王宮の薬草園にて②
「アルフェラッツ様! えっえっ…? どうしてここに? 」
「手紙で薬菜園に行くことになったと知らせてくれただろう。私もそれに合わせて公務の休みをとったんだ」
えー、こんな思いがけない…。私、大丈夫? ちゃんと歩ける?
「ルクバートも、よく来てくれた」
「はいはい。王太子殿下、ご丁寧なご挨拶をいただき恐縮です」
ルクバート様のご挨拶を聞いて、アルフェラッツ様の笑顔がひきつったような?
「では、エルラ。どこから見てまわろうか? 」
「アルフェラッツ様、くれぐれもお時間をお忘れなきよう…」
「ああ、わかってる。エルラ、僕の付添人のアスケラだ」
「はじめまして。エルラ・カイトスです」
「アスケラ・ヴェロルムです。でも、初めてではありませんよ。あなたが王宮仕えをしているときに、何度かお見掛けしました」
えっ? あ、そういえば、いつもアルフェラッツ様のそばにいたような。
ヴェロルム家ってことは、この方も三大公爵家の方なのね。例のお茶会で候補にあがってたカリーナ様のご兄弟か、ご親戚といったところかな。
「ほかに警護の者をふたり、付けさせていただきます」
アスケラ様は、ふたりの騎士を紹介してくれた。
「では、参りましょう。エルラ」
「は、はい」
アルフェラッツ様と並んで歩き出すと、ルクバート様と、その後ろにアスケラ様と騎士の方がふたりついてきた。
薬菜園は広く、植物の種類ごとに区分けがされており、どこも手入れが行き届いていた。緑がいっぱいで素敵~! 思わず浮き足立っちゃう!
「久しぶりだね。少し痩せた? 」
「はっ、はい。えっと、その、最近ちょっと食欲がなくて…」
「どこか加減でも悪いの? 」
「いえ、そういうわけではなくてですね。うーん、なんというか…。まあその、体が悪いわけじゃないので、ご心配なく」
「そう? じゃあ一体…」
「あっ、なんか、いい匂いがする! そういえば先日、ルクバート様にいただいたお茶に、この薬菜園のハーブが使われてるとお聞きしました」
「ああ、そうだったんだね。それならハーブ園のほうへ行こう」
アルフェラッツ様がすっと腕を出された。
えっ! これって、腕を組んでいいってこと!? ど、どうしよう!
「足元が危ないからね」
あ、そうよね。薬菜園だから。
ま、そう思って今日は、歩きやすい靴を履いてきたんだけど。でも、せっかくのご厚意だし…。
私は思いきって、アルフェラッツ様の腕に、そっと手を添えた。
ひーえーっ!! 触っちゃったよー!! 眩暈しそう…。本当に転ぶかも。
薬菜園のところどころには、作業をしている人がいた。
「わぁ、いい香りがする」
風にのってハーブのいい香りが漂ってきた。ハーブ園では高齢の男の人が作業をしていた。
「やあ、ダビー」
アルフェラッツ様が、彼に声をかけられた。
「これは、アルフェラッツ様。ようこそ、いらっしゃいました」
ダビーと呼ばれたその人は立ち上がり、麦わら帽子をとって丁寧にお辞儀した。
「こちらは、エルラ・カイトス嬢。エルラ、ダビーはもう何十年も薬菜園の管理をしてくれているんだよ」
「そうなんですね。初めまして。エルラ・カイトスです」
「これはこれは…、ご丁寧にありがとうございます。ダビーと申します」
ダビーの周りには刈り取られたハーブが、束になって積み重なっている。
「ハーブの収穫ですか? 」
「はい、ハーブというのは雑草みたいなもんですので、種類によっちゃあ刈り取ってやらなきゃ、かえって育ちが悪くなっちまいますので」
「収穫したハーブはどうするんですか? 」
「チンキや薬を作ったり、乾燥させてお茶にしたり料理に使ったりです」
「商品として売り出してもいるよ。わが国のロイヤルブランドとしてね」
「へぇ~」
そうか。王族の人はそういったことも管理したりしてるのね。
「フレッシュなうちはハーブティーにしたりするんで、公爵家なんかにもお裾分けさせてもらったりしてます」
「ああ、このあいだのハーブティーは、それだったのね」
「そうなんだよ。実は、ハーブ園でお茶にしようと思って、アスケラに用意してもらってるんだ」
えーっ、なんて素敵! ハーブ園でハーブの香りに包まれてお茶だなんて、幸せすぎる!
「ハーブ園の近くに、こんな素敵な東屋があるんですね」
「母上のお気に入りでね。薬菜園に来た時、母はここでお茶にするのを楽しみにしてるんだよ」
「王妃さまが? 」
素敵な東屋で飲むハーブティーは格別に美味しかった~。
アスケラ様が用意してくださったクッキーやブレッドケーキも最高!
ルクバート様も感心しながら食べてらっしゃった。ギエナ様も連れてきたかったな。
「あの、私もハーブの収穫をさせてもらってもいいでしょうか? 」
「もちろん。構わないよ」
「ありがとうございます」
やったー! 久しぶりの植物との触れあい。やるぞー!
私がはりきって、ダビーさんに教わりながら収穫をしているあいだ、アルフェラッツ様とルクバート様はおふたりで語らっていらっしゃった。
「ルクバート。なぜ、エルラをアスメディク家に? 」
「別に、たまたまだよ。誰かさんがカイトス領を訪ねたおかげで、カイトス家はすっかりその気だぜ。ただ、お后教育を受けさせるアテがない、っていうんで、ちょっと手をかしただけだ」
「そもそもお前はなぜ、カイトス家にいたんだ? 」
「だから言ったろ? いつもの放浪癖さ。それより見てみろよ。エルラちゃん、生き生きしてるだろ」
「そうだな…」
「彼女には、ああいう場所が合ってる。彼女にとっても、あんな風に過ごすことが幸せだと思わないか? 」
「どういう意味だ? 」
「わかるだろ。堅苦しい場所にいたら、花だってしおれてしまう」
「…」
「アルフェラッツ様、見てください。これ持ち帰ってもいいって、ダビーさんが言ってくれました」
私は収穫した数種類のハーブの束を持っていった。
「よろしいでしょうか? 」
「ああ、もちろん。ダビーがいいと言ったなら…」
「ありがとうございます。タッジーマッジーにして飾っておこうかな」
「タッジーマッジー? 」
「はい。ハーブを使った小さな花束のことで、病気や厄除けに使うものです。家に飾ったり身につけたりするんですよ」
「へえ」
「そうだ。ギエナ様にも作ってあげよう。いいですよね、ルクバート様」
「ああ。ギエナも喜ぶだろう」
「ギエナとは、ギエナ・ボティス嬢? 」
「そう。エルラ嬢と一緒に、うちで淑女教育の真っ最中のご令嬢だよ。なんたって三大公爵家の血筋だし、器量もなかなかですよ、アルフェラッツ様」
ルクバート様が冗談めかした口調でにやりと笑った。
「ルクバート様ってば…」
ギエナ様の気持ちに気づいてないのかな。
「そういえば、もうすぐ恒例の、王宮での夜会がある。主な公爵家、伯爵家には招待状が送られるから、そのギエナ嬢と、それから、エルラもぜひ」
えっ、えーっ! 王宮の夜会なんて、私、大丈夫かなぁ~。




