19.VSマキシマムゴーレム②
「……で、そんな状況」
「あははっ、落としたおにぎりを追いかけて穴に入るならまだしも、あんまんを食べつつ穴を掘って、辿り着いた場所でネズミでなく巨大モデル人形が待ち受けていたとか」
通信を繋げたティアにそう言われ、私も穴の先でネズミのお礼を受け取りたかった、と釣られて笑った。
謎の巨大モデル人形――と言うのは何ともしっくりこない呼び方ではあるものの、情報も限られ、そう形容するしかない状況にもちょっと笑ってしまう。
逃走を始めて、十分ほど経っただろうか。
何処か家の中に入れば安全ではないか、と思ったものの、そういうわけにはどうもいかず、私は今も街の中を彷徨っている。
というのも、このゲームでは何かを注視する際に、『調べる』というコマンドが表示されるのだけど、ね。
「ほら、草原の街では酒場とか喫茶店とか、入れる建物もあるでしょ? 此処でも似たようなものを見つけたから、逃げ込もうとしたわけよ」
「どうだった?」
「鍵がかかってた。そんで、調べてみたら……」
「調べてみたら?」
「なんと、『ゴーレムによって行動は管理されています』だってさ」
つまるところ、この街はゴーレムによって管理されているという事とであり、あの巨大なものはその親玉ではないか、という感想。
「しょーじき、私の手には負えないわけよ。こういうジャンルは好みではないしさ」
「モカの好みって、うーん、たしかあれでしょ? 密室。アリバイ。時刻表」
「正解は最初の一つ。……でもないな。名探偵がいる。それだけでいい」
「じゃあ、君の番だ」
私がこの街の謎を解けって? 冗談。
「私は所詮、読む専門なわけ。そいうのは、別行動のミクに任せたい。で、新たな助っ人を求めるわけよ」
「ま、私も砂漠に近いところには居るし、なんとか合流を目指してみる。でも、ゴーレムで作った落とし穴も無限に存在するわけではないし、またいちから空けるとなったら、あんたが倒したほうが早いと思うよ」
あの巨体をかぁ。
そうため息をついて、路地にから顔を出して大通りを歩くそれを見る。巨体ゆえにこのような狭い場所には入ってこれないようだけれど……。
目が合う、という表現は比喩的なのだが、それが私の存在を認識すると、指のように連なった球体の一つがこちら目掛けて射出される。
まぁ、つまりはそれが猟犬なわけだ。
「ちっ。まただ。ごめん、逃げるのに専念するから切るわ」
「了解。で、一応アドバイス。ダイワームみたいに特殊な倒し方があるか、通常のボスのように部位攻撃が有効か。よく考えてどーぞ」
「サンキュー」
逃げるばかりではなく、戦闘を考えるのなら、その考え方は有効だ。
私は通信を切って、すぐに踵を返す。あの球体は攻撃を加えると炸裂してダメージを与えてくるから、迎え撃つのは危険なのは経験済み。
入り組んだ路地を移動して引きつけて……。
「今だっ!」
袋小路に誘き寄せて、ジャンプしつつ攻撃を与える。そうして起きた炸裂を、屋根に乗ることで躱すってことだ。
しかし、そうすると見晴らしの良さが災いして、バッチリと巨大ゴーレムと目が合ってしまう。駆け寄ってくるのが何とも恐怖をかき立てるものだ。仕組まれているのか、そういうゲームデザインなのか。袋小路の位置は、充分にあの剛腕が届く絶妙な距離。
これまでの流れなら、このまま屋根を伝って逃げるところだけど、ね。
「たまには、こちらから攻めてみるかっ!」
剛腕を躱し、その上に飛び乗って肩の方まで駆け上がる。攻撃パターンをある程度観察した結果、腕を振った後に隙ができるのは把握できていた。
こう言うのは、頭が弱点なのが相場なのだけど、このケースでは如何に。
抜いた刀が頭部にぶつかる。
響き渡るのは、甲高い金属音。
わずかに頭部が後退する。
「やったかっ!」
との油断を見せれば、頭突きを繰り出されるというね。
ま、油断はしたけど警戒は続けていたから、躱すことは余裕であった。地面への着地の時間も必殺技でキャンセルしたし、すぐに路地に逃げ込んだから、ゴーレムの索敵からはとりあえず逃れたと言っていいだろう。
でも……。
「次は、だるま落としみたいにやってみるか?」
攻撃を躱しながら、弱点部位を探す。やっぱり骨が折れるよなぁ。どこかで魔法をチャージするタイミングが取れればいいのだけれど。
※
ミクとヒナタは、神殿の中の一室に潜んでいた。
革張りのソファーに一枚板のテーブル。応接室なのだろうか。壁際に並んだ棚には、色とりどりで豪華な食器や美術品が並んでいる。
「あの犬ゴーレム、攻撃を与えると仲間を呼ぶのが厄介ですね」
「本当に。ヒナタちゃんの攻撃を躱すくらいにはすばしっこいし、魔法をチャージする余裕もない」
疲れたように息を吐き、二人してソファーに身を沈める。冷たいスポーツドリンクが欲しいくらいには、逃げに徹した後だった。
「あぁ、もう。こういうのもロマンがあっていいけれど、もう少し分かりやすい攻略の仕方がほしいって」
「ミクさん、荒ぶってますね。お疲れです?」
「……そんな事、ないですよ。動画の撮影でボロが出ないように、普段から敬語、敬語」
「最初のキャラ設定、間違えた感じです?」
緊張から敬語で撮り終えた動画が、丁寧で分かりやすいと好評となってしまったために、逃れられない呪縛であった。
「それより、この状況を何とかしないと。今まで調べた限りでは、この街はゴーレムの暴走によって、人々の生活が管理されてしまっている」
「砂漠に埋まってしまったのも、それが関係しているそうですね」
この部屋に来るまでに立ち寄った部屋で、椅子などを調べた際に得た情報だ。プレイヤーからは見えないが、そこには人が座っていたことになっている。
「人間が住みやすいようにって、ゴーレムを利用しようとしたらしいけど、それで暴走して過保護になり過ぎてしまうとか、どんな映画なのか」
「ミクさんは、そういうの好きです?」
「嫌いじゃないよ、映画はね。主人公に自然と攻略の糸口が舞い降りるから」
それが自分たちにも降り注いでくれたら、というのが、紛うことなき今の願望だろう。
「ゴーレムと言うことは、どこかにそれを操っている人が居るはずですよね?」
「人か、それともシステム的な魔法陣かな? 私達のゴーレムの魔法も、魔法陣で操作をするわけだし」
「司令基地のようなものが、街の中にあるのでしょうか」
「もしくは、この神殿の中。街なかには犬のゴーレムが居なかったわけだし、此処には相応のなにかがあるのだと思う」
そのためには、安全に探索をしたい。そのためには、犬のゴーレムを何とかしたい。ではどうするか。操作をしているなにかを探そう。
まさに、堂々巡り。
「探索するなら人手が足りない。とすれば、モカさんと合流したい」
「お姉様、無事でしょうか? やられちゃって、草原の街へ戻っていたり?」
「あらら、すっかり懐いちゃったね。まぁ、その心配はないと思うよ。あの人、負けない戦いはしない質だから」
短いながらも、接していて分かったことだった。慎重に慎重を期し、攻める時には一気に攻める。悪く言えば、決まったパターンを好むタイプ。
「周回作業が苦にならないタイプだよねぇ。試行錯誤をして料理をしている影響かな?」
「努力家なんですね。格好良いなぁ」
「どちらかと言うと、面倒くさがり、かな。それより、この部屋も調べておこうか。このソファー、人が座っているかもしれないし」
立ち上がり、ソファーを調べるも無人であった。
しかし、テーブルを調べた所でヒナタがメモのようなものを見つけ出す。
「……これ、神殿の案内図です」
「受付で見られたやつ?」
「ええ、多分。でも、入り口近くの受付とは反対側に印がついてきます」
「ふぅん。どんな場所?」
「どうやら、食堂の――厨房のようですね」
そこで、ミクが閃いた。
「それ、勝手口じゃない? 入り口に行かなくても脱出出来るかも」
「なるほど! 入り口付近は犬ゴーレムが多くて、近寄れなかったですもんね」
なんだかんだ言って、ゲームデザイン的には親切な作りであった。




