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頼れる助っ人(?)の来訪

 


 

 そのころエルラは、忙しい仕事の合間の気晴らしに、先日来たアルフェラッツ様の手紙の返事を書いていた。

 

 

……………………………………………………

 

 

 もうすぐ冬至祭りです。

 

 カイトス領の冬至祭りでは、どこへ行っても紅茶が飲み放題です。紅茶を使ったお菓子もたくさんあります。

 

 私は毎日、領民のみんなに配る紅茶を詰めています。

 

 アルフェラッツ様にも、我が領地、最上級の紅茶を、この手紙とともに贈らせていただきます。

 

 アルフェラッツ様にとって、素晴らしい冬至祭りになりますように。

 

                         エルラ・カイトス


……………………………………………………

 

 

 よし。

 

 今日の夕刻の便で持っていってもらえば、2日後の冬至祭りにはアルフェラッツ様の手元に届くわね。この紅茶、飲んでくれるといいなぁ。

 

 

 手紙に紅茶を入れて封をして、夕方の便にまとめてもらってから、紅茶を詰める仕事場に戻った。

 

 

「ああ、姉さま。いいところへ。こちら住み込みで、臨時の仕事をしてくれるルーク・メンディさん。仕事、教えてあげて」

 

「まあ、助かります!ありがとうございます。よろしく…」

 

 

 握手して、見上げた相手の顔は、どこか見覚えがあった。どこで? 誰だっけ? あっ。

 

 

「ルク…! 」

 

「ルークです! お間違えないようお願いします」

 

 

 手を強く握られ、にやりと意味ありげな微笑で黙らされた。

 

 

 三大公爵家のルクバート様じゃないの!

 

 

「じゃあね、よろしく。姉さま」

 

 自分の仕事に戻ろうとするルキオを追いかけた。

 

 

「待って、ルキオ。あの人、身元はちゃんと確認したの? 」

 

「うん、大丈夫だよ。三大公爵家に仕えてる人で、ご当主の命で、各地域の伝説や言い伝えなどを調べて、本にまとめる仕事をしてるんだって。

 民俗学も学んでいるそうだよ。それに、ちゃんとアスメディク家の紋が入ったピアスを身につけてた」

 

 

 上級貴族に遣える人たちは、それを他の人に利用されないように、家紋の入ったピアスを身につけることになっている。

 

 家紋は特殊な技術で宝石の中に刻まれているから、容易には真似できない。

 

 

 私も王宮に仕えている時は身につけていたけれど、お暇をもらうときにお返しした。

 

 

 アスメディク家の紋章の入ったピアス…、って、当り前よね、ご子息なんだもん。

 

 でもさっきの様子から、身分は明かしてほしくないようだった。何かわけがあるのかな?

 

 

「それじゃあ僕、行くよ。帳簿の整理があるから」

 

「あ、うん。いつもありがとう、ルキオ。私も手が空いたら手伝うね」

 

「姉さまには作業のほうを任せてるから。事務仕事は僕が頑張るよ」

 

「そうは言っても、お父様は最近老眼ですぐ疲れちゃうし、頼れる執事のケーペィはぎっくり腰で動けないんでしょう? 

 紅茶のほうが一区切りついたら手伝うから、無理しないでね」

 

「ありがとう。姉さまも無理せずに」

 

 

 ルキオは足早に廊下を歩いていった。

 

 私も作業に戻らなくちゃ、と振り向いたら柱の陰に、ルクバート様が!

 

 

「兄弟、仲いいね」

 

「ルク…」

 

「ルーク、です。お嬢様」

 

 ルクバート様は恭しく礼をした。私はあわてて声を低くした。

 

 

「こんなところで何をなさってるんですか? 公爵家のご令息が」

 

「俺さ、身分を隠して、けっこうあちこちで日雇いの仕事とかしてるんだよ。内緒だけどね」

 

「どうして、そんなことを…! 」

 

 

 私は驚いて目を見張った。

 

 

「公爵家のご令息、だからこそだよ。

 国のほとんどを占める一般庶民が、どのくらい働いてどのくらい給料をもらってるか、生活必需品の相場はどれくらいか、1か月の生活費はどのくらいか、どんな生活レベルか…。

 上に立つ者がそれくらいのことを知らなくて、一体何ができると思う? 」

 

 

 なるほど、確かに。ルクバート様、ずいぶん話に聞いてた感じと違うなぁ。

 

 

「どう? 噂とは違うでしょ」

 

 いきなり顔を近づけてきた。

 

 

「えっ、あ、は、いえ、その…」

 

「ほら、作業に戻ろうよ。忙しいんでしょ」

 

 はっ、そうだった。

 

 

 ふたりで足早に作業場へ戻る。


 

「民俗学やってるってのは本当だよ。大学で研究室に所属してた。経済学や帝王学もちゃんと修めたよ。

 卒業してからは、公爵家の仕事も手伝ってる。で、時々こうして臨時の仕事をする旅に出てる」

 

 

 すっごーい…。頭も良くて行動力もあるんだ。

 

 

「エルラちゃんは、農業を学んだんだって? 」

 

「えっ、なんで知ってるんですか? 」

 

「主な貴族のことなら、大体把握してるよ」

 

「うちの領地って、主ですかね…? 」

 

 はははっとルクバート様は大口あけて笑った。

 

 

「うっそだよ。エルラちゃんのことは、気になって調べたんだよ」

 

 へっ…?

 

 

「さあ、作業しよう。何をすればいいの? 」


 

 

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