24.リスタート
「はぁ。なんか、明るい空間が久し振りな気がする」
少し時間が飛ぶけれど、私とヒナタは無事……ではないものの、草原の街へと帰還した。
すっかり日も暮れているから、明るいと言うほど明るくはない。けれど、星明かり、月明かり。これらがどこまで愛おしいのかというのが、本当によく分かった。
カナタの下に行くというヒナタを見送って、私はティアが待っているであろう酒場へと足を運ぶ。賑やかな店内で、お馴染みとなった隅の席。そこに、待ち人と共に妙ににこやかな男の顔が見えた。
「おまたせー。ちゃんと成果は持ち帰りましたよっと」
席を下げて座りやすいようにしてくれた男、ユキに軽く礼を言って、私はため息混じりにそう言った。
「それにしては、お早いお戻りでしたねー」
「何その言い方。ティア達の真似をしたんだよ。何とか地下からは脱出出来たものの、街から脱出するのは面倒になったから、思い切ってマキシマムゴーレムに突撃した」
巨大な拳を受けて、気が付いたら草原の街。
「でも、よくすんなり地下シェルターへ辿り着いたよな。多少分かりやすくはなっていただろうけど、わざわざシンクの下を見ようとは思わないだろ」
「食堂に亀を置いたの。あれもヒントでしょ?」
食堂、メモ。これら二つをダイイングメッセージだと駄洒落めいた結び付けをしたから、その怪しさに気が付いた面もあるのだ。
「どういうこと?」
「水槽の亀。つまり水亀――、水瓶。水瓶座は水の溢れる瓶を持った人を模っているから、どこかに水が溢れるような場所があるんじゃないかってね。おまけに三匹。水瓶座といえば、私は三ツ矢が浮かんじゃうな」
「お前、そういうところ察しがいいよなぁ。製作者冥利に尽きるというか、それを聞けばシナリオ班も喜ぶだろう」
「おぉ、小ネタ拾いだ」
名画か何かかよ。その突っ込みも、ティアの気に召したものだったらしい。
「すみませーん。生ビールと餃子を一つ」
と注文をすれば、返事とともに運ばれてくるジョッキに目を丸くしてしまう。ニヤニヤと笑うユキの一言。
「この酒場、シナリオ班の管轄」
「パイプの説明も読んでくれたかい? 妄想を掻き立てるものを仕込んだつもりだけど」
手のひらで踊らされたよ、と笑って、ホールスタッフの男性からジョッキを受け取った。
「それでは、私の成果をつまみにして……」
「乾杯」
三人でジョッキを合わせて、盛大に中身を呷った。
「ふぅ。ロンドとガイアもいればよかったんだけどね」
「彼奴等は今日、忙しいみたいだったからな。ま、タイミングが悪かったということで」
次はタイミングが良いとこちらも嬉しい。と言うのは、今後のクエストの行方に関係することだ。
「では、何も知らないであろうティアに向けて説明すると、ある二体のゴーレムを倒して、街を覆う砂を退かせばクエストクリアみたい。二体のゴーレムが全てのゴーレムの指揮権を持っているとかなんとか」
階段の先に待っていたのは、ユキが言ったように地下シェルターだった。
ゴーレムの暴走によって外に出られなくなった人達、とのことで、どうしてこんなことになってしまったのかと言うのを至る所で確認できた。
「どんなゴーレム?」
「精霊を核として作ったゴーレムで、砂を操る能力を持ったゴーレムと、風を操る能力を持ったゴーレム」
「なるほどねぇ。それで街を砂で覆ったわけだ」
街を外敵から守るために、ってことだね。
ゴーレムを作った目的は、あくまでも自分達を守るため。それが、思ったよりもゴーレムの力が強かったために、その防衛行動が過剰となってしまったのだ。
「はい、餃子おまちどー」
「ありがとう」
ここの餃子は、特製のタレが美味い。
同時に運ばれてきたタレをたっぷりと餃子似まとわせて、小ぶりなそれを一口で頬張る。口いっぱいに広がるタレの酸味と辛味。醤油の味わいは深く、溢れる肉汁とキャベツの甘みを、皮の香ばしさがキリッと締める。
薄くもなく厚くもなく、餡の食感を引き立てるような皮の風味もベストだ。
「くぅ、ビールが進むわぁ」
「浸っているとこ悪いけど、そのゴーレムは何処にいるかは解っているの? 今までそんなゴーレムがいるなんて聞いたことなかったんだけど」
「砂に埋もれた遺跡を根城にしているみたい」
その遺跡を示す手がかりは、砂漠を探索すれば至るところに見える装飾が刻まれた石柱だ。シェルターの人々いわく、装飾、文様のようなものには矢印が隠されていて、それを辿ればいずれ遺跡に辿り着くのだそう。
そして砂に埋もれた遺跡を根城にしているということは、ゴーレムもまた、砂の下にいるということ。
「で、シェルターでそのゴーレムが反応するっていう魔法陣が描かれたプレートをゲットした。それを持って遺跡に近付けば、ゴーレムが襲いかかってくる。って感じ?」
「そんな感じ、ねぇ。てことは、砂漠を彷徨わなくてはならない感じでもある」
そこが頭の痛いところ。
ただでさえ草原の街から砂漠までは馬車で四時間。回復アイテムがなくなった。武器をもう少し強くしたい。そんな理由で街まで戻っていたら砂漠での探索はなかなか進まないだろう。
おまけに、砂漠だって広い。砂地だから馬車も通っていない。
「しばらくは砂漠に泊まり込み、って感じかな」
「夜は寒くなるよー。ま、そこまで現実的ではないけどね」
「ゲームに対して真剣になってくれているような会話。嬉しいわー。こういう時にゲーム会社に勤めていてよかったって感じる」
その気持ち、私も感じてみたいのだけどね。ま、これが役職の違い。立場の違いというものか。
「馬車馬のように働く部下と、ふんぞり返る上司の図かよ。で、そんな私達に差し入れなんか持ってきてくれてもいいのよ? いちいち街まで戻るのは面倒だから」
「モカ、ナイスアイデアじゃん。回復アイテムが足りなくなったら、持ってきてほしいなー」
そもそも、そういう進行が楽になるはずの街を解放するために苦しむなんて、なんだかもう、順番逆にしません? と恨みがましい目を向けてしまう。
「ゲームの進行を助けるような真似をするのはなー。そういう苦労の果てに解放するから喜びがある。俺はそう信じている」
「やりがい搾取かよ」
「ゲームをするのは辛いかい?」
「今のところ楽しい」
テレビの前に座ってポチポチボタンを押しているだけだったら、とうに飽きてしまっていただろう。フルダイブ、恐るべし。
とまぁ、上手いことやりくるめられてしまったけれど、こちらの話はついた。あとはティアがどうするかだけど……。
「ティアはどうする? ゴーレムと戦うときだけ呼ぶこともできるけど」
「いや、目的地が二つあるんなら、手分けしたほうが良いでしょ。プレートがないとゴーレムは現れないんでしょ? だったら、怪しい場所の目星くらい付けておくよ」
それなら、ここは人海戦術が相応しいかもしれない。
「じゃあ、みんなバラバラに進んでいって、石柱やらなんやらを見つけたら矢印を報告し合おうか。どこかで合流するかもしれないし」
「あぁ、そういうパターンもあるのか。じゃあ、動ける人員は……」
「私とティア、ロンドにガイア。あと、ヒナタも最後まで付き合いたいって」
「ミクもそう言ってた。だから、六人で」
六人がそれぞれ別の方角へ進めば、全員が合流してしまうなんてことは起こりにくい、はず。
「自然と省かれるの、ちょっとへこむよな」
「身から出た錆でしょう。悔しかったら砂漠の探索に付き合ってよ」
「砂漠の探索に付き合ったら、……もっと長く付き合いたくなるぜ?」
その台詞が格好いいと思っているのだろうか。
「ティア、次は何飲む?」
「シークワーサーサワーとか良いねぇ」
「それ、ただシークワーサーサワーって言いたいだけじゃない?」
「バレた? なんか響きが可愛くない? シークワーサーサワー」
「シークワーサーサワー」
「シークワーサーサワー」
「やめて、なんか俺、めっちゃ寂しい」
酒の席で、仲間外れは控えようか。そう笑って、三人仲良くシークワーサーサワーを注文した。




