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怪談  作者: ふりまじん
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残暑


穏やかな夏の夕暮れだった。

打ち水をした庭を見るため、久しぶりに庭の戸を全開にした。


ヒグラシの悲しげな鳴き声が、夏の終わりを予感させる。

カタ、カタ、と、たどたどしい音をたてながら扇風機か首をふる。


ここは東京の下町。しかし、タイムトリップしたような、昭和の世界がそこにあった。

近所から貰った枝豆に、ノンアルコールのビールを開ける。


ぷしゅ…涼やかな音が耳に心地よい。


本物のビールなら…なお良かったな。


枝豆を食べながら、ボヤきたくなるが仕方ない。

何しろ、私は、定職をもたない気楽な身分で、しかも、家賃も食費もほぼ無料で、東京都内で気楽に生きていられるのだから。


私の名前は池上(いけがみ)透也(とうや)

長く勤めた製薬会社を早期退職して、現在…


自分の事を考えると、恥ずかしさの混ざる困惑した気持ちになる。


現在、住んでいるこの家は虫仲間で先輩の勝山隆(かつやまたかし)先生の家である。


なぜ、先輩の家に独り暮らしをしているのかと言うと、なんとも小説のような奇想天外な話になり、人に説明するのが難しい。


数年前、会社の意向で早期退職者を募集していた。

東北出身の長男の私は、実家に帰ることを考えていた。

山登りと昆虫採集が趣味の私は、その趣味に稼ぎをつぎ込んで貯金は少なかったが、人脈と体力はあった。

困っている所に相談にのってくれたのが勝山先生だ。


勝山先生は、主に都会に生息する昆虫の研究で、この界隈で有名な方で、先生の研究資料は、地味ではあるが、個人的に貴重なものだと考えている。


そんな先生が突然、他界した。

私は、資料を相続する事になり、その整理も兼ねてこの家を三回忌まで無償で借り受ける事になる。


ここまででも、なんだか安いドラマのような感じなのだが、その上、私は日雇いの作業中、不慮の事故で数年、意識不明で寝込んでしまう…


まるで、インチキ動画のびっくり話みたいだよな…

ビールを飲みながら、少し蒸し暑い東京の空を眺める。

現在、この家に住んでいられるのは、地域の様々な人達が助けてくれたからだ。

特に、この家を遊び場に来ていた子供達が、私の帰る場所を守るために頑張ってくれた。

先生や役所にお願いをしてくれ、神主で虫仲間や、地域の人達も動いてくれた。

事故で昏睡状態と言う、ドラマチックな身の上も手伝って、勝山先生の息子さんのご厚意と、子供の居場所として役所からの支援を受けて私は、やりかけの仕事が片付き、私の気持ちが整理できるまでの時間を貰えた。


が、子供達がいつ来ても構わないように、夜、10時までは酒は飲まない事に決めていた。


夏休みと言うこともあって、共働きの子供達が来る時刻だ。


そんな事を考えていると、玄関の引き戸が開く音がした。

が、玄関から私を呼ぶ声は…可愛らしい子供の声ではなかった。


随分と連絡の無かった日雇い派遣の同僚の、無駄に通る…美声だ。


秋吉相太(あきよしそうた)。自称声優である。

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