の上乗せ”を予告していた。


私は、自らの終焉を覚る。


「――私と結婚しなさい、ハロルド。


私だけは、貴方の味方です」


言葉を失うとは、こういう時のことを言うのだろう。


この少女はいったい何を言っている?


「まったく……覚えの悪い人ですね。


今日で、私は十八です」


十八――


その言葉に、記憶が引きずり出された。


十数年前。


魔物退治の任務の最中、とある村で、村長の娘と二人きりにされた夜。


「あの時……子供だった子か?


確か、話すことがなくて年を訊いた気が……」


「そうです。


あのとき、貴方は約束してくれたじゃありませんか」


少女の頬が、ほのかに染まる。


「『十八になって、俺が独身だったら――結婚を考える』って」


天窓のステンドグラスから、真昼の太陽が降り注ぐ。


彼女の瞳が、宝石のように輝いていた。


「幼い日から、ずっとお慕いしておりました。


……返事を、聞かせてください」


答えは、もう決まっていた。


彼女の微笑こそ、この世界で最も尊く、そして危険な宝だった。

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