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メビウスクエスト・エクストラ  作者: 如月 和
ファンタジーに銃はあり、なし?
10/15

10.谷間の館

 草原の街から山岳エリアに隣接する谷までの馬車での移動は、大半が読書の時間で消えた。ショッピングサイトで購入して持ち込んだ本はなかなか面白く、二時間という長い時間は特に苦にはならなかった。


 ただ文句があるとすれば、馬車の乗り心地はあまり良くない。石畳は問題ないだろうに、車体の質が悪いのだろうか。御者を務めるゴーレムは、話しかけても反応をしない。ただ馬車を走らせるだけだ。次からはクッションを持参することに決めた。


 ミクから教えてもらった通りに谷を進み、三十分程で目的地、『谷間の館』へ辿り着いた。切りが良いからと午前中の業務はここまでにして、ログアウトをする。


 昼食を挟んで谷間の館の攻略へ取り掛かる。木造の、それも文化財にでもなっていそうな小学校を思い浮かべる見た目の館で、玄関の前にできた行列はまさしく観光地のようだ。


 順番が来て、中に入る。攻略と言ってもボスを倒すような面倒な作業があるわけではなく、部屋に入ってモンスターが居れば倒す。宝箱があれば開ける。それだけのこと。


 館は二階建て。観音開きの玄関をくぐると吹き抜けのエントランスがあり、正面に階段。左右に伸びる廊下は一階二階と変わらない。事前に動画で確認した間取りを思い浮かべながら、玄関から右に見える扉に入る。そこは食堂だった。


 執事服を着たモデル人形が二体いる。刀は既に取り出しているため、一気に距離を詰めてその刃を振るった。人形のあるはずのない目が向けられたように感じる。テーブルに置かれた銀色のお盆を、フリスビーのように投げてくる。それを躱し、数度斬り込む。必殺技を出すまでもなかった。


 そこで違和感に気付く。奥にいたもう一体が、全くの無反応だったのだ。


(魔法を使うチャンス?)


 試しにマーカーを合わせ、チャージを始める。人形はテーブルのクロスを直しているようで、一切私の動きには気を留めない。


「フレイムピラー!」


 炎に包まれた人形は、黒い霧となって消えていく。モンスターがあまり強くないと言われている理由がよく分かった。


「なるほどねぇ。広範囲に影響を及ぼす魔法か、複数体を攻撃できる魔法が使えれば、一掃できるわけか」


 必殺技・魔法のリストから、現在使えるなかでそれらに該当するものを探す。レベルは十五になり、それなりに使用出来るものも増えてきた。


 食堂を出て、玄関正面にある大浴場へ向う。風呂掃除をしているモデル人形が相手だ。


「ダークリップル!」


 指定した地点から、波紋のように広がる闇。現状で使える広範囲に影響を及ぼす魔法だった。


 このゲームの魔法には水・金・地・火・木・土・天・海・冥の天体をモチーフにした、九つの属性がある。金は強化魔法。海は回復魔法。土はゴーレムの製作と使役。天と冥は光と闇と表されることもあり、特徴的なそれらを覚えるのに、多少の苦労はした。


 ダークリップルは、冥属性の攻撃だ。モデル人形は木属性に属されるモンスターであるために火が弱点ではあるが、多少マジックに振った私の攻撃ならば、充分一撃で倒せる威力は発揮できていた。


「木の弱点は火。火の弱点は水。水の弱点は木。天と冥はお互いに弱点。弱点関係はこんなところで、地属性の攻撃には風を起こすものもある。うーん、ややこしい。まぁ、攻撃が効きづらいことはないらしいから、適当でいいか」


 結果に満足しながら大浴場を後にして、館の中を探索することにした。先ずは一階。左右に伸びる廊下を挟むように、部屋はそれぞれ四つずつある。計八部屋あるそれらを一通り回ると、宝箱があったのは一部屋だけだった。


「風呂トイレ付きの部屋が八つ。どういう意図の館なんだかなぁ。まるで全てがゲストルームみたい」


 不審に思いながらも二階に上がる。こちらは左側に四つ、一回と同じ作りの部屋がある。右側は廊下を隔てて二部屋。二部屋分あるそれらは、図書室と遊戯室となっていた。


 図書室の人形を倒し、本棚を一通り眺める。なかなか雑多な蔵書であった。部屋の半分、階段側にテーブルが二つ目。奥側には本棚が列をなして並んでいる。


 遊戯室にはビリヤード台が二つ。奥の壁にはダーツボードが三つ掛けられていた。隅に置かれた棚には数本のダーツが並んでいて、自由に使えるようだった。テーブルゲームを行うものなのか、四角いテーブルも二つある。


 部屋の中央に置かれた宝箱を開けてみると、中身はサツマイモ。スイートポテトにしようか、シンプルに焼くか。大学芋もいい。悩みながら、残りの部屋を探索した。


 計十六ある部屋の中で、宝箱が現れたのは二部屋だけ。その結果に眉をひそめながら、今度はそれをコントロールする術があるのかを調べることにした。


 モンスターを倒した後に宝箱が出現する。この可能性を考えて、もう一度一通り巡ってみたが結果は芳しくなかった。特定の攻撃を行った後に訪れた部屋に宝箱が出現する、という可能性もない。最初に火の魔法を使った後、他はすべて冥の魔法を使っていたのだから。


 二周して表れた結果はすべてランダムだったと仮定して、今度は一つの部屋を重点的に調べることにした。遊戯室に入りモンスターを倒すと、ダーツを一投し部屋を出る。もう一度入るとモンスターがいた。


 ダーツを二投。入り直すとモンスター。


 ダーツを三投。入り直すとモンスター。


 ブルに命中するまで繰り返す。入り直すとモンスター。


 ビリヤードにも挑戦してみたが、結果はモンスターが現れただけだった。そして、この時点で宝箱が出現する間隔がある可能性は消えた。同じ部屋はカウントに入らない可能性も考えられたが、二周で同じ結果にならなかった時点で、これは駄目押しと言える。


 次に図書室。秘密の扉を開けるが如く、本を傾けては戻すを繰り返し、その後の変化を確かめてみる。十回、本を傾け部屋に入り直すことを繰り返して、得た宝箱は六つ。確率は収束するのだろうか。部屋に入る回数を五十回に定めて確認してみるも、結果は宝箱が三割ほど。これが自分の運なのだろうか。そう諦めて一度外に出て、テントを組み立ててログアウトをした。


 日が落ちることで変化はあるのか。それを確かめるために午後と同じような行動をとってみたが、宝箱の出現が四割に増えたぐらいであり、コントロールできたとは言えない結果に終わった。


「他に調べることと言えば、隠し部屋、隠し通路の類? 出現を制御するようなものがあるのかどうか」


 一人がだんだん寂しくなってきたのだろうか、独り言が大きくなった。一階の部屋で、意味もなく湯船に水を溜めてみたり、机の抽斗に入った日記帳に記入をしてみたりしたが、結果が出ているのかどうかは分からない。


 少なくとも、宝箱は出現しなかった。では、モンスターの出現をコントロールしていたのか、と言われても、答えは分からない。


「ひとりひとり、個別の空間に転送されるっていうのが、どうにも怪しく思えるんだけど……」


 それが何を意味するのかは、やはり分からない。誰か、詳しい人がいるのだろうか。試しに、フレンドと会話ができる機能を使ってみることにした。


「私、いま谷間の館に居るんだけど」

「なんだよ急に。一人用のダンジョンだから寂しくなったのか?」


 見透かしたようなユキの発言に、腹が立ってダーツを投げた。憂さを晴らすのに相応しいブルだ。座りやすいソファーは、ここにしかなかった。


「宝箱からメモが出現するかもしないって、いつか話に出たでしょ? だから宝箱がいっぱい現れる可能性があるここに来たってわけ。で、もしも出現をコントロールできたらな、って」

「それ、みんなが探しているよな」

「運営的にどうなのよ」

「あるエクストラクエストの舞台になっているらしい。それ以外は、お前から一般のプレイヤーに漏れる可能性を考慮して黙っておく。お前が自分でそこを見つけ出せるわけがないもんな」


 立ち上がって、ダーツを投げる。ボードに弾かれて、苛立ちが増した。


「あっそ。じゃあ、折角宝箱から手に入れたメモは見せてやらないから」

「……はぁ!? 本当に宝箱から出たのか!? あー、悪かった。流石モカさん。冴えてるー」


 多少はスカッとした気分になって、もう一度ダーツを投げた。弾かれても、今度は腹が立たなかった。

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