しばしの休息
カイトス領へ帰る日、私はアスメディク家の皆さんに見送られ、馬車に乗りこんだ。
数か月過ごしたアスメディクのお屋敷から、だんだん離れていく。
カイトスで休んだら、また私はここへ帰ってきて、お后教育の続きをする?
どうだろう?
あの夜会のあと、アルフェラッツ様から、急に帰ってしまったことをご心配してくださる手紙が届いた。
私は、あたりさわりのない返事を返しただけで、それからはお互いに連絡をとりあっていない。
噂では、フォルキーナ王女はしばらくこの国に滞在するそうだ。
最近では時々、アルフェラッツ様の公務に、王女が同行することもある。
そのせいなのか、アルフェラッツ様からのお手紙も、途絶えてしまっているし、私からも手紙を書く気が起きない。
馬車に揺られながら、ついそんなことばかり考えてしまう。
胸が苦しくなって涙が出てきそうになる。
誰かを想うのって、こんなに苦しいものなんだ。
カイトスに帰ってきてからは、以前のように領地の仕事をせざるを得ず、忙しさに余計なことを考えずにすんでいた。
フォルキーナ王女とアルフェラッツ様の噂は、この田舎にまで広まっていた。
お父様や弟のルキオ、侍女のナシーラをはじめ館の者たちは、私に気を遣ってかその話題は口にしない。
相変わらずアルフェラッツ様からのお手紙も来ないし、こうやっていつのまにか時が流れて、いつか忘れてしまうのだろうか。
「エルラ様、最近よく食べるようになりましたね」
ナシーラが言ったことに驚いた。
「えっ、そう? 」
「そうですよ。お帰りになった時は、痩せていて驚きましたよ。食べる量も少なくて、どこかお体が悪いのかと心配いたしました。でも、この調子であれば大丈夫そうですね」
「アスメディク家にいたころ、ちょっと食欲がなくなっちゃって。そのせいで食も細くなってたのね」
「また茶畑で作業などされて、体を使ってらっしゃるから、お腹がすくようになったのでしょう」
「ああ、そうかもね」
そういえばルクバート様も、私の体調について何か言ってたし、帰ったほうがいいと思ってたって、こういうことだったのかな?
「食べたらまた、茶畑で仕事するわ」
確かにこうやって茶畑で働いていると、疲れるけど楽しいし、ちゃんとお腹がすくって感じがする。
小さいころからやってきたことだから、やっぱり体に馴染んでるんだろうな。
しかしこの雑草には参っちゃう。
ちょっと放っておくと増えちゃうから、こまめに取るのが肝心なのよね。
「姫様、姫様、知ってます? 王太子様が隣国の王女様に、国中を案内してさしあげるんですって」
作業に来てくれている町の娘が教えてくれた。
「へえ~、そ、そうなの…」
「このカイトス領にも来るのかなあ~。ちょっとでも見てみたいです。王太子様って素敵なんでしょうねー。エルラ様は王宮にご奉公されていたから、お会いになったりしたんですか? 」
「あ、いやぁ、あまり、お会いする機会は、なかったかなぁ」
「そうなんですかぁ。残念でしたねー」
そうか、アルフェラッツ様がもしかして、こちらにいらっしゃるかもしれない、と思うとドキンと胸が高鳴った。
しかし、王女様と一緒に、と思ったら、ズキンとお腹が重くなった。
ああもう、病気になりそう…。
一応、お父様に確認しておこうかな。
「ねえ、お父様。今、王太子様が、王女様に国を案内してさしあげてるってご存知? 」
王太子様と聞いて、お父様はぴくっとなったみたい。
「うん、ああ。そんな話なようだな」
「このカイトス領のほうにも、来るかしら? 」
「いやいや、まだ、そんな話は聞いておらんな」
「そう。もし、こちらにいらっしゃるようなら、王宮から連絡がくるわよね」
「ああ、そうだな。こちらに来るとなれば、もてなしをしなければならないだろうから、連絡が来るだろう」
「そうよね…」
じゃあカイトスには、きっと来ないんだ。
よかった。と思ったら、ほぅっとため息がでた。
お父様も会話が終わったら、ほぅっとため息をついてた。
そんなに気をつかわれると、かえってなんだかムカつくわ。
その時、ホールのほうが少し騒がしくなった。
「何かしら? 」
と思ったとたん、部屋の扉がひらいた。
「あっ」




