ダンスのお相手
会場に入ると、そこはきらびやかな別世界。
設えてあるものが一流なだけでなく、格というか雰囲気がやはり違う。
いらしてる方たちのオーラもまばゆい!
侍女として王宮に仕えているときとは、やはり立場が違うからか、感じ方も違うものだなぁ。
お客が揃ってきたころ、鈴が鳴り、王族ご一家が入場されてきた。
もちろん、アルフェラッツ様もいらっしゃる。ああでも、遠いなぁ。私に気づいたかな?
挨拶がひと通りすむと、音楽が流れだし、歓談の時となった。
「さあ、お兄様」
ギエナ様はルクバート様の手を取り、さっそく踊りだした。ああ~、おふたりとも、なんて華麗。
私も踊らなくちゃいけないのかな、と思ったとたん、緊張して体が硬くなった。
誰も誘わないで~、と思いつつ、目立たぬよう壁際のほうへとにじり寄っていく。
すると耳元で声がした。
「よろしければ、踊っていただけませんか? 」
へっ?
振り向くとそこにはアルフェラッツ様がいた!
ええ~?? なんで、なんで? さっきまで、あっちにいたはずなのに。
にっこり微笑み差しだしてきたアルフェラッツ様の手を、ついうっかり握ってしまった。
アルフェラッツ様は私の手を取り、壁際から人波をするすると抜けて、ホールへ出ながら踊りはじめた。
うわーっ、私、踊ってる! しかもアルフェラッツ様と!
「お上手ですね、エルラ」
アルフェラッツ様が褒めてくださった。
「い、いえ、そんなことは…」
謙遜しそうになったところで、ルクバート様と踊るギエナ様が目に入った。
なんて堂々と、幸せそうなんだろう。そうそう、私も、そうなりたければ、そう振る舞えばいいのだ。
「ありがとうございます。これもアスメディク家の皆さまのお陰ですわ」
と言いながら笑顔を返した。
でもその時一瞬、アルフェラッツ様の笑顔が曇ったような気がしたのは、気のせいだよね。
ケペティ女史の特訓のおかげか、ダンスはすっかり身についていたようで、アルフェラッツ様のリードに合わせて足が自然にステップを踏んでくれる。
ダンスってこんなに楽しいものだったんだ。
「なんだか、良い香りがしますね。香水とはちょっと違うような…」
アルフェラッツ様が気づいてくれた。
「ハーブで小さな髪飾りを作ったんです。タッジーマッジーって覚えてますか? 」
王宮の薬菜園から帰ってから、アスメディク家の庭にもハーブがあると聞き、かわいい花が咲いているハーブで、今夜の髪飾りに小さなタッジーマッジーを作ったのだった。
「私、香水は苦手なんですけど、ハーブの香りは大好きなので」
「そうだね。香水とは違う、もっと爽やかな、なんというか、自然な香りがするね。僕も好きだな」
わっ、好きって…。いやいやいや、ハーブのことだから!
「ずっと踊っていたいけど、ほかのご令嬢とも踊らなくてはならないので。ひと通り踊ったら、また踊っていただけますか? 」
「もちろんです。お待ちしております」
第2王子のグラフィアス様も、次々とご令嬢たちと踊られているご様子。王族って大変~。
アルフェラッツ様と踊り終えて、さてひと休みと思ったら、ほかの貴族のご子息様からダンスのお誘いが。
1曲終わると、また次のお誘いと、休むヒマがない。ご令嬢ってけっこう体力いるのね。
ようやくひと段落して飲み物を飲んでいると、ギエナ様はミラク様と踊ってるし、ルクバート様はご令嬢たちに囲まれていた。
みなさん、それぞれね。
私はこんなに踊ったのって初めてだし、正直、足がだるいから、今度こそもう誘われないように、目立たないようにしてよう。
と思っていたのに…。
「踊っていただけますか? 」
いやいや、もう無理! と思って相手を見ると、ルクバート様だった。
これまた、さっきまでご令嬢たちに囲まれてたのに、いつのまに?
「もう無理、って顔してるね。だいぶ踊ってたみたいだし」
「ご存知なら、誘わないでくださいよ」
「そんなぁ。せっかくなんだからさ。それ飲んだら踊ってよ」
うう~、仕方ない…。
踊りだしてみると、やっぱりルクバート様のリードはお上手だ。
「ようやく元気になってきたたみたいで、良かったよ」
「え? 」
「最近ずっと、なんだか元気なかっただろ? 」
「あ、ルクバート様、気づいてました? 」
「そりゃ、気づくさ」
「なんだったんでしょうね。体調悪かったのかな? 」
「なんだ、本人は気づいてなかったのか」
「え? 」
その時、会場の雰囲気がざわついた。




