20.VSマキシマムゴーレム③
まさか、と思ったことが現実にあるってのは、まぁ、よくあることだと思う。けれど、それは嫌だなぁ。というものが当たってしまうと、何とも言えない微妙な空気。
簡潔に言おう。ネズミの溜まり場が安全地帯だった。
本当に、動物がいるのだから……。なんて思ったよ。まさかね、違うよね。なんて思いながらテントを張ってみたら、ログアウトできてしまうのだもの。
そうなったら、ネズミに囲まれたテントに入るという恐怖を味わいながらも、私は休憩も兼ねた時間稼ぎのために、その事実を受け入れた。
部屋で寛いでいた我が家の番犬に、ちょっと訊いてみる。
「ねぇ、あんたネズミを捕ったりしない?」
可愛く首を傾げるばかりで、もちろん答えが返ってくるわけもなく。リアルでは今まで見たことがなかった生のネズミを、この子が咥えている姿も頭から追い出した。
そして再びログインした頃には、待ち人がテントの前で待っていてくれたのである。
「……あんた、勇気があるよね。私は無理」
「そう言いながらも、よくテントの前で待っていたよね。ようこそティア。ゴーレムランドへ」
「って言うより、今はネズミのランドって感じだけどね。彼奴等が視界に入りそうになったら、テントを影にして逃げ回ってたんだから」
ネズミに逆襲されたネコかよ。カートゥーンじゃあるまいし。
「で、ここに来る前に見たんでしょ?」
「見た。あれはゴツいねぇ。デカいやつは、まぁ、よくいるよ。けど、あれだけゴツいのは初体験かな」
テントを畳みながら、勝てそうかどうかを訊いてみる。
「斧をぶん投げまくって確かめたけど、首が弱点だね。命中したら動きが鈍ったから。でも、直ぐに上半身が独楽みたいに回転して追撃は無理だった」
「でっかい一撃をお見舞いするしか?」
「でっかい一撃を繰り返すくらいは必要かもね」
問題は、私達で足りるのか。足りないのなら、ミク達と合流すべきなのか。
「ま、とりあえず二人で試してみますか。私のバフは雀の涙かな?」
「泣きっ面に蜂となることを祈ろうよ。で、あんたが注意を引きつけて、私が首まで接近。その隙を狙って……」
「私の追撃」
作戦会議はこれにて終了。私達は武器を構えて、安全地帯に入ったことで目標を見失ったらしい、彷徨うゴーレムへと突撃をした。
索敵には優れているようで、路地から飛び出た私たちを、直ぐに剛腕が迎え入れる。
大振りなそれを飛び退いて、隙だらけの腕に攻撃を仕掛けたのはティアだ。ここに来るまでにバフは完了していたのだが、それでもダメージを与えられている様子はない。
武器や魔法がヒットした際に現れるエフェクトで、判断できるのだが、青は効いている。赤は属性の影響が加わっている。黄色がクリティカルヒット。灰色がノーダメージ。そんなところか。
「って、私に向かってくるんかい」
呑気にグレーのエフェクトを眺めていたら、攻撃を繰り出したティアを無視して、私に向けて歩みを進める巨大ゴーレム。
アタックした女の子を無視するとはけしからん、なんて悪態をつきながらも、振りかぶられる反対側の腕に備える。
目線をティアに向けると、彼女は既に動き始めていた。
屋根に飛び乗り、肩に跳び乗る姿勢。剛腕が振るわれたタイミングを狙って、実行に移すのだろう。そうなると、私にはあまり猶予がない。
なるべく引き付け、拳が地面に激突した瞬間に、その腕を伝って駆け上がる。それが狼煙となるだろう。
「いまっ!」
掛け声とともに、私は軽くジャンプをして攻撃を躱し、その腕に跳び乗って駆け出した。
「旋斧、旋斧、旋斧!」
両手に持ったそれぞれの斧を、交互に振ってダメージを与えていくティア。エフェクトは黄色。何らかのパラメーターを上げて、クリティカルヒットが出やすくしているのだろうか。
その頭上を飛び越えて、私もその首に一太刀を浴びせる。
「流牙!」
横軸に強制的に移動を伴う必殺技であるため、この手の移動を加味した状況では、なかなか有能なものを繰り出し、私の身体は反対側の肩に乗る。
「強打っ!」
鞘を打ち付け。
「交斬刃っ」
刀とクロスするようにして振るう。
ティアと共に繰り出す必殺技の連打に、さすがの巨体も沈黙したか……、に思えたが。
『被ダメージ規定値突破。頭部離脱。格納庫にてスペアとのドッキングを承認』
空気が抜けるような音が響いたと思ったら、頭部がきり離された。それはまるで人魂のような浮遊感。そのままふらふらと上空を旋回すると、頼りない動きで何処かへと飛び去ろうと……。
「いや、この戦闘を何度も繰り返せと!?」
「モカ、あの頭部を破壊しないとっ!」
「いや、でも、……地味に高い位置を地味にいやなスピードで飛んでいるから攻撃が届かない!」
試しにジャンプ、必殺技と繋いで接近するも、ギリギリで攻撃の手を逃れてふらふらと何処かへ飛んでいく。
「くそっ、待てっ」
「魔法は当たらないの?」
「フラフラしていてマーカーが合わせづらい! 無理! ティアが斧を投げてよ」
「よし、……どっせいっ!」
回転翼のように飛んでいく斧を嘲笑うかのように、頭部はふわふわとした動きで躱していく。
「私、これが終わったら遠距離武器をサブに選ぶんだ」
「そんな死亡フラグみたいなこと言っていないで、追いかけるよ」
「待って、斧を拾いに行かないといけないからちょっと待って!」
まるで、ドッキングしようとしている主人公のメカを、阻止しようと必死になる悪役みたいだなぁ、と。いつかユキが熱く語っていたアニメの話を思い出すように、私はため息をついた。
※
辿り着いた食堂にネコが居たことで、ミクとヒナタはしばしの休息を取ることができた。
そして勝手口から外に出ると、食堂で手に入れたメモを片手に、街の中を進んでいく。
「神殿を北とすると、このメモに記させた場所は西にある広場ですね」
けん玉のような形は草原の街と同じであり、迷うことはなさそうだった。それに、このままいけばモカとの合流も果たせるだろう。
「広場ってことは、クエスト斡旋所でもあるのかな? まさか、そこにいけばNPCが待っているとか?」
「それで話が進むかは……。待ってください。なにか、目的地の方へ向けて何かが飛んでいませんか?」
何が……と、ミクがヒナタの指が示す先を見る。ふわふわと、円柱状のものが飛んでいた。
「なんか、見覚えがありません?」
「あるね。ここに来たときにも、そして図書館でも」
つまり……。と、二人は頷きあった。
「同じくらいの背丈をしたクエスト斡旋所が、あれの格納庫となっているのではっ!?」
先回りをするように、二人はさらに加速していく。その時――。
「ミクさんっ!?」
「……おわっとぉーっ!? な、なんか斧が飛んできたんだけど!?」
二組が出会うまで、あと少し。




