桜が舞うその季節に
2017年に書いた拙い文書をそのまま掲載してます
彼女はその小さな両手で地面を掘っていた。
「……もう諦めなよ」
「……………」
手が汚れて、爪がボロボロになっても掘り続ける彼女を見ていられなくて、僕は堪らず声をかけた。
「そこには何もないんだよ」
僕の声を無視して少女は続ける。一体そこに何があるというのだろうか。いくら掘っても、何も埋まっているはずないのに。
「……………」
僕は少女のそばに寄り、彼女と同じようにしゃがんでみた。穴は僕の顔くらいの大きさだ。
「もう、やめなって」
少し強めに言うと少女は首を横にふった。やっと僕の声に反応してくれた。少女は汚れた手で顔をこする。どうやら泣いてるようで、彼女は赤い目をしていた。そんな顔をされちゃ、僕はこれ以上何も言えない。困ったなぁ。
僕は少女をとめられない。空を仰げば
「………君、猫は好きかい?」
反応なし。けれど彼女の手は止まっていた。
「じゃあ、花は?」
コクリ。少女は頷く。そして僕の方を見てポツリと言った。
「……さくらが好き」
そう、と短くかえして僕は立ち上がる。
それから両手をポケットから出して、握っていた手を彼女の頭の上で開いた。
「僕も好き。だって―――が好きだったから」
僕の手から優しい色の花びらが舞う。少女は大きな目をさらに開いて驚いている。
「君に返すよ」
笑う僕とは反対に彼女は泣いた。僕は最初から土の中に何も埋まっていないことを知っていた。本当は彼女が何故、何も埋まっていない地面を掘っていたか僕は分かっていた。
もう君の背には届かないけど、せめて願うくらいは許されるよね。
どうか、お元気で。
桜が舞う。その季節に、僕は君とさよならした。