4話
20時過ぎになり、僕は一応恋人の冬柳雫を彼女の家に送り届けた。
互いに学生で深夜遅くまで恋人の家にいる訳にもいかないと当たり前の事を話したが彼女は納得出来ないらしく、駄々を捏ねて中々帰ろうとしなかったのでここまでかなり苦労した。
学校では黒髪清楚美人で通している彼女だがプライベート空間ではそんなメッキを維持する事もなく、精神年齢がかなり下がるらしく、言動がかなり幼く稚拙になるみたいだ。
それだけ学校の中では普段の自分を偽っているって事なんだろうな。
「なんとも疲れる話だな…」
校内でのキャラ作り。
人気者としてのポジションを持つからこそそれに合ったキャラ作りが求められるんだろう。
美人で人気者な自分に相応しいキャラ性
美人で人気者な自分に相応しい友人
美人で人気者な自分に相応しい恋人。
成る程、僕なんかを恋人ですって馬鹿正直にカミングアウトしたら何を言われるかわからない。
僕からしたら他人が何を言った所で気にするに値しないし、他人の評価なんてクソの役にも立たないって認識だが彼女からしたら他人の評価には大きな意味があるのだろう。
そうやって本来の自分とは異なるキャラを作り続ける事で貯蓄される膨大なストレスの発散方として俺が必要なんだろうな…。
まぁだからって何故僕が?とは思うのだが。
彼女は僕が癒しと言った。
イケメンでもなければ可愛い系でもない。
中肉中背でありふれたベーシックな日本人顔の僕はこれまでモテた事が一度もない。
人生一度はモテ期なんて物があると言われているがそんな物はないと断言出来る程にはモテるって事象とは無縁だ。
ちなみに冬柳さんからモテている現状はカウントには入れない。
なんとなく違うと思ったから。
そうしてアレヤコレヤ考えていると冬柳さんからラインが届く。
内容は本当に取り留めもない。
ある様で無い、そんな内容だ。
話したい事は無い、でも寂しいから私に付き合って!
そんな気持ちが伝わって来る。
僕ばかりではなく佐渡にもラインを送ってやれば良いのにと愚痴を頭の中だけでこぼしながら僕は帰宅後もなんなら就寝手前まで彼女のラインに付き合い続けた。
そして翌日。
いつもと変らない学校での日常がやって来る。
陽キャ集団は今日も元気に騒いでいる。
その中心で清楚に微笑む黒髪美人。
冬柳雫。
派手で自己主張の激しい連中の中で落ち着いた物腰の彼女は逆の意味で目立つ。
うふふと優雅に微笑むその姿に周囲の男子は頬を染める。
そう言えばと周りの女子に目を向ければつまらなそうな顔をしている事に気付く。
成る程、注意深く観察すれば冬柳さんは女子からヘイト感情を向けられ嫉妬の対象としても見られているみたいだ。
女友達から陰口を叩かれてるってのもまぁこれを見れば納得せざるおえない。
そんな事を考えていると
「で?本当はどっちが言ったの?」
と言う女子の冷たさを感じる声が聞こえた。
声の方向を見れば1人の美人な女子が2人の女子に詰め寄っていた。
彼女は夏芽華乃、僕等が所属するクラスの委員長だ。
ただ、クソ真面目で融通の利かない性格の持ち主で合理性とか論理を優先する効率厨だ。
だからかクラス内では厄介者として嫌われていて孤立している。
しかし毅然とした態度の似合う美少女で冬柳さんとは別ベクトルの清楚美人として隠れた人気も持っている……が友達にしたく無い人間としてもまた有名だったりする。
「黙っていたら分からないでしょ?私はどっちが言ったのかって聞いてるの!」
「だ…だから山田さんだよ!私山田さんが夏芽さんの陰口言ってるの聞いたんだよ本当だよ!?」
「は…はぁ?私そんな事言ってないから!アンタ巫山戯ないでよ!」
「フザけてるのはアンタでしょ!」
「アンタが巫山戯てるんでしょ!!ね?夏芽さん信じて!ね?」
「ねぇ?私はどっちが言ったのかって聞いてるのよ?ねぇ?どっち?ハッキリしてくれない?」
「え……と…その」
「わ……私……い、…」
朝から教室はどんよりとした暗いムードに包まれる。
やめてくれよ……朝から疲れるだろ…。
「よ!おはよう!」
と小声で話しかけてきたのは友人キャラの加藤だ。
「おはよ、で、なんなんあれ?」
「あ〜、あれね、」
加藤の説明をかいつまんで話すと夏芽さんに1人の女子が貴方に悪口を言ってる奴がいると告げ口をしてそこから今の事態に発展したらしい。
「山田さんが夏芽さんの悪口を影で言い触らしてたよ、ヤバくない?」
……と。
女子の模範的な行動パターンだとマジで?山田のやつヤバくない?許せないををだけど!
皆でシカトしょうよ!
みたいな流れになり、山田を敵視する一つの派閥が生まれたりする…らしい。
しかし夏芽さんは
「ふーん…、それ本当?なら私、直接山田さんに聞いてくるね」
と、わざわざ他クラスまで行って他クラス所属の山田さんをここまで連れ来たんだそうだ。
「ねえ?山田さんは心当たりが無いって言ってるんだけどどういう事?」
「え……?あぁ、えと…」
って流れになり、今現在はこんな事になっている。
山田さんが悪口言ってと告げ口した女子からしたら誤算も良いところだろう、まさかこんな行動に出て来るなんて多分発想にも無かったんだろうし。
「ねぇ?早く言ってくれる?山田さんは言ってないっていってる、でも貴方は言ったって言ってる、どっちが嘘をついてるの?ねぇ?」
「あの、もういいかな?私そろそろホームルームが始まるから戻らないと」
「そうね、わざわざごめんなさい。」
「ううん、大丈夫、じゃ」
そう言って山田さんは教室に戻って行った。
結局の所状況は何も解決して無いのだが告げ口をした当人は数時間は泣きそうな顔をして授業を受ける羽目となった。
「おっかねーな、女子は」
「だな…」
僕達蚊帳の外の男子は女子の怖さを改めて体感する事になるのだった。