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23.核心へ

 換気口の金網をずらして、私はわずかに頭を覗かせてその空間を確認した。長い髪が垂れないように、慎重に。


「どうです、お姉様?」

「犬はいなさそう。人型が何体か……あっぶな」


 室内を警備するように歩く人型のゴーレムに気付かれそうになり、慌てて頭を上げて後ず去る。


「陽動作戦は、室内までには波及しないみたいだね」


 そうため息をついて、私は武器を取り出した。


 食堂で休憩を終えた後、私が見つけた怪しげなシンクの下の光景を、みんなと共有した。そうして相談をした結果、嵌め込めるようなパイプは何処にあるのか確認して、それからどうするのかを決めよう。ということに。


 捜索の結果、先ず安全地帯にはなかった。その他にあるとすれば、まだ確認できていない渦巻き状の空間か、換気口から見下ろせた倉庫か。


 どのみち、それらはモンスターとの戦闘が避けられない状況なのには変わりない。ならば、当初の目的の通り、ティアとミクが渦巻き状の空間で暴れて陽動し、私とヒナタが安全に捜索をできるようにしよう。


 以上を経て、こうして私が換気口から倉庫を覗いている現在に繋がる。


「私が一体倒して囮になるから、その隙にヒナタがケリを付ける。ってのはどう?」

「良いと思います。室内なら私の鎖鎌のほうが扱いやすいでしょうし」


 ここから飛び降りたら、基本的に私は防戦一方になる。刀のリーチは、棚を並べてできた通路では不利になってしまうから。


 だから、最初の一太刀で確実に一体は倒しておきたい。


 しっかりと強化魔法を自身にかけて、刀を逆さまにして構える。そうしてタイミングを計ると……。


「よし、行ってくる!」


 真下に現れたゴーレムに対し、刀を突き立てるようにして落下をする。


 見事に命中。頭部に突き刺さったそれを体を捩って切り裂くようにし、その勢いのまま着地をして鞘をその身に突き立てる。


 予備の二撃目で、何とか倒すことができた。私とヒナタの経験の差を考えるなら、彼女の方は一撃で倒すことができるだろう。


 着地の際に出た音を頼りに、二体のゴーレムが棚の影から現れる。棚によって出来た通路を、背後に向けて飛ぶようにして距離を取る。なるべく、通気口よりも前に誘導したい。


 ゴーレムの腕は銃口となっているため、直線距離にいてはただの的になる。棚が途切れたあたりで右に曲がり、それの陰に潜む。


 ゴーレムの足音が聞こえる。

 直後、軽やかな着地音。

 そこから先に、音はなかった。


「いや、手際が良すぎて怖いわ」

「ふふーん。凄いですか? 格好いいですか? 美少女忍者と呼んでくれても構いませんよ」

「くノ一では駄目なの?」

「美少女と付けたいのです」


 そこに謎のこだわりがあるらしい。忍者らしく黒い格好をしてはどうかとも思うのだけど……。


「今更だけど、ヒナタの装備って可愛いよね」

「わぁ! 嬉しいです。カナタくんがデザインしてくれたんですよ。セーラー服を戦闘用に改造した感じでスパッツの丈にもこだわったそうです」


 ヒラヒラと裾を動かしているけど、スカートから僅かに見えているのがポイントなのだろうか。なかなか芸が細かい。履いているブーツも武骨で格好いいし、男の子が感じるロマン、って感じがするのかな?


 私達は、それを可愛いと表現してしまうのだけど。


 今思えば、ミクはかなりシンプルな格好をしていた。彼女の方がよっぽど忍者らしいのかもしれない。


「ティアと気が合いそう。……よし、ゴーレムももう居ないみたいだし、パイプを探そう」

「どういったものを見つければ良いんでしょう?」

「付けられそうなパイプがあったら、手当たり次第に持っていけば良いと思う。グニャグニャと曲がっているのは期待値が高いかもね」


 行ったり来たりをしていたら、再びゴーレムが待ち構えているかもしれない。だから、出来ればここに来るのはこれで最後が望ましい。


 そんな思いから、手分けをして倉庫の中を虱潰しで見て歩き、めぼしいパイプは手当たり次第にインベントリへと突っ込んでいく。


 ちょっとした息抜きに、インベントリに入れたパイプの説明を読んでみる。


 真っすぐなパイプ。

 曲がったパイプ。

 凶器になりそうなパイプ。


「倉庫にあるパイプを凶器にするシチュエーションとは?」


 ふと疑問に思って考えてみるけれど、倉庫を犯行現場にする理由かぁ。例えば、ここに呼び出して犯行に及ぶ? でもこんなところに呼び出すのは、それはそれで怪しい。


 それなら、ここで何かをしていたら、偶然それを目撃されてしまった。そして近くにあったパイプで殴打した。うん。ミステリー的にはそれが王道に思える。


 では、ここで一体何をしていたのか――。


「お姉様? ぼーっとしてどうしたんです?」

「ん? あぁ、ごめん。ちょっと脳細胞が灰色になってた」

「それってハイテンションって意味です?」


 これは通じないかぁ、と苦笑して、私は作業に戻った。


 食堂に戻ってシンクの下の収納に上半身を突っ込んで、集めたパイプを手当たり次第にはめ込んでいく。


 サイズが合わないものが殆どであり、ピッタリと当てはまるようなものは、まさにガラスの靴の持ち主を見つけるようなものだろう。


「こういう状況、漫画で読んだことがあります」

「んー? もしかして、私が驚いて頭をぶつける感じかな」

「ですです。お尻を撫でられるんです」

「……撫でないでよ?」


 勝手なイメージで申し訳ないが、ヒナタが暇を持て余したら、本当に実行しそうな雰囲気すらある。私はペースを上げてひたすらパイプをあてがい続けた。


 そして、さほど時間もかからずに当たりを引くことに成功した。


「よし、嵌ったみたい。あとは、これをどうすればいいのかな、と」

「なんかこう、ワカサギを釣るための穴を開けるみたいに、パイプを回したりできませんか?」

「あー、パイプの形的には似ているかもね。でも、よくワカサギ釣りなんて出てきたね」

「冬休みに家族といったんですよー」


 冬を満喫するタイプか。私の地元は雪が降らないから、基本的にタイヤの交換はしない。だから、雪国の方へ行く発想は生まれなかったなぁ。


 遊びに行くためだけにタイヤを履き替えるの、もったいないと思った父親だったから。マイカー重視で電車やバスという発想もあまりないし。


 ……あれ、そう言えば仕事に使う車はちゃんとしていたような?


「そういう冬の遊び、あんまり経験ないなぁ。うちの親、寒いの苦手だし」

「そうなんです?」

「うん。小学校に雪が運び込まれるくらい、雪には無縁だから」

「小学校に雪を運んでなにするんです?」

「ソリで遊ぶ。雪だるまも作るかな」


 またたく間に黒くなっていく雪は、何とも言えない哀愁があった。……と言うか、あれはもはや冷凍庫にできる霜のようにカチカチに変貌していたけど。


 それでも、楽しかったなぁ。


 と、無駄話はそれまでにして。上手いこと回転してくれたパイプを動かしていくと、どこかで何かが落ちるような音が響く。


 そう遠くないよね? と二人で話して周囲を確認すると、どうやら床下収納が怪しい。その蓋を空けてみると、更に地下深くへ続く階段になっているの発見した。


 その時、私の下にメールが届く。


「……うっわ、ティアとミク、物量差にやられて街まで戻されたって」

「あちゃー。てことは、この奥に何もなかったらちょっと面倒ですね」


 そうならないことを祈ろう。私達は頷きあって、その長い階段を下り始めた。

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