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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
ファンタジーに銃はあり、なし?
12/14

12.VSダイワーム

 砂漠までの移動時間の大半を、モカは読書をすることで消化した。動き出して三十分程はティア、ミクとの会話に興じていたが、次第に流れが悪くなり、耳を閉ざすように本を広げたのだ。


「えー、モカさんって良い感じの人がいるんですか?」

「そうなの。その人、絶対こいつにゾッコンなんだけど、なかなか進展がないんだよねぇ。なんかこっちもヤキモキしてくる」

「それは、やはりこちらから押すべきなのではないでしょうか」

「そこんとこ、どうなのよ」


 そうティアに問い掛けられ、鬱陶しげに視線を向ける。


「もう少し若ければ、それもありだったと思うよ。でも、私も店を持つことが確定しているから、今さら東京で暮らすあいつのところへ行く気もないのよ。仕事も充実しているあいつが戻ってくるとも限らないし、仕事のほうが楽しくなったら、遠距離なんて楽しめない。将来のことを考えると、ね」

「モカさん的には、脈はないんですか?」

「向こうから来れば断る理由はないけれど、こちらから行動する気も起きない。って感じ。向こうがはっきりしてくれたら、私も別の動きができるんだけど」

「なら、やっぱりあんたから動くべきでしょうに」

「いやよ。私のプライドが許さない」


 自分に向けられる感情が気になるから、ドキドキしながら訊いてみよう。なんて柄ではないのは、自分でも理解していた。長く続いた関係が、自分から動き出して所為でそれが壊れてしまったら。という不安感も持っていたが、それを隠すための、プライドという言葉なのだろう。

 モカは、もうこれ以上話すつもりはないと言うように、目線を下げた。購入しておいたクッションは座り心地が良く、話題を変えた二人の会話も、なんだか心地がよい。四時間の旅路は、待ち受ける戦闘に反して、穏やかなものだった。


 砂漠は街道を侵食するように広がっていた。遮るものは何もなく、見渡す限りに広がる砂はまるで海のよう。

 その光景に息を呑んだモカは、ある話を思い出した。


「こういう砂漠で、猿人の骨が見つかるのかな」

「なにそれ」


 唐突な発言に、ティアは訝しげな顔を見せる。


「あ、それ、なんか訊いたことがあるような気がします。有名なバンドの曲から名付けられた話のことです?」

「そう。まぁ、ティアは興味がなさそうだし、それは今度、二人っきりでしようか」

「あら、素敵なお誘いですね」


 勝手に話を進めるな、と不満げなティアを笑いながら、三人は砂漠へと足を踏み入れる。四時間の移動時間の中で、一度ログアウトをして休息を取ったので、このままボスに挑む予定だ。


「誰がチケットを使う?」

「言い出しっぺの私でしょ。まぁ、本を正せばティアのものだけど」

「それじゃあ、パーティー機能を使いますか? 私はまだ、ティアさんとフレンドにはなってませんし」

「あ、じゃあフレンドになっとこう。私の方はまだ枠があるし」

「私も大丈夫です。……おお、凄いチケットの量。戦闘メインの方?」

「だね。ストレス発散に斧を振るってる」

「そう言えば、東京には斧を投げて的に当てる施設があるんだっけ?」

「あー、あるね。アタシはやったことないけど。モカ、興味あるの?」

「え、ゲームでは斧を振るうのに、リアルでは斧を投げないの?」

「刃物怖い」


 分かるー、と共感するミクと、慣れているせいか共感出来ないモカ。斧で薪を割る感触はなかなか爽快なのに、とキャンプでの経験を共有できないことを残念がった。キャンプと言っても、料理をして欲しいと誘われてついて行っただけなのだが。


「ま、ゲームではそんなことを言わないから安心して。それより、戦う前に注意事項。ダイワームは攻撃の前に、口に生える牙を動かすから、それを見て対処してね。攻撃方法は、頭から突っ込んでくるか、鞭みたいに身体を振るうか」

「避けたほうがいいってこと? まぁ、私も多分、防御には自信がないから頑張って避けるけど」

「私は遠距離主体なので、出来ればヘイトを稼いでくれると助かります」

「ヘイト?」

「敵対心、みたいに思っていてくれていいよ。モンスターがどの人に注意を向けているか、みたいな。この中のメンツだと、モカがヘイトを集める役に相応しいと思う」

「私? ……オーケー、把握した。ティアとミクが節を攻撃している間、私は本体を攻撃して注意を引きつけ、攻撃を躱せばいい」

「流石、モカは出来る子だね。ミクは魔法を使える?」

「はい。サポートもできます。ただバフのタイミングとか、回復のタイミングとか、ドキドキして分からなくなってしまうので、指示してもらえると助かります」

「分かった。強化魔法の効果時間は各々の、視界の隅に表示されているから、切れそうになったら声かけ。オーケー?」


 ミクと共に頷いて、私は早速インベントリを開いた。ダイワームは、すぐに砂を巻き上げて現れた。


「オールブースト!」


 すぐにミクから強化魔法が掛けられた。自分ではまだ使用できない、ラック以外のステータスを上昇させる魔法にモカは驚く。


「ミク、結構レベル高いんだ」

「経験値がもらえるクエストもありますから、そういうので上げました。なので、実力は伴っていません」

「言い切れるのは良いことだと思うよ。それじゃあ、モカ、よろしくね!」


 長い胴体の細まった先端部、砂に面したそれを目指して、ティアは駆け出していく。それに視線を向けるように、鎌首をもたげたダイワームはハエトリソウのような牙を浪のようにうねらせた。


「今なら攻撃をキャンセルさせられる!」


 ティアの声に、モカは助走をつけるように駆け出し、普段の自分では到底体験できないような高さまで飛び上がる。


(すっご、強化魔法でここまで変わるのか)


 ジャンプの動作に関しては、スピードだけではなくパワーの数値も関わってくるため、ここまでの高さはまだ、モカは未体験だった。どのくらいの高さだろう、と考える。高校時代、三階の教室から眺めた光景よりも、もしかしたら高いのかもしれない。ダイワームの頭は、すぐ下にあった。


打落(だらく)!」


 視線を必殺技の項目に合わせ、発動させる。杖を真下に構えて、身体ごと落下してぶつける技だ。空中に浮いた状態の時に発動できるものであり、自力で出す方法がまだ分かっていなかったため、視線を合わせるしかなかった。

 必殺技は四つまでしか視界の隅に表示させられないため、このチョイスにしておいてよかったと安堵する。


 命中し、その大きな頭は砂漠の砂に埋もれていった。着地をして、様子を窺う。ティアの斧は着実に節にダメージを与えており、既に一つ目が千切れかかっている。全部で九つ。ミクの魔法が節を切り離した。


 空気を震わせる様な大きな音が響く。低い管楽器のような音は、ダイワームの口から発せられているのだろう。その巨大な本体が砂から現れ、その口はすぐにミクの方へ向けられている。


 刀を抜いて、駆け出した。飛び上がったモカは本体に飛び乗り、その刃を振るっていく。嫌がるようにしなる身体に刀を突き立てて、振り落とされないように踏ん張った。それでも、振り落とそうと本体を鞭のように振るっている。


「モカ、良い感じ! それならこっちに攻撃が来ない!」

「そうは言っても、……これは、並の絶叫マシーンじゃないぞ!?」


 振り落とされないように、必死に突き立てた刀を握り続ける。二つ目の節が切り離された。


 三つ目、四つ目と切り離されて、ついに刀が耐えきれられなくなった。ガクガクと緩み、ストンと抜け落ちてモカの身体は振り落とされる。


「打落!」


 必殺技を使用して、着地までの時間を短縮する。振り落とされた際に、牙が動いているのが見えていた。


「フレイムシュート!」


 スピードとマジックのステータスが上がることで、相乗作用により短くなったチャージ時間で瞬時に放たれる魔法。威力には期待できなかったが、攻撃の動作をキャンセルさせるのには充分だった。


 もう一度飛び上がり、刀を突き立てててじっと耐える。これが一番効率がいいことは分かったが、これが現実であったならば、確実に胃の中のものを吐き出していただろう。


「なるべく早く、なるべく早く!」

「楽しんでくれたら、時間は早く過ぎるんじゃないかな?」

「なら、ティアが変わってよ!」

「斧では突きさせませんー。刀の特権ですー」

「ミクは!」

「矢では頼りないと思います!」

「三本の矢を束ねてみなさいよ!」

「あの話、創作らしいですよ」


 それがどうした! と叫びながらも、モカは必死でこらえ続ける。振り落とされたら魔法を使って攻撃をキャンセルさせ、もう一度飛び上がっては刀を突き刺しじっと耐える。

 討伐が成功し、砂漠に空いた穴に入ろうかという時には、すっかりと草臥れて座り込んでしまった。


「どうせ休憩をするのなら、さっさとオアシスに行っちゃわない?」


 あっけらかんというティアに、モカは眉を顰めた。


「あんなに頑張ったんだから、少しくらいは休憩させてよ。ね、ミクもそう思うでしょ?」

「いえ、早くここを離れたほうがいいと思います」


 え、と口を開けて彼女を見ると、その視線はぐるりと砂漠に向けられていた。それに合わせて、モカも見る。


 そこには、……大量のワームがジリジリと距離を詰めてきていた。


「こうやっていっぱい出るから、チケットが集めやすいのよね」

「だから、アリの涙に行くのは敬遠していたんです」

「それを早く言ってよ気持ち悪い!」


 大量のミミズのようなモンスターに囲まれるのは、相応に背筋の凍るものだった。慌てて穴の中へと入っていくモカたちを、笑う者はいないだろう。

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