出会い
オレは、ランチの美味しいお店によく行く。
値段が安いわりに、ボリューム満点で栄養もバッチリなんだ。
平日のランチタイムは、ほぼほぼ男性客ばかりだ。
なのに、今日に限ってめっちゃお美しい女性が来店してきたじゃないか‼︎
どういうことです?
今日は、クリスマスですよ?
だれもなにも言わないが、たぶんその女性も、男性たちの向けられる視線で、なにかしら勘づいているかもしれない。
みちゃいけないってわかっているけど…キレイな髪だなぁって、つい見惚れてしまうのだ。
でも、あまりじっとみるのも失礼だと我にかえり、タレをしっかり含んだ肉を口に頬張った。
やっぱりうまいなぁって、ご飯をかき込むと、ふとあの美しい女性がオレの前を通った。
あぁ、セルフの水をくみにきたのか。
お水くみしているだけなのに、なぜか泉から出てきた女神さまを連想してしまいました。
がっつり視線を向けなくとも、なんとなく視界に入ってくる。
でも、さすがに後ろを向いているときくらい、みてもいいよね?ってことで、ついつい凝視した。
スタイルいいわぁー。
洋服も清楚系でオレ好みだわぁ。
黒のプリーツワンピースが、なんともお上品だ。
髪もサラサラだし、オレの元カノとは大違いー。
と、美しい女性の後ろ姿を見ながらつい元カノを思い出す。
元カノとは、似ても似つかないな。
そんなこと…もうどうでもいいかと、またご飯を口にがっつり頬張ったその時、
「キャっ」
と、小動物でも現れたのか?ってくらいかわいい声が聞こえた。と、同時に冷たいものがピシャリと、オレに降りかかった。
?
ん?と、思っているとアノ女性がオレに
「ごめんなさぁい…お水こぼしちゃいましたぁ」
と、なんとも可愛らしく言ってくるじゃないか‼︎
そりゃ、もちろん
「大丈夫ですよ」
と、爽やか笑顔で返したよね。
「でも…お洋服濡れてしまいましたね。クリーニング屋さんにお持ちいたします。」
なんて、丁寧対応してくださろうとする女性。
「いえ、すぐ乾きますので。」
「でも…あ、それじゃあ、今度わたしのお気に入りのバーに一緒にいきませんか?お礼をさせてください」
なんて、言ってくださる女性。
…
え、そんなラッキーなことあるんだ⁉︎
数分前まで他人だったのに、今はもう…今度一緒にバーに行く仲になりつつあるって…
すごいことだな…。
夢みたいに話が進んで、美しい女性と連絡先まで交換することができた。
こんなことって…あるんですね?
早速来週、二人で出かけることが決定した。
お礼がしたいって言ってくれたけど、もちろん奢ってもらうつもりは、ない。
いいお店を紹介してもらったから、ここは自分が出しますって、なる予定だ。
連絡先を交換して浮かれるオレは、その日午後からの仕事がめっちゃ捗った。
クリスマスに仕事ー…ってなっていたのに、今はウキウキすぎるくらいだ。
あんな美しい女性と、バーに行けるなんて幸せすぎるだろ。
幸せすぎて、新しい洋服を購入した。
浮かれたまま、女性とのバーに行く日を迎えた。
待ち合わせ場所に向かう途中、ふと頭をよぎるイヤな予感…
まさか、騙されてたりしないよな?
待ち合わせに来ないどころか…強面の男性がいたり…しないよな?
待ち合わせ場所についてからも、違う意味でドキドキしっぱなしだった。
でも、そんな不安は一気に消えた。
「お待たせいたしました」
と、美しい女性がオレに向かって笑顔で挨拶してくるじゃないか。
彼女からふんわりかおるフローラルの香りが、オレをホッとさせた。
寒い時に、ほかほかドリンクを手に入れたよ‼︎ってくらい、ホッとした。
すごいな。
この女性は、魔法使いなのか?ってくらい、オレの心を冷たくも温かくもする。
元カノとは、大違いだ。
…
最近、なぜか元カノをよく思い出す。
…なぜだろう?
元カノは、もっと背が低くて全く違う。
新しい恋の始まりの前に、元カノを思い出すのがオレ流なのか?
いや、こんな美しい女性がオレの元カノと比べられるなんて失礼だ。
元カノと、こんなお上品女神さまを比べたりしたら、いやだろう。
あぁ、こんな女神さまがフリーなわけ…ないよな。
ただのお礼で、オレに付き合っているだけだよね。
「あの…」
「はい、なんです?」
「彼氏さんって…」
「え、いませんよー。え…もしかして彼女さんいらっしゃいます?だとしたら、ごめんなさい。彼女さん…もご一緒に今からでもお誘いいたしましょう?でも、彼女さんが嫌がりますよね?バーじゃなく、クリーニング代お渡しいたします。そして、わたし帰りますので、彼女さんとこの後バーでお過ごしなさってください。もちろんお代はお支払いいたしますので。」
「お優しいんですね。大丈夫ですよ、彼女なんていませんから」
「え…そうなんですか⁉︎こんなに素敵な方なのに!」
⁉︎
それは…期待しちゃっていいんっすか⁉︎
ってなるよね‼︎
期待しまくりのオレは、そのまま女神さまとバーにいきました。
お名前は、由妃さんというのだそう。
お美しいお名前だ。
オレなんて、壮太ですよ。
オレの名前を述べると、由妃さんは素敵ですねって言いながら、髪をかきあげたんです‼︎
素敵なのは、あなたです‼︎
そんな素敵な由妃さんと、あっという間に交際がスタートした。
幸せすぎる〜。
幸せの泉に吸い込まれた感。
なんかさ、由妃さんとオレって食の好みもみたい映画も、休日の過ごし方もめっちゃ似てるんですよ。
不思議だなぁ。
こんなにも似てるって、本当に運命なんじゃないかな?っておもいます。
ただ…
なんか、
なんかさ…
なんか、たまに…えっ⁇っておもうところがある。
あの…
由妃さんには、言えないけど…
たまに元カノに似てるなって、おもってしまうんよ。
例えば、ご飯一緒に食べるときにくちびるをよくペロンって、するんだよね。
笑い方も似てて…
あと…
夜をともにするとき…
寝言が全く一緒っていうかさ…
寝てすぐに、「んっ⁉︎」みたいにいうんよ。
元カノも由妃さんも。
容姿は、全く違うんだけど…
これは…もしかしてオレが元カノを忘れられないってことなの⁉︎
自分からフッといて、未練あるとか…
それは、さすがに…ないよな?
元カノは、店員さんにたいして横柄な態度だったりしたんだよね。
なにを食べるのも早食いで、食べるものもアレが食べたいとか、やっぱりいらないとか…わがままでさ、正直なところ…どんどんさめていったんだよね。
元カノは、別れない‼︎って泣いたけど、オレがムリすぎて、そのままさよならしたんだ。
でも、由妃さんとは食の好みも同じで店員さんにも笑顔でその都度対応しているし、似ていないのに…
なぜか元カノがチラついてしまうんだ。
…
なぜだ…
続く。




