いざ王宮へ②
紅茶侍女の候補者たちは、打ち合わせなどもあるので2日前には王宮に入るよう言われていた。
私はギリギリ2日前に到着したが、ほかの候補者たちは、すでに王宮に来ていたようだ。
「カイトス子爵のご令嬢エルラ様ですね。こちらへどうぞ」
通された部屋は、奉公のときとは違うご立派な部屋。メインルームにゲストルームと寝室がつながっている。
ほかの候補者の方々は、侍女やつき添いなど人数が多いけど、私はひとりなんだから、こんなに広くなくていいのに。カイトスの館の自分の部屋だって、これほど立派じゃない。
と思いつつ、荷解きをしてから厨房へ挨拶に伺った。
「おお、エルラじゃないか。久しぶりだな」
「マルカブさん、お久しぶりです」
コック長のマルカブさんをはじめ、顔なじみの料理人たちが集まってきた。
「今回は、災難だったなぁ。朝の紅茶を淹れてたのはエルラだって、俺たちみんなで言ったんだけどなぁ」
「まあ、王太子様が関わってますから、一筋縄ではいかないんでしょうね」
「なあ、そうそう、あの王太子がなぁ」
マルカブさんが、急にニヤニヤしだして、私はつい赤面してしまった。
「あっ、あのっ、これお土産です! 」
カイトス産の秋摘み紅茶を、厨房のみんなに持ってきたのだ。
「おう、ありがとよー。前にエルラからもらった紅茶を料理に使ったら、これまた評判が良くてな」
「休憩時間に飲むのも楽しみなんですよ。ありがとうございます」
サウルさんやシェダルさんなど、ほかのコックの人たちも喜んでくれた。
「あー、エルラじゃないの! 」
そこへ、侍女仲間だったフェタとミアもやってきた。
「あなた、チャンスじゃない! 頑張ってね、応援してるから! 」
「エルラが淹れる紅茶が一番美味しいってこと、私たちはちゃんと知ってるからね」
「はは…、ありがと…」
「給仕の補助を、王宮の侍女から、各候補に2人ずつ入ることになってるの。私とミアは、エルラの補助に入ることにしたから、よろしくね! 」
「あ、そうなんだ。私、今日、王宮についたばかりで、お茶会のこと、まだよく聞いてないんだよね」
「もー、相変わらずおっとりしてるんだから。ミア、説明してあげて」
「はいはい。エルラ、よく聞いてね」
思惑はいろいろあれども名目はお茶会。
でも今回は、候補者にとってなるべく公平になるように、立食形式をとるそうだ。
5人の候補者はそれぞれ、お茶専用のテーブルを受け持ち、自分のテーブルに訪れた人に、紅茶を淹れて飲んでもらう。
お茶菓子は、王宮パティシエが用意してくれた同じものを、お茶菓子用テーブルに並べておく。
参加者たちは、気になった紅茶やお茶菓子を選び、それを執事たちが運んでくれた席で頂くということになっている。
気になった紅茶やお菓子を、好きなだけ選ぶことができる。
その中で、国王ご一家は、あの朝の紅茶を選び出し、招待客たちは、予め国王ご一家から知らされていたその紅茶の特徴に似たものを選ぶ。
「これだと候補者たちが大変じゃない? 人が来るたび紅茶を淹れなくちゃならないよ」
フェタが指摘すると、ミアが答えた。
「まあ、多少ね。でも皆さん、そんなにガブガブ飲むわけじゃないし。今回の参加者は30人に満たないくらいだから、5人の候補ひとりにつき5,6人担当するってことになる」
「最初だけ、数人分まとめて淹れてしまえば、あとはちょびちょびって感じだね」
「そうそう。私たち補助もいるし。なんにせよ、いろいろやり方を考えたら、これが一番ってことになったんじゃない? 」
ふぅん。なんにしろ“あの朝の紅茶探し”っていうことになってるのね。
本当にアルフェラッツ様が、あの時の侍女を探してるのかな。でも、そうじゃなきゃ候補者が名乗りでたりしないか…。