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ある夜の別れ
星影さやかな夜。
冷たい空気が頬を掠めた。
背中合わせの兄が、言葉を紡ぐ。
「花蓮。兄妹はお互い運命の相手がいる。他にね。
だからこそ同じ家に生まれるんだ。そう考えると辻褄が合わないかな?」
「ごまかさないで下さい。
私の気持ちなど、とうに気付いているのでしょう?」
兄は答えない。
私は納得出来なかった。
満月を見つめ、山頂で夏草から夜露を払う。
「僕はこの刀で妃殿下をお守りせねばならない。
迷うことは許されないんだよ」
あまりにも冷静で、揺るぎない声だった。
「御奉公のお話は立ち消えになった筈です!
今さらなぜ……!」
悲しい予感が閃く。
この人は、もう家に帰らぬつもりだろう。
間違いない。
月明かりの中、兄はすっと立ち上がり、私を見据えた。
涼やかな瞳は決然とし、異を挟む余地などない。
黒い髪を後ろ手に結び、頬に微かな赤みが差している。
微風が吹き抜けた。
川辺の蛍が舞い上がる。
そして、二度目の流星が長い尾を引いた。
「どうか無事で……。
ご無理だけはなさらないでください」
私は願い事を変える。
強く、静かに。
顔を上げた先に――
彼の姿はなかった。




