思わぬ事件
王太子アルフェラッツ様とフォルキーナ王女の国めぐりは、各地で歓迎されていた。
歴史ある地域の街並みや建造物、栄えている主要な貿易港、自然と共存して暮らす豊かな農村地など。行く先々でおふたりへのもてなしが行われた。
ある日の訪問を終え、ふたりを乗せた馬車は、国境に近い森を通り抜けようとしていた。
「この森は、隣国との境界ともなっています。原生植物も多く、隣国と共同管理を行っている貴重な森です」
揺れる馬車のなかから、王太子様の声が聞こえる。
急に、ガクンと馬車が揺れ、御者が悲鳴とともに振り落とされ、何者かが御者台を乗っ取った。
その途端、王太子と王女を乗せた馬車は急激にスピードを上げて走りだした。
「殿下! 」
馬に乗ったお伴の騎士たちは、急ぎ馬車のあとを急いで追いかけた。
お伴たちから離れた馬車から馬だけが切り離され、猛スピードでそのまま走り去っていく。
勢いがついた馬車は失速して森の中へ突っ込み、バキバキと小枝を蹴散らしながらひしめき、止まった。
めちゃくちゃに揺れる馬車の中で動けずにいた王太子は、すばやく馬車の外へ出た。
そこへ、待ち伏せしていたと思われる賊たちが、一気に襲ってきた。
「くっ…! 」
王子は応戦しつつ、王女がいる馬車を守ろうとしたが賊は数が多い。
ひとりが馬車の中へ、するりと入りこんだ。
「アルフェラッツ様―!! 」
その時、森の中から声がした。
駆けてくる馬に乗っているのは、騎士のような恰好で剣を携えたエルラだった。
エルラのほかにも馬に乗った騎士たちがやってきて、馬から飛び降りつつ剣を構え賊に立ち向かった。
「エルラ!? どうしてここに? 」
「それはあとで! 」
エルラは馬車の扉を開け、王女を連れ出そうとしている賊を剣でなぎ払った。
「はぁーっ! 」
思わぬ加勢に不利と見た賊たちは、素早い判断で速やかに引いていった。
「王女様! ご無事ですか? …って、あれ? アスケラ様!? 」
助けた王女をよく見ると、ドレスを着て、カツラをかぶったアスケラ様だった。
「エルラ! 」
アルフェラッツ様が、エルラのうしろから声をかけた。
「あっ、アルフェラッツ様! ご無事ですか? 」
エルラが振り向くと、アルフェラッツ様はふぅーっと深いため息をついた。
「エルラ…、君って人は…」
そして剣を放ると、いきなりぎゅっと抱きしめた。
えっ? な、なにコレ。私、抱きしめられてるー!?
そこへようやくお供の騎士たちがやってきた。
その中のひとりが大急ぎで馬を降り、抱き合っているふたりをどけると、馬車のなかに飛び込んでいった。
「フォルキーナ姫! 助けに参りました! …って、あれ? あれ? 」
その騎士も、アスケラ様を見て驚いている様子。
アルフェラッツ様は、私をそっと離すと、その騎士に話しかけた。
「失礼。君は遠国の王子、クビアス・ヒドゥリー殿ではないか? 」
「え? いや、僕は、その…、あ、い、いかにも! 私はクピアス・ヒドゥリーだ」
「なぜ、お供の騎士のなかにおられたのですか? 」
「それは…、あ、そうだ。私がお慕いする大切なフォルキーナ王女を、賊どもが狙っているという情報を得たのだ。失礼だが、アルフェラッツ殿には任せておけないと思い、こうして身を隠して、王女をお守りしていたというわけだ」
「なるほど。王女を狙っている賊どもとは…、あの者たちのことですね」
さっき逃げていった賊が数名、兵士たちに取り押さえられて、連れてこられた。
「あっ…、どうして…。いや、そう。まさに、その者たちのことだ」
「そうですか。実は私どもも、王女を狙う賊の情報を入手しましてね。それで王女の身代わりをたてて、おびき寄せたというわけなのです」
「な、なるほど。さすが、アルフェラッツ殿。では、王女は無事なのですね」
「もちろんです。ただ、賊に関しては、もう少し詳しい情報を聞いているのですが」
「左様ですか…。私は王女がご無事であればいいので、それでは、これにて失礼いたします」
「お待ちください」
アルフェラッツ様の声と同時に、騎士たちがクピアス王子を取り押さえた。
「なにをするっ…」
「その詳しい情報については、あなたからもお聞きしたいと思います。ご同行願います」
賊と王子は、騎士と兵士たちに連れていかれた。
アルフェラッツ様はもう一度、私に向き直った。
「エルラ! なんて無茶なことをするんだ! それに一体、どうしてここに来たんだ? 」
「は、はい。実は、王女様が狙われているらしいという情報を、持ってきてくれた人がいたんです」
「それは、誰が? 」
「私の母です」
「母上? 」
エルラと一緒に馬で駆けつけてきた剣士のひとりが、すっと腰を落として挨拶をした。
「お初にお目にかかります。エルラの母、シェリラ・カイトスでございます」
「母上って、亡くなられたんじゃなかったのか? 姿が見えないから、てっきり…。しかも女剣士?」
「あのー…」
馬車のなかからアスケラ様が顔だけ出して言った。
「お話なさるのであれば、ひとまず王宮に参りましょう。私も身支度を整えたいので…」




