みゅうチュウバー
秋吉相太…日雇い派遣で知り合った20代の男だ。
これで声優…芸能人である。が、事務所に所属出来たとしても、生活が出来るようになるのは大変らしく、繋ぎ仕事で日雇い派遣をしていた。
が、確か、深夜アニメの主役に抜擢されたはずだ。
茶の間の障子戸を閉めてクーラーを入れた。
秋吉は、親戚か何かのように家に馴染んでいる。
私は、麦茶を取りに台所へ向かうと秋吉もついてくる。
「座っていろよ。」
と、私が言うと人懐っこそうに秋吉はじゃれてくる。
「や、大丈夫ですよぅ。俺、やりますから。池上さんは先輩なんですから、ゆっくりしてくださいよ。」
と、言われて違和感を感じる。私からしたら、秋吉は客である。
「いや、君は客なのだから…」
と、言葉を終わらせる前に玄関が開いて、近所の子供達の声がした。
「い、け、がみ、さーん。あそぼ。」
なんだか、恥ずかしくなるが、ここは近所の子供達のたまり場になっている。
数年前、私が昏睡状態に陥ってる間、この家を守ってくれたのは子供達だった。
勝山先生が近所の神主さんと近所の子供の面倒を見ていたこともあり、私もこの家で共働き等で両親の帰りが遅くなる子供の面倒をみるのを手伝ったりしていた。
それで、なついた子供達が、私の意識が戻るまで家をそのままにして欲しいと学校や役場などにお願いしてくれた。
それで、大人が動いてくれた。ここは期限付きで保護され、その間、子供の避難場所の機能も加わっている。
子供は食べ物を持ちより、宿題をしたり遊んだりする。
私は、勝山先生の資料を整理しながら、今後の自分の進路を考える事になった。
「あ、相太だ!」
と、暖人が叫ぶ。
「こら、年上には『さん』をつけろと言われただろ?」
秋吉は、慣れた様子で子供と群れていた。
それを見つめながら、私がいない間、本当に、秋吉がこの家を守ってくれていた事を実感する。
「せんせい…麦茶、私が入れるよ?」
女児の声にふる向くと、小5の結衣だ。
彼女は超会長の孫娘で、皆の世話をしてくれた。
「ありがとう。では、2人でやろう。」
私と結衣はコップを用意し、隣の家の小5の健太が親から持たされてきた、大学芋を皿に盛り付けた。
それから、秋吉のアイドル的な才能に驚嘆し続けた。
秋吉は、やってきた子供達を夢中にし、そして、やってきた保護者の気持ちも奪っていった。
子供達は、ハーメルンの笛に操られるが如く、宿題を済ませ、そして、楽しく遊んだ。
秋吉は、その中心で太陽のように笑っていた。
その明るい雰囲気を、一人の少年のお願いが破るまで。
「ねえ、怖い話をして。」
ヒグラシが悲しく鳴く夕暮れに、その台詞は静かに闇を誘って行く…
「うん、聞きたい。」
暖人に皆が同意する。
夏の終わりに…それはお約束の事のように思えた。
「眠れなくなるよ?」
秋吉は困ったように子供達をみる。
子供達は、その言葉に不安を感じたように秋吉に近づき、それでも話を聴くスタンスを崩しはしなかった。
「わかったよ。じゃあ、昔話をしよう。」
秋吉の声が、ショービジネス用の声に変わる。
子供達は、興味半分、失望半分といった雰囲気で秋吉をみる。
「昔話ぃ〜」
不満げな子供の声に、秋吉は苦笑で返した。
「昔話、それはね、ただの空想じゃないんだ。
空想もあるけれど、中には、本当にあった惨劇から生まれた話もあるんだよ。」
秋吉の放つ、その言葉は、強烈に子供達の心をつかんだ。
いい雰囲気で、闇が部屋の中に積み重なって行く。
私は、大学芋を摘まみながら明かりをつけるべきか迷った。
やはり、怪談は雰囲気が大切だ。
私は部屋のすみにより、プロの声優と言うものを観察する事にした。
秋吉は演る気になっているようだ。
私は、残りの大学芋を独り占めをしながら見物をする。
秋吉は言った。
「じゃあ、取って置きの昔話をしよう。
これはね、富山県のお話なんだ。」
秋吉はそう言って話始めた。