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17.細かいことが気になるんです

 ベッドの上、横になった私はジッとノートパソコンの画面を見つめていた。


 映し出されているのは、砂漠の映像。

 日差しが眩しい。

 砂の照り返しが美しい。

 砂から顔を出す調色の施された石柱も、どこか神秘的で美しい。


 そんな感想から、思わず口から息が漏れる。撮影した人物も、なかなか腕があるということなのだろう。


「こういう映像、どうやって撮ってんの?」

「ショッピングサイトでカメラを買うと、ゲーム内に持ち込めるんですよ」


 そんな映像を動画配信サイトに投稿をしているミクと、いま電話をしている。実際に家の店に食べに来た彼女と、連絡先を交換しておいたのだ。 


「へぇ、本格的。この、鳥の目線みたいなのも?」

「はい、ドローンです。でも、ゴーレムの魔法もあるじゃないですか。それでも似たようなことができるらしいですね」

「やらないの?」

「ゴーレムの魔法は素材が必要になるんです。結構手間ですよー、集めるの」


 手間、か。いったいどのくらい手間がかかるのかを簡単にレクチャーしてもらうとすると、詳しく記されているというサイトを教えてもらった。


 ワード検索でもすぐに出てくるそのサイト。ゴーレムについて、という項目をクリックして、ざっと読む。


「ふぅん。つまり、モンスターの能力を再現できるわけか」

「そうです。どちらかと言うと他のゲームで言う魔物使い。モンスターテイマー。みたいなものでしょうか」


 その例えはよく分からなかったけれど、分かる人にはよく分かるのだろう。


「モンスターの素材を消費して魔法発動。一定時間自動で行動する」

「スケッチブックに魔法陣を描いて素材にすると、自分で操作をすることができます。半透明のディスプレイが現れるんです」


 それでゲーム機のように操作をすると。


「でも、急に砂漠とか、ゴーレムについて話を聞きたいなんて……なにか気になることでも?」

「そう、細かいことが気になっちゃって仕方がないの。もしよかったら、一緒に調べてみる? 午後からログインしようと思っているんだけど」

「んー、ではご一緒します。なかなか面白そうですし」


 電話を切って、ノートパソコンの電源も落とした。


「ウーフ、庭で遊ぼうか」


 定位置で横になっていたゴールデンレトリバーが、のそりと立ち上がった。基本的に動作は緩慢だけれど、この子は体を動かすことが大好きだ。クール系、なのかな。それでいてたまにはしゃぐことがあるから可愛らしい。


 軽く運動をして、ご飯を食べて。今日のお仕事は、それからだ。



 そして午後。ゲームにログインした私は、砂漠へと向かう馬車の中にあった。


「この道をまっすぐに進んでいけば、いったい何があるものか」

「行けば分かるさ、迷わず進め。ですか?」


 隣に座るミクが笑う。


「なんですそれ?」


 けれど、ミクとは反対側、私の右手側に座るもう一人の同行者は、いまいちその言葉にピンときていないらしい。


「ヒナタは知らない? こんな感じの言葉。まぁ、私も正確には覚えていないんだけどね」

「ふーん、名言なんですね。ブルータス、お前もか! みたいな」


 名言と聞いて真っ先にそれが出てくるのか。と、私は思わず笑った。


「で、お二人はどこへ向かうのです? 広場でお馴染みの優しいお姉さんとお客さんが一緒にいらしたので、気になって付いてきたのですけど」

「それで砂漠の道のりを付いてこようとするのは凄いね。暇なの?」

「暇です。今日は祝日ですから」


 私とミクは、その事実を忘れていた。街に人が多いと思ったら、そういうことか。


「カナタくんは?」

「強化に使うアイテムを集めてます。明日の学校で結果発表ですから、追い込みですね。……あ、モカさん。武器はどうです?」

「いい感じに強化されてるね。また頼むって伝えておいて」


 ミクもよく利用するようで、短時間にかなりのステータスアップに繋がった。これなら、山岳エリアに行っても、充分すぎるほどに通用するだろう。


「で、本題。この道、まっすぐ……ではないけれど、曲がりくねりながらも砂漠へ繋がっているでしょう?」


 二人が頷く。


「で、行き着くとこの道は砂漠に侵食されているわけ。じゃあ、その道は本来、どこに繋がっていたのか」

「砂漠では?」


 ミクの言葉にヒナタも頷いた。


「砂漠の何処に、ってことを知りたいの。砂漠に繋がっているだけなら、終点である目印があって然るべきでしょう」


 そうは言ってみたものの、二人はあまり納得していない様子だ。そりゃ、終わりを示さなくてはならない決まりなんてないのだし、砂漠へと繋がる道だというのは、周知の事実なのだから。


 しかし私の頭の中には、あの男が浮かんでくる。


 開発部門トップの、鴨三田兄弟の弟。短いながらも言葉を交わしたイメージでは、あの男は世界観にこだわっている節がある。


 そう考えると、砂漠が道を侵食しているという状況は、何かを意味しているのではないか、と思えてならない。


 では、何があるのか。


「私はね、この道が砂漠の街に繋がっているのではないか、と思ってる」

「……でも、砂漠に街はありませんよね? 既に滅んでいる設定なのでは?」

「道が砂に埋まっているのに、街だけが露出している道理はないでしょ。あの辺は窪地になっていた、とか」


 滅んでいる可能性は否定しないけれど。それでも、遺跡のようなものを見つけられたら、それはそれでロマンがある。


 あぁ、気になる。そこに街はあるのか。あったならば何故砂に沈んだのか。私の中の好奇心が、やたらめったらに刺激されて夜も眠れない気分になってくる。


 ま、気分でしかないのだけど。


「確かめるだけなら、ただの暇つぶしだからね。ゴーレムでも使って、道を切り開けたらいいなって考え。砂の下にも道が続いていたら、リーチ」

「ビンゴを目指して穴を空け続ける訳ですね。なるほど、それでゴーレム」


 ミクの言葉に、話の流れを知らないヒナタは疑問符を浮かべている。


「穴とゴーレムが関係あるんですか?」

「ほら、ダイワームは倒すと穴を開けるでしょ? その素材を使ってゴーレムを作ると、落とし穴を掘ってくれるそうなの」


 切り取り線のように穴を空けていって、道が続いていることが確認できたら御の字。そんなところか。


「へぇ、じゃあダイワームを倒すんですね。それで、二人で砂漠へ」

「そう。ミクが付いてきてくれて助かったし、おまけにヒナタもいる。ねぇ、ヒナタはどんなプレイスタイル?」

「槍と杖を組み合わせた、鎖鎌を使ってます」


 ……なるほど、そういう組み合わせもありか。


「鎌の部分を刺しておくだけで注意を引けますので、お役に立てると思います!」


 ……ちょっと嫌な記憶が蘇った。


「じゃあ、私とミクは攻撃に専念できるね」

「ですね。一時間ほど狩りをしたら、三人で穴掘りを楽しみましょう」


 この後ダイワームからある程度のアイテムを集めて、道が途切れた場所まで戻る。そしてゴーレムを使った穴を掘り始めたのたのだけど……。


「モカさん、めちゃくちゃ視線を感じません?」


 そりゃ、馬車の停留所の近くで穴を掘っている三人組がいたら目立つだろうよ。おまけに休日だからか人出も多い。


「大丈夫。きっと何かのクエストだと思ってくれるから」

「あ、ヒナタは知っていますよ。落とし穴で討伐するクエストがあること」


 ……クエスト、受けておけばよかった。


 なんて、足りない考えに頭を痛めながらも、私達は必死に穴を掘り続ける。ティアから事前にスケッチブックを分けてもらっていたため、手動でせっせとゴーレムを操る。


 見た目はほとんどダイワーム。質感が土っぽいくらいか。スティックを傾けてゴーレムを移動させ、ボタンを押したら掘削開始。綺麗にぽかりと穴が空く。


「そう言えば、二人はスケッチブックを持っていたんだね」

「はい。作っておけば高く売れますから」

「ですです。実は私も男子に混じって売り上げ勝負をしていたんですけど、結構在庫を抱えてしまって」

「あ、二人は師弟って感じなんだ」


 ねー、と二人で首を傾け合う姿を見ていると、師弟というよりも姉妹に見える。


「ミクさんはお師匠様。モカさんは現在お客さん。もう少し好感度を上げると、お姉様になるかも?」

「どうすれば好感度が上がる?」

「モンブランが食べたい気分です」


 それはパシリでは?

 と突っ込みを入れた所で少し休憩。

 

 一度の魔法でゴーレムを維持できるのは最大十分間で、掘れる深さもその時間に比例する。三十分の労働で、掘れた穴は段々と深くなっていった。


 朗報があるとすれば、確かに道はあったことか。


「飲み物はある?」


 二人に問い掛けると、元気のいい返事。


「実はこっそり、モカさんのお茶請けを期待してます」

「お茶請けって、私は甘いものを作る経験はあんまりないんだけどねぇ。……あ、季節柄作ったあんまんならある。肉まんを作るついでに作ったんだ」

「最高じゃないですか! ヒナタちゃん、モカさんの作る料理は絶品ですよ」

「へぇ。でもですね、このモンブランを食べたい欲求にかられたヒナタの心を、鷲掴みに出来るかどうか……」


 即落ちでした。


 大層なお褒めの言葉を頂いた休憩も終わり、再び三十分の労働に勤しむ。馬車の停留所も既に見えなくなって久しい。けれど、道はまだまだ続いている。


「これ、縦に掘り進めるよりは、一度穴の中に入って横に掘ったほうがいいかもしれませんね」


 ミクの提案。


「そんな事できるの?」

「はい。手動操作でしたら」

「でも、相手は砂ですよ。横に掘ったらすぐに崩れちゃいません?」

「よく見てください。今まで掘った穴も、崩れてないでしょう? これはトラップとして機能しているものなので、崩れる心配はないんです」


 その言葉に安心して、私達は交互にゴーレムを作り、道に沿うようにして掘り進めていった。


 素材が足りなくなれば倒して集め、地道に穴を掘り進めていく。夕食などで離れながらも、トラップに自ら入ってくるような人も居なかったため、誰にも邪魔されることなく掘り進める。


 そして、私達は辿り着いた。


 道が途切れ、砂漠で見た石柱に施された細工と似たような石畳が見える。そこに足を踏み入れた瞬間。私たちの前に半透明のディスプレイが現れた。


〈エクストラクエスト『禁忌のゴーレム』を開始します〉


 思ったよりも、大事になる予感?

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