22.地道にマッピング
ゴーレムによって掘り進めた穴を通り、私達は地下空間へと降り立った。
内部の構造はまだまだ把握が出来ていないが、此処はゴーレムの材料となる土の保管庫、だろうか。堆肥舎のように積まれた土が空間の大部分を占めている。
出入り口は二つ。アルミ製のようなフレームに磨りガラスが嵌め込まれたドアと、ガレージにあるようなシャッター。
「人の出入り口と、土の搬入口と言ったところかな」
辺りを見回して、私はそう言った。
「土は何処から運ばれてくるのでしょう?」
ヒナタの質問に、私は天井の方を指差す。
「建物は吹き抜け状で、天井も屋根もなかったよ。だとすると、街を覆うドーム状の天井が抜けて、そこから砂を落としているんじゃないかな」
土を触って確認してみると、既に水分を含んだような状態似なっている。つまり、砂から土に加工する場を経て、ここに運ばれてくる。
地下空間は、なかなか広い構造となっているのだろう。
ティアがゆっくりとドアを開けて、うっすらと開いた隙間から外を確認しようとしている。鍵はかかっていなかったらしい。
「犬の他に、銃みたいな腕をしたゴーレムが練り歩いてる」
「へぇ。もしかして、弟さんはこのエクストラクエストをクリアさせてから銃を実装させたかったのかな?」
ヒナタには内緒の話なので、こっそりと傍に近寄って耳打ち。ティアも、だろうねぇ、と納得したように呟いた。
静かにドアを閉めて作戦会議。議題は、ミクが見つけた天井にあった換気口だ。
「換気口と言っても、金属製の網で塞いであるだけの簡単なものでした。持ち上げると簡単に外れて、中は四つん這いで歩けるくらいの空間が伸びてきます」
頑張って敬語キャラに戻そうとする涙ぐましい努力を、私は笑わない。
「モカさん。微笑ましいものを見るような目を向けるのはやめてください。ともかく、ドアの先は危険地帯なら、換気口の中を進むのがいいと思います」
「それは納得。だって、網で塞いであるのが他の部屋も同じなら、それで中の状況を探ることができるからね」
先ずは状況の把握。これが肝心。
推理小説だって、先ずは現場検証をするのが鉄則だ。どこに亡骸があるのか。傍に何があるのか。凶器は何なのか。室内に異常はないのか。
今回のケースは殺人事件ではないのだけれど、犯人を見つけ出すという行為には代わりはないと思う。
メモによって導き出されたこの地に何があるのか。私には多分、あれがダイイングメッセージのように思えてしまっているのかも。……見つかったのが食堂だし。
なんて駄洒落にもならなさそうなことは置いておいて、宙に浮くことができる魔法を覚えているのは、このなかではミクだけ。彼女に網を持ち上げてもらったら、後はジャンプをして縁を掴み、入り込むだけ。
順番は、先頭から私、ヒナタ、ティア、ミクの順。
狭い空間では武器を振ることができないため、魔法が使える人物の視界を塞がないようにしよう。そう言った理由での選択だったのだけど……。
「うへぇ、クモの巣だらけじゃない。本物いない? 私、クモとかの虫って苦手なんだけど」
「そうなんですか? お姉様なら、クモくらい料理にして食ってやる! って言い出すかと」
ヒナタは私をどんな目で見ているのだろうか。理想フィルター? その視界を曇らせてやりたい。
「国によってはタランチュラの唐揚げだとか、そんな料理もあるらしいけどねぇ。私は無理。イナゴの佃煮だって無理」
「イナゴってなんです?」
「バッタみたいなやつ」
「バッタ……。あ、あれを?」
若い世代なら昆虫食にも抵抗はなさそう、なんて思っていたけど、まだまだ個人差はあるらしい。
まぁ、どんな世代だろうと、一度食べてみて味を受け入れられれば、何の抵抗もなくなるかもしれないけどね。それが若さ。私も若い。
「そういうモカさんだけど、大量の虫を食べていた時期があったじゃない」
ティアのその言葉に、私の頭には疑問符が浮かんだ。
「なにそれ、まったく記憶がないんだけど」
「ある季節になると、自転車で走るだけで口の中に虫が入ってくるから」
……あぁ、小さい虫。あれ、なんなんだろうねぇ。鼻の中にも入ってくるし、迂闊に口なんか開けてられはい。うっかり会話をしようものなら、ね。
「あれは地獄だった」
しかし、共感してくれるのは共に登下校を経験したティアだけ。
「その経験はないなぁ。私、基本的に電車通学で自転車には乗らなかったし。自転車に乗らなきゃならないような長距離移動もなかったし」
「あ、私もです」
この二人は、都会っ子なのだろうか。
そんな話をしながらも、時折見える金属製の網から室内を眺めては地図に起こしていく。私が確認して、地図に纏めるのはミクの役目だ。
安全地帯は何箇所かあるようで、休憩室のように簡易的なキッチンがある場所に、鳥籠に入ったオウムが一羽。食堂には水槽に入った亀が三匹。
浴室に嵌め込まれた水槽にいた金魚たちには、本当に安全地帯地帯を表すものかどうか不安になったけれど。ホログラム、って可能性も若干あったし。
「クエスト斡旋所の位置関係から考えて、凡その内部構造は把握できたかもしれません」
食堂にて、ミクが作成した地図を広げてその成果を確認する。
それを見るに、内部は渦巻き状になっているらしい。その外周をさまざまな施設が取り囲んでいる。こうした安全地帯から、うっすらとドアを開けて確認した成果だ。
「換気口のある部屋にはめぼしい施設はなくて、もしかしたら、渦巻き状になった空間自体が、何らかの施設なのかもしれません」
「もしくは、そこからさらに地下に続く階段があるか」
ミクの言葉にティアが被せる。
「つまり、ここから先は強行突破しかないってことか」
「お姉様はやる気ですねぇ」
「その方が手っ取り早いしね。心躍る隠し通路もなさそうだし」
「案外、渦巻き空間にあるかもしれないけどね」
そうやって笑うティアに、ヒナタも釣られて笑った。
「その心配もありますよねぇ。でも、私としてはクエスト斡旋所とこの地下を結ぶ中間地点も怪しいと思うので、先ずは円の中心にもアタックしたいところ。どうでしょう。二手に分かれませんか」
「もしかして、中心を目指すチームと、渦巻きの端から隠し通路を調べるチーム?」
訊くと、正解だと笑顔が返る。
「足の速さ的に、モカさんとヒナタちゃんが組むのがいいと思うんです。行動範囲も広くなりますし」
「あ、それなら私とミクが組むことにも意味があるでしょ。共に物理と魔法で火力に特化できるから、いざとなったら派手に暴れられる」
そうすれば、探索がメインの私達に注意が向くのを防げるかもしれない。
「良いんじゃないかな? ヒナタはどう?」
「良いと思います。なんかこう、モンスターを倒す以外の遊び方にワクワクしますし」
では、休憩した後に持ち場に着こう。ログアウトをしていく三人を見ながら、私は一人、食堂奥の厨房へと向かった。
「チラッとみて、気になっていたんだよなぁ」
そこには、何故か片側が開いた観音開きの収納があった。シンクの下のスペースだ。
もう片方も開けて、中を覗く。そこに、あるはずのものがない。
「シンクなのに、排水パイプがないのは怪しすぎるでしょ」
この空間を埋めるということ、果たして意味はあるのかどうか……。っていうのが、ちょっと気になってしまうよね。




