約束のタッジーマッジ―
アルフェラッツ様に会いたい。
その想いで馬を走らせた。
この辺境の領地カイトスから王都まで、馬車で1日はかかる。
この調子で馬を走らせたらもたないけど…、でも…、今はただ、早く会いたい。
カイトス領を抜け、隣の領地を抜け、草原にさしかかったころ、さすがに馬を休ませないとと立ち止まった。
すると向こうから駆けてくる馬が見え、胸がドキリと高鳴った。
あれは…、まだ遠くてよく見えないけど、あの馬に乗っているのは…。
再びエルラが馬を走らせると、二頭のあいだの距離はみるみる縮んでいった。
「アルフェラッツ様! 」
「エルラ! 」
駆けてくる馬に乗っていたのは、アルフェラッツ様だった。
二頭の馬が出会い、ふたりはそれぞれ馬から飛び降り、息を切らしながら近づいていった。
こんなに早く会えるなんて…。アルフェラッツ様も、私に会いに来てくれたの…?
ああ、でも、会いたかったのに、なんて言ったら、何を言ったらいいのか、わからない。
ふたりは息を切らしながら、お互いに言葉もなく、しばらくただ顔を見つめ合っていた。
不意に、アルフェラッツ様が腰を落とし、地面に片膝をついた。
「アルフェラッツ様? 何を…?」
驚いて思わず声を出すと、アルフェラッツ様は手に取り出したものを、私に差し出した。
「これは…、タッジーマッジー? 」
アルフェラッツ様の手には、可愛らしいハーブの花と葉の束があった。
「あの夜会の夜、エルラが置いていったタッジーマッジーが、ずっと気にかかっていた。僕なりに調べて、君にこれを渡そうと決めたんだ。この意味はわかるよね? 」
思いがけない出来事に、私の心臓はバクバク! アルフェラッツ様の言葉に必死に頷いた。
「返事は、すぐじゃなくていい。今の、僕の気持ちとして、受け取ってほしい」
差し出されたタッジーマッジーを受け取ろうとすると、私の手はブルブル震えてガクガクしていた。
ひゃあ~、もうどうにかなっちゃいそう! でも、でも、とっても嬉しい。
なんとかタッジーマッジーを受け取ると、アルフェラッツ様は立ち上がって言った。
「ありがとう…」
そして、くるりと踵を返して、馬に手をかけた。
あっ、行っちゃう!
「まっ、待って! 」
私は慌ててアルフェラッツ様の背中にしがみついた。
「お、おおお、お願い、待ってて」
アルフェラッツ様の背中から手を離すと、震える手でなんとか、タッジーマッジーから小さな花を一本抜き取った。
「先のことは、まだ、よく、分からないけど。でも、私も、今の私の気持ちです」
そう言って、その花を差しだした。
「エルラ! 」
アルフェラッツ様は満面の笑みで私を抱きしめると、ふわりと抱え上げた。
「エルラ! 」
もう一度、嬉しそうに私の名前を呼んだ。
「わっ! ちょ、ちょっと…! 」
体を持ち上げられて不安定になり、思わずその腕をぎゅっと握りしめた。
「痛いよ、エルラ」
「あっ、ごめんなさい! だって、びっくりして…」
アルフェラッツ様は私を地面にすとんと下ろした。
あらためて顔を見合わせると、なんだかおかしくなって、私たちは声をたてて笑った。
「アルフェラッツ様、これからカイトスの館にいらっしゃいませんか? ちょうどお母様のお土産の、異国のお茶がありますよ」
その昔、男性が女性にタッジーマッジーを贈るのは、結婚してほしいという意味表示だった。
そして、女性がその中から1本の花を抜き取り男性に返すのは、承諾したという意味。
それが、結婚式のブーケとブートニアになったんだって。
おいしい紅茶から始まった物語は、ここで一旦おしまい。
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