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8話

桜田凪咲は走っていた、ショッピングモールの中を走るのは本来禁止行為だが今はそんな事を言ってる場合では無い。


しかしその会あって佐渡を見つける事が出来た。

彼は中央広間の噴水前で項垂れていた。

酷く焦燥した後ろ姿だ。

普段の明るい彼の姿とは異なり痛々しくて見ていられない。


「佐渡君…」


「あ…桜田さん…、その良かったの?こんな所に来て」


「アンタをほっとけ無いよ」


「……、」


「隣良い?ま、駄目って言われても座るけどね」


「………どうして俺なんかを構ってくれるんだい?」


「………、アンタが好きだからだよ、私はアンタが、佐渡健吾が好きなんだよ!勿論恋愛的な意味でだぞ!!」


「お……俺の事を……?」


「本当はずっと…心の中に留めておくつもりだった…でも今のアンタ見てるとほっとけ無い…私はアンタの側にいたいんだ」


「俺は…冬柳さんが好きで…」


「知ってるよ…アンタがもしまだ雫を求めるなら頑張れば良い、応援してやる!」


「え…?でも…、それじゃ…」


「好きな奴が頑張ってる後ろ姿を見るのが好きなんだよ…それを支えられなくて何が好きだよ!」


「桜田さん……」



ほほが紅色に染まる。

思ってた以上に恥ずかしい。

それでも今やめたら後悔する、桜田凪咲は勢いに任せて自分の正直な気持ちをぶちまける。


「私を見てくれたら最高だよ…でもアタシは頑張ってるアンタが好きなんだ!アンタが冬柳雫を求めるならアタシはそれを全力で応援する!アタシは…アタシはアンタの側でアンタを見ていたいんだ!だから最悪アタシを選ばなくても良い……選ばれなくても良い!!だから…だからまた頑張ってるアンタの姿……見せてくれよ!」


「…………桜田……さん…」


呆気にとられ、言葉を失う佐渡。

桜田凪咲は後悔していた。

心に不安と言った感情が溢れる。

今自分が口走った言葉が不安で不安で仕方ない。


勇気を振り絞った彼女の気持ちの発露…しかし早速それを後悔した。

軽蔑されたかも。

気持ち悪いと、勝手な事を言うなと相手を怒らせたかも知れない。

しかし…。



「俺は…冬柳雫さんが好きだった……何か切っ掛けがあった訳じゃない…一目惚れだった…彼女の可憐な姿に魅了されたんだ…」


「桜田…君…」


「俺みたいに彼女の美貌にとらわれる奴は多かった……でも冬柳さんは誰とも付き合わなかった……綺麗で優雅で、絶対に手の届かない高嶺の花…でも俺なら手が届くって…思ってた…俺は他の男子と違う…俺なら彼女の隣にいても大丈夫な…相応しい男子だと思ってたんだ…何様だって話だよね…」


「………」


「でもいざ告白すればふられてしまった…、きっと彼女は俺の傲慢な態度に気付いてたんだ…自分ならきっと大丈夫だなんて…思い上がりだった…」


「……」


「それでも俺は諦めきれなかった…みっともなく、無様に何度も食い下がった……すると彼女はある条件を出して来た」


「条件…?」


「彼女…モテるだろう?俺はその彼女の警護役として彼氏になる、それなら恋人にしても良いと言われたんだ…彼女に本当に好きな相手が出来るまで恋人でいさせてくれるってね……」


「な…なにそれ…そ……そんなの!」


「彼女をどうか怒らないであげて…、その提案を受けたのは他でも無い俺自身なんだ…それに下心もあったよ…警護役としてでも彼氏になれたんだ…ここから本当に彼女の彼氏に…恋人になれば良い……俺ならそれが出来るって…なんの保証も確証も…根拠もないのに…、そう思ってたんだ…」


「……佐渡君…、」


「結果がこの有り様だよ…、本当にダサいよね…無様だよね…、君は……桜田さんはこんな俺でも好きだって言えるのか?」


「くどいよ!!私がアンタを好きだって気持ちナメないでくれる!!?そんなダサい所も含めてアンタの事が好きなんだよ!!」


「でも……でも…俺は…」


「いいじゃん!ダサくたって…惨めだって、必死に足掻いて縋って…そうやって頑張った事は無駄になんてならないよ!だからさ…」


「もういいんだ……」


「え……?……いい…?いいって何よ?何がいいってのよ!?何がいいんだよ!良くない!!何も良くないだろ!!」


「いいんだ……もう……冬柳さんの事はもういいんだ……」


「良くない!!そんなの!!良くない!!」


「いいんだ……俺には……もっと好きな子が…もっと好きになれる子が出てきちゃったから……」


「え…、?」


「ぐっ……ぐす……えぐ……くそ…涙が……だせぇ…、ホントっだせぇ……好きになった子の前で……マジ泣きとかホントしまらねぇなあ…」


「……それって……?」


「俺……桜田さんの事……好きになっちゃったみたい…」


「……はっ?え?ふぇ?……マジで…?」


「そりゃそうでしょ…、傷心の時にこんな励まされて…ダサい所も沢山見せたのに……こんなにされて……好きになるでしょ…?」


「え……?へ?え?」


「桜田さん……男はさ……ちょろいんだから…手加減してよ…もう俺……桜田さんに…その……」


俯いて黙り込む佐渡。

しかし耳まで真っ赤に染まっていて、彼の気持ちを察するのにこれ以上の要素なんていらないだろう…。


「マジで…?マジでマジでぇぇ!!あは!あはは!!」


「桜田さん…?」


「ごめん…不謹慎なのは分かってる…でもね…でもね…嬉しい…嬉しいが止まらないの!!」


「桜田さん……改めていうよ……俺と……付き合って欲しい」


「はい……喜んで!」


その時パチパチと周りから拍手の音がこだまする。

桜田と佐渡を取り囲む様に周囲にはギャラリーが出来ており新たに出来たカップルの誕生を祝う様に拍手の嵐が吹き荒れた。


大勢の人が歩くショッピングモールの大広間で言い合う年若い男女が和解しカップルとなった。

それを祝福する通行人達。


それに照れくさそうに反応する2人。


「ヒューヒュー!!」


「おめでとぉ〜」


「末永く爆発しろぉーこの馬鹿ップル!!」


ギャラリーから放たれる祝福の言葉の数々

佐渡はその歓声に戸惑ってしまう。

しかし桜田は違った。



「皆ぁ〜ありがと~!!」


頬を染めて恥ずかしそうにしながら満面の笑顔でお礼の言葉を贈る桜田凪咲。

 

佐渡はそんな彼女の姿に見惚れる。

彼女の笑顔が眩しくてとても尊い物の様に思える。

 

先程までは冬柳の言葉にあれ程までに落ち込んでいた。

自分の存在する価値なんてない。

死んだ方が良いとまで考えていた。

しかし今は何故あそこまで追い詰められていたのか不思議になる程に彼は前向きに物を見れる様になっていた。  


気づかぬ内に佐渡健吾は桜田凪咲に魅了されていた。

失恋の衝撃を忘れてしまう程に。



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