夜会の夜
あれよあれよという間に、夜会の日がやってきた。
「マナーもダンスも、もうすっかり身につけられましたわ。よく頑張りましたわね、エルラ嬢。王宮舞踏会などお手のものです。なんたってこの私がご指導させていただいのですから! 」
ケペティ女史からお墨付きをいただいたのは嬉しいけど、心構えというかなんというかがまだ…。
「まあ、エルラ様。そんなしょぼくれた顔をして! これから楽しい夜会だというのに」
「ギエナ様は慣れてらっしゃるでしょうけど、田舎領主の娘は、きらびやかな場には縁がありませんでしたので」
「縁があろうとなかろうと、これから夜会に行くと思うと、ワクワクしませんこと? 私のお姉さまがたが言ってました。ワクワクすることが、もっと素晴らしいものを引き寄せるって。私なんて、今から何が起こるのか、もう楽しみで楽しみで~」
「よろしいですね。ギエナ様がうらやましいです」
「もう~、エルラ様は堅苦しく考えすぎです。私がうらやましいのでしたら、私のように振る舞ってみてはいかがですか? これもお姉さまがたの言葉ですが、そうなりたいなら、そのように振る舞えばいいのですって」
なるほど! 3つも年下の子に諭されてしまった。
ギエナ様は全体的に子どもっぽいけれど、時々やけに大人びた物言いなどをされるのは、お姉さまがたの影響もあるのね。なんてったって、上に3人も姉がいるんだものね。
でも言われてみればその通り。
私は、アルフェラッツ様にふさわしい女性になるために、頑張ってきたんだった。
そうなりたいなら、そのように振る舞っているうちに、きっとそうなれる!
環境が人を作るっていうしね。
「それでは、参りましょう。お嬢様がた」
今夜の夜会には、アスメディク家のご当主夫妻と、長男のルクバート様、次男のカーフ様、三男のミラク様もいらっしゃる。
「私は、お兄様とご一緒の馬車で」
ギエナ様はさらっとルクバート様の手をとり、ご一緒の馬車に乗りこんだ。
「さあ、エルラ嬢も」
ルクバート様が手をさしのべた。
「あっ、いえ私は…」
すると、ズイッとうしろから押され、ルクバート様のほうへよろけ、手をとってしまった。
うしろを振り向くとミラク様がいて、私に続いて馬車に乗りこむご様子。
まったくもう~、ミラク様ってば…。
ご当主ご夫妻と次男のカーフ様は、もう一台の馬車に乗られた。
「夜会は久しぶりですわ。ルクバートお兄様、最初のダンスは私と踊ってくださるでしょう? 」
「どうかな。ギエナを誘いたくて仕方ない殿方が、ほかにいるんじゃないかな」
「たとえ、そのような殿方がいらっしゃっても、私はお兄様と踊りますわ。ダンスの練習も頑張りましたし」
「ギエナはダンスが上手だから、きっと王太子殿下が誘わずにはいられないだろう」
「本当ですか? 私、お兄様のために頑張りますわね」
おお、ギエナちゃん、ガッツポーズ…。
ミラク様は不機嫌そうだな~。
馬車が止まり、いよいよ王宮についた。アルフェラッツ様もここにいらっしゃるんだな~。
先に馬車から降りたルクバート様の手を、ギエナ様はまたもやさらっと取り、エスコートされて会場へ入っていった。
私は仕方なさそうに手を差し伸べてきたミラク様に、エスコートされる形になった。




