王女様のご登場
扉からひとりのご令嬢が会場へ入ってきた。
艶やかな髪を美しく結い上げ、シンプルながらも品のいい上質なドレス、表情や立ち居振る舞いなどすべてが優雅で、思わず目を奪われてしまう。
そのご令嬢をエスコートしてるのは、なんとアルフェラッツ様だった。
「あの方ね。噂のフォルキーナ・カッペアチェ様」
「さすがに隣国の王女様だけあって、気品あるわ」
「アルフェラッツ様がエスコートされてるということは、やっぱり…」
聞こえてくる人々のささやき声。やっぱり、って何?
「エルラ嬢? 」
気がそれて、ダンスのステップが乱れた。胸の真ん中にドカンと岩がぶちこまれたみたいで、苦しくなってきた。
「ちょっと、私、なんだか立っていられない…。どこか座りたい…」
「ああ、わかった。ちょっとここを出ようか」
ルクバート様は私を支えるようにして、会場を出た。
会場の近くには、控室というか休憩室のような部屋も解放されているので、そこに入った。
その部屋にはほかにも人がいたが、隣国の王女様の登場と聞くと、みんな会場へ王女様を見に出ていってしまった。
私がソファに座ると、ルクバート様が飲み物を運んできてくれた。
「大丈夫? 」
「はい…」
なんだか頭がうまく回らない、考えたいのに、考えられない。
「あの…」
ルクバート様に話しかけてみたものの…
「いえ、なんでもありません…」
「はじめての夜会にしちゃ、だいぶ頑張ったし、今夜はもう帰るか? 」
え? 先に帰ってもいいの?
そういえば、アルフェラッツ様ともう一度、踊る約束をしてたっけ。でも…。
「早めに帰る客はいくらでもいるよ。王太子も気にしないと思うよ」
その言葉がズキンと胸に響いた。アルフェラッツ様と王女様の姿が頭に浮かんだ。
「どうする? 」
「…帰り、ます」
「わかった。馬車をまわしてくる」
ルクバート様はそう言うと、部屋を出ていった。
約束を破ってごめんなさい、アルフェラッツ様。でももう、あの会場へは戻れそうもない。
ふと、耳のあたりに上げた手が、髪飾りのタッジーマッジーに触った。
ごめんなさい、と思いつつ、それを髪から外してテーブルの上に置いていった。




