14.ハーフアニバーサリーに向けて
程なくして三つの宝珠が集まり、大々的に新たなる武器、銃の実装が告知された。ハーフアニバーサリーとなる二月三日の正式実装に向け、データ収集用に実装されたアイテムとしての銃。街を出て、草原を歩けば、その使い心地を確かめる人が多く見られた。
「へぇ、込める弾丸によって威力と反動が変わるんですね」
感心するように呟くミクは、構えた銃口をウルフへと向けている。オートマチックのハンドガンで、使い始める前はリボルバーの方が格好良かったと残念がっていたが、使い始めれば笑顔が浮かぶ。どうせ、実装されたらデザインは自由に決められるのだ。
「物理的な弾丸だけじゃなくて、魔法の弾丸も放てるんだ。物理遠距離の弓、魔法特化の本、近接物理と魔法の杖。その間を取った感じかな」
そう分析するティアは、銃身の長いスナイパーライフルを構えている。放たれたのは一筋の光であり、一目見ただけでは、それが科学なのか幻想なのかを判断できない。
「レーザーはファンタジーなの?」
「ややこしくなるから触れてくれるな」
隣を歩くユキに問い掛けるが、その答えを聞いて、モカはあの仁という男を頭に思い浮かべる。「心外だな」。そんな声が聴こえた気がした。
あの日、彼と出会ってから二日ほどしか経っていない。それでもこんなにも早く銃が形となっているのは、やはり、口ではどうのこうのと言いながら、心の中ではそこまで反対はしていなかったのだろう。
銃の感触を確かめている二人にユキも加わり、また別の銃を使い始めた。ショットガンだろうか。モカにはあまり銃の知識はなかったから、あまり感動はない。けれど至近距離から撃とうと試行錯誤をしている姿を見ると、かつて、というほど時は流れていないが、あの日の自分の姿を思い出す様だった。
(一年以上やってるだろうに、あんなにもぎこちない)
自然と口角が上がり、まるで自分のほうが先輩にでもなった気がした。
「モカは試さないのか?」
「私はいいや。今の武器が気に入ってるから、変えるつもりもないし」
ひとしきり感触を楽しんだのか、一人佇むモカの下へ戻ってきたユキが問い掛ける。剣道の経験が多少なりともあるからこそ、今の武器が扱えているのであって、射撃の経験のないものを一から習熟するつもりはない。そういった面では、モカは保守的だった。
「ふーん。こうやって色んな武器を扱えるのも醍醐味なんだけどな。新しい武器が増えて、新しい魔法を覚えて、そうして遊びが広がっていく。時には、バレーのボールでドッジボールをしたっていい。遊びって、そういうことだしな」
「なにそれ、痛そう」
「バスケのボールよりはマシだぜ。バレーのボールは一応、身体当てて跳ね返すやつだからな」
「でも、バレーボールはスポーツの中で一番寿命を縮める競技らしいよ。ボールがガンガン当たるから」
「……マジ?」
信じるか信じないかは、あなた次第です。モカはそう笑った。
「新しいものとの出会いはファンタジー、か」
「なんだ、それ?」
「なんでもない。さて、やっぱり私も体験してみようかな」
「お、やる気になったか? ゼロ距離でやってみろよ。外す心配はないから」
「さっきのみたいに? それって銃である意味あるの?」
「当たらないより、当たったほうが面白いだろ? 先ずは当てやすい距離から。武器として実装されたら、ある程度フォローするような機能もあるだろからな。先ずは、撃つことに慣れるんだよ」
「出た、慣れ。結局、このゲームはそれだよね」
「結局、それが全てなんだよ。……この状況に、慣れてばかりでも、な」
「何か言った?」
「なんでもない」
急に小声になり、最後まで聴こえなかった言葉には訝しむモカ。その追求に、彼は応える気を見せなかった。
腰を下ろし、観戦する気を見せているユキを置いて、モカは狙撃を楽しむ二人のもとへ向かった。発射音はとてもリアルで、けれど危機感のような、身の危険を感じる音のようには感じない。それは、構える二人が笑顔だからだろうか。
「楽しんでる?」
「あ、モカさん。はい。いい感じですよ、これ。これなら、メインを銃にしてサブを近接武器にするのも良いかもしれません」
「ナイフとか似合うだろうねぇ。アタシもちょっと浮気しそうになる」
「斧を投げて銃を撃ったりすれば良いじゃない」
「モカは斧を投げたい欲求があるの?」
そんな欲求はないけれど、そう言えばそんな話題を出したことがあったか、と思い出した。
「モカさん、ありがとうございます」
ミクから掛けられた言葉に、目を点にしながら「なんのこと?」と聞き返す。
「銃が実装されるのは、モカさんが頑張ったからって、ティアさんから聞きましたから」
「頑張ったのは、私だけじゃないけどね」
「それでも、です。普通は関わることの出来ない中の人を、こうして身近に応援出来るゲームって、私は素敵だと思いますから」
そういうものだろうか。そういうものなのだろう。自分には分からない感覚だったが、それでも分かるものでそれを捉えようとしてみる。例えば、優れた小説、漫画には、優れた編集者がいる。みたいな感覚だろうか。生み出した物を形にする人。それを世に出すべきかを判断する人。生み出した人は、それを客観的に見ることは出来ないだろうから。
普段は意識しなければ目にはいらない人と、直に会うことができたのなら。あぁ、確かに自分は感謝を示すだろう。
「そうやって、気持ちを伝えられるって良いことだよね」
「しみじみ言うじゃない、ティア」
「そりゃね。アタシだって経験あるし。あんたは憶えていないだろうけど、幼稚園の頃、私が描いた絵をあんただけが、好きって言ってくれたの。親も、先生も、周りも、上手って言うだけだったのに、あんただけは好きって。その言葉の違いがね、アタシにはずっと残ってる」
小学校の調理実習の時、モカも似たような思いを感じたことがある。そのことはきっと、彼は憶えてはいないだろう。憶えているのだろうか。それを訊く度胸は、モカにはなかった。
「そんなに良いものなら、ありがたく受け取っておこうか」
モヤモヤする思いを抱えることもあるけれど、こうして感謝を示されることもある。そして、自分の頑張りとともに世界は拡張されて、そして、自分の楽しみも増えていく。
モカは、ハンドガンを取り出した。銃口を、遠くに見えるウルフに向ける。当たるだろうか。いや、この距離では当たるはずもない。それでも、撃ってみたい気持ちがあった。外して悔しいと思う気持ちも、きっと、前に進むためには必要なもの。それも一つの、楽しみだと思うから。
銃爪が引かれた。破裂音に気が付いたウルフがこちらに視線を向ける。エンカウントだ。やはり、使い慣れた武器がいい。モカはそう笑って、取り出した刀を鞘から引き抜いた。
「モカ、新しいクエストだ! 今度はビキニの鎧はありかなしか、だってよ!」
「……なにそれ?」




